希望と絆

いま,日本を問う

命への無関心,平和からの後退が進む日本で,私たちがすべきこととは.希望ある社会をめざすメッセージ.

希望と絆
著者 姜 尚中
通し番号 763
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2009/07/07
ISBN 9784000094634
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 56頁
在庫 品切れ
個人がむき出しでリスクを背負わされ,一人ひとりの命への無関心がはびこる日本.国際社会のなかで,安全と平和について後ろ向きの対応しかできない日本──.いまこそ,小さな声に耳を傾け,人間としての「正当性」を問いつづけなければならない.希望ある社会のため,次世代へつなぐメッセージ.

■著者からのメッセージ

もっとも大切な人間の生命に対する畏敬の念が薄れ,自分たちと同じ国民であり仲間である人々が毎年(自殺で)三万人以上死んでも,それをほとんど大きな問題とせず,無関心に過ごしている.にもかかわらず,一方では国家や,国益というものが,後生大事なものとして声高に叫ばれている.これは,歪な現象です.この虚ろなナショナリズムは,まさに「国民なきナショナリズム」です.
 いま,われわれは自分のことで精一杯,自分のことしか考えられません.他者がどのように呻吟し,どのような痛手を負っているかということに,なかなか目配りをできないでいます.その挙句,われわれは,「どうぞ死ぬならご自由に.そのかわり,他人に迷惑をかけないように死んでください」というメッセージを,暗黙裡に出しているのではないでしょうか.ある新聞には,死ぬときには人を巻き込まずに死んでほしい,としか解釈できないような論説が載っていました.
 「見捨てられている」と感じる人々が増えています.自分は見捨てられていないという意識があれば,そう簡単に悲劇的な最後の選択をすることはないのではないでしょうか.人と人とを結びつける絆が傷んでいる.だからこそ,見捨てられていると感じる人々が増えている.これは,やはり社会が傷んでいることにほかなりません.
 では,社会とは何か.いろいろな定義があるでしょうが,ひと言で言えば,「絆によって結びついた人々の支え合いの仕組み」です.人と人とが支え合わなければ,個人は生きられません.
(本書「第一章」より)
第一章 絆の傷んだ時代に
  「地域」から日本を考える/自分の「郷」への思い/命をつなぐ,ライフリンク/一年間に三万人が自殺する国で/「正直者がバカを見る社会」/一人では生きられない/薬物中心の治療への疑問/一卵性双生児,韓国と日本/絆が傷み,社会が傷んだ/非常識が常識に

第二章 平和のために日本ができること
  オバマの核軍縮宣言/日本の核をめぐる動き/私にとっての韓国,北朝鮮/日朝平壌宣言の背景/北朝鮮の「飛翔体」/アメリカの選択/北朝鮮を「知る」ことの必要性

第三章 正当性を問い,希望を語る
  言いたいことが言えなくなる危険性/問題にすべきは「正当性」/「チェンジ」の歴史はめぐる/常識からみて正当かどうか/希望のある社会のために
姜 尚 中(カン サン ジュン)
1950年,熊本県生まれ.早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了.東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授.専攻は政治学・政治思想史.著書に『マックス・ウェーバーと近代』『オリエンタリズムの彼方へ』(岩波現代文庫),『ナショナリズム』(岩波書店),『暮らしから考える政治』(岩波ブックレット),『東北アジア共同の家をめざして』(平凡社),『日朝関係の克服』『姜尚中の政治学入門』『ニッポン・サバイバル』『悩む力』(集英社新書),『在日』(集英社文庫),『愛国の作法』(朝日新書)他多数.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2009年12月12日
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