アジアのなかの日本映画

日本映画の躍進が目覚ましい.過去からの人材の交流,表現の変遷に着目,アジア的視野に立つ新しい映画史.

アジアのなかの日本映画
著者 四方田 犬彦
ジャンル 書籍 > 単行本 > 芸術
刊行日 2001/07/26
ISBN 9784000220033
Cコード 0074
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 312頁
在庫 品切れ
日本映画はいま各国との共同製作,人材交流がダイナミックに進み,従来の枠組みを超えた新しい表現が生まれてきている.遡って戦前からの作品に見られる沖縄や在日韓国人など「外部」をめぐる表象やアクション映画,メロドラマの広がりを読み解くことで,どのようなアジア映画世界の乱反射が見えるか.新しい日本映画史への接近!

■著者からのメッセージ

A(エース)の錠の越境 四方田犬彦

 小学校の卒業文集で「尊敬する人」という欄に「宍戸錠」と書いて以来,A(エース)の錠はわたしの守護聖人であり,映画観の中心にいるべき存在であった.わたしは映画観のみならず,人生観,女性観の点で多くを日活アクションに負っているような気がしている.

 日活のギャング映画や青春映画はこれまであまりにも過小評価されていたと思う.ハリウッドに範を仰ぎ,スタジオシステムのなかで大量生産されたこれらのフィルムには,「作家性」も「芸術性」も認められないというのが,多くの評論家の態度だった.わたしは長い間,それは違うのではないかと思ってきた.日活アクションはパリのヌーヴェルヴァーグと同時期の現象であって,トリュフォーは裕ちゃんの『狂った果実』に嫉妬することから,映画を撮りだしたのである.ひとたびアジア映画史に踏み込んでみると,いたるところに日活の影響が認められる.香港でも,台湾でも,韓国でも,あるときまで日活映画はお手本だったのである.そこから香港ノワールが登場し,現在のハリウッドを活性化していることは,いうまでもない.

 こうした歴史的経緯を辿ろうとしたのが本書である.当然のことながら,表紙はAの錠しかない.直接本人に連絡をとると,簡単にGOサインがでた.

 「拳銃(コルト)は俺のパスポート」とは,彼の代表作の題名である.そう,まさに拳銃一丁をもって,彼の身体は映画史のなかを横断し,今日にいたるまで越境を続けているのだ.
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