アウト・オブ・コントロール ネットにおける情報共有・セキュリティ・匿名性

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著者からのメッセージ

大谷卓史
 ウィニーやユーチューブ,2ちゃんねるはご存知でしょうか? これらのインターネット上のサービスは熱狂的な支持者がいる一方で,困りものだという人も少なくありません.また,インターネットの匿名性は犯罪や迷惑行為を助長するという意見に対しては,匿名性こそが私たちの自由を保証するという熱心な擁護論もあります.利用者がウィニーを悪用したら,作者に責任があるという判決が最近出ました.この判断は本当に正しいのでしょうか? さらに,情報技術による安全・安心のための監視技術は必要だという声がある一方で,深刻な人権侵害の危険性も指摘されています.
 インターネットを勝手気ままに流れる情報や跋扈する匿名の人びとは,まるで制御不能であるかのように見えます.それらを押さえ込もうと,法律や技術などのさまざまな手段が動員されていますが,これは行き過ぎると,文化的創造性やさまざまな自由をもしぼませてしまうかもしれません.セキュリティと自由や創造性を両立させるには,どんな法律・ルールや技術が必要なのでしょうか?
 本書では,情報技術をめぐるさまざまな事件や社会問題について,情報倫理学や科学技術史の知識や考え方を使って,法律の整備や技術開発の方針づくりに役立つ根本的な考え方を提供したいと思っています.あらゆるコントロールから逃れるかのような情報技術と私たちはどのようにつきあっていくべきかいっしょに考えましょう.


著者略歴

大谷卓史(おおたに たくし)
1967年千葉県生まれ.吉備国際大学国際環境経営学部准教授.専門は情報倫理学と科学技術史.千葉大学大学院文学研究科修士課程修了後,情報系出版社の編集者,フリーのサイエンスライター,東京大学大学院工学系研究科博士課程を経て現職.共著書に『P2Pがビジネスを変える』(翔泳社,亀井聡,高橋寛幸との共著),共訳書にヴィクター・J.カッツ『カッツ 数学の歴史』(共立出版,上野健爾・三浦伸夫監訳)など.


目次

はじめに
第1章 ウィニー――何が問題とされたのか?
  「47氏」の挑戦――ウィニーはいかに生まれたか?
  ファイル共有ソフトとは何か?/ウィニーの降臨/Winny ver.1からver.2へ/使っても足がつかないファイル共有ソフト――ウィニーが歓迎されたわけ
2  ファイル共有ソフト,社会問題になる
  ファイル共有ソフトは,著作権侵害と児童ポルノの温床か?/プロバイダの経営を直撃したファイル共有ソフト/情報漏えいがとまらない
3  逮捕そして有罪の衝撃
  ウィニー利用者,逮捕される/ウィニー開発者逮捕の衝撃/それでも止まらない情報漏えい/有罪判決は問題を解決したのか?/47氏は「IT思想犯」だったのか?
第2章 ウィニーは悪なのか?――インターネットの可能性の極限に向けて
1  P2Pとは何か
  ウィニーを例にファイル共有ソフトの使い方を知る/ファイル共有の基本的なしくみ
2  どうしてウィニーは著作権侵害の道具となってしまったのか?
  ファイル共有ソフトの利用はどうして著作権侵害となるのか?/ウィニーはどうやって通信を秘匿しようとしたか?/ウィニーの通信は本当に秘匿されていたのか?――脆かった秘匿化のしくみ/ウィニーでダウンロードするだけならば,本当に著作権侵害に当たらないのか?
3  どうしてウィニーは情報流出を招いたのか?
  ウィニー利用者の危険な行動パターン/自覚のないまま情報が放流される
4  インターネットの可能性の極限に向けて
  インターネットの本来の役割は情報共有である/情報を隠し,コントロールするという新しい欲望/ウィニー――情報共有・公開の極限に向けて
第3章 ウィニーの情報所有論
1  インターネットの所有とコモンズ
  コモンズの悲劇/ネットワーク帯域というコモンズ
2  コモンズvs私有財産――インターネットの帯域問題
3  著作権の哲学――著作権の倫理学・哲学的基盤はあるか?
  著作権制度は何を目指していたのか?/表現を越えて,知識や情報は所有できるのか?/著作権は制限されるか?/著作者人格権の問題/創造のインセンティブは経済的利益だけか?/著作者の権利とは何か?
4  政治・経済システムの中の著作権
  新メディアの登場と著作権制度(1)――レコード・自動ピアノ/新メディアの登場と著作権制度(2)――ラジオ放送/米国におけるP2Pファイル共有ソフトをめぐる政治と司法/現代において均衡ある著作物の流通システムの構想は可能か?
5  著作権のゆくえ――現代における流通コントロール
  「私的複製」は消え去るのか?/著作権制度のゆくえ
第4章 <匿名性>をどう考えるか
  議論の焦点となる匿名性
1  インターネットは匿名の世界なのか?
  実名から匿名・実名混在の世界へ/インターネットはどこまで匿名なのか?
2  匿名性とは何か?――「到達困難性としての匿名性」と「印象操作のための匿名性」
  匿名性の3要素――連結困難性・観測困難性・文脈依存性/到達困難性としての匿名性/印象操作のための匿名性/二つの匿名性の意義/自律のための匿名性
3  匿名性の可能性と限界――自由と専制
  匿名コミュニケーション批判への反論/匿名コミュニケーションが他者の自由を侵害する/匿名言論は公共圏を破壊するか?/権力の源泉としての匿名性/匿名性の両義的性格
4  親切な監視――見守り型監視の根拠と限界
  統制の監視と配慮の監視/配慮の監視の技術/配慮の監視に必要な信頼関係/匿名性と両立する監視メカニズム/再犯予防のための監視の条件/「ネットID」への連結困難性の導入
5  秘密のない世界は必要か?
おわりに
  「著作権法違反幇助」への違和感/ウィニーの<著者>とは誰だったのか?/技術の大きな力をどう制御するか?/著作権制度への挑戦は悪なのか?/何が本当に守るべき価値なのか?
    参考文献




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