アキハバラ発 〈00年代〉への問い

秋葉原の殺傷事件は何を問うているか.大澤真幸,森達也,東浩紀,平野啓一郎,本田由紀,斎藤環ほか.

アキハバラ発 〈00年代〉への問い
著者 大澤 真幸
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2008/09/26
ISBN 9784000220477
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 250頁
在庫 品切れ
秋葉原でおきた殺傷事件.「犯行は許せないが犯人の心情に共感する」という同世代の声にどう向き合うか.非正規雇用の拡大やコミュニケーションの変容など〈00年代〉の社会状況に位置づけたとき,この事件は何を問うているか.大澤真幸,森達也,東浩紀,平野啓一郎,本田由紀,斎藤環,内田隆三ほか,第一線の論者の発言.


■著者からのメッセージ
 個別の出来事が個別の出来事以上のものになることがある.直接には少数の人がかかわっただけの特異な出来事が,その特異性を維持したまま,その出来事が属する〈現在〉の全体を圧縮して代表することがある.日本の戦後史から例をとれば,連合赤軍事件がそのような出来事だったし,オウム真理教事件もそうであった.
 2008年6月8日の日曜日に,25歳の青年Kは,東京の秋葉原で,17人を次々と殺傷した.Kは,歩行者天国にトラックで突進し,すぐにトラックを降り,ダガーナイフを用いて,出会った人を無差別に刺したのだ.この事件もまた,おそらく,出来事以上の出来事,〈現在〉の全体を写し取る出来事のひとつになることだろう.
(中略)
 秋葉原のこの事件のような「出来事以上の出来事」に立ち会った者は,そこに影を落としている〈現在〉とは何かを自覚にもたらし,その〈現在〉の輪郭を明確にすることを,まさにその〈現在〉の同時代人としての務めとすべきではないだろうか.この「出来事以上の出来事」が何であるかを,それがなぜ〈現在〉性を映し出すほどの共感や反感をもたらしているのかを,できうる限り対自化することは,〈現在〉の同時代人の――少しばかり大げさに言えば――人類に対する,あるいは歴史に対する義務である.
大澤真幸
(本書「はじめに」より)
はじめに 大澤真幸

 I
真夏の秋葉原を歩いて,
 ここには本質など何もないと気づいた ……………………………… 森 達也
「排除」のベルトコンベアとしての派遣労働 ……………………… 竹信三恵子
孤独ということ――秋葉原事件を親子関係から考える ………………… 芹沢俊介
若者を匿名化する再帰的コミュニケーション ………………………… 斎藤 環
街路への権利を殺人者としてではなく
 民衆として要求しなければならない …………………………… 和田伸一郎
 コラム
 追い詰められた末の怒りはどこへ向かうのか …………………… 雨宮処凛
 K容疑者と生活困窮者の間 ……………………………………… 湯浅 誠

 II
◎インタビュー
「私的に公的であること」から
 言論の場を再構築する …………………………………………… 東 浩紀
存在論的な不安からの逃走 ……………………………………… 土井隆義
 ――不本意な自分といかに向き合うか――
事件を語る現代――解釈と解釈ゲームの交錯から …………………… 佐藤俊樹
無差別の害意とは何か ………………………………………… 中西新太郎
極端現象か,場所の不安なのか …………………………………… 内田隆三
 ――秋葉原殺傷事件の社会学的前提を考える――
 コラム
 劇場型犯罪の果て ………………………………………………… 速水健朗
 主客再逆転の秘義 ………………………………………………… 永井 均

 III
世界の中心で神を呼ぶ――秋葉原事件をめぐって …………………… 大澤真幸
事件を「小さな物語」に封じ込めてはならない ……………………… 吉岡 忍
なぜKは「2ちゃんねる」ではなく
 「Mega-View」に書き込んだのか? ……………………………… 濱野智史
 ――2000年代のネット文化の変遷と臨界点をめぐって――
孤独であることの二つの位相 ……………………………………… 浅野智彦
 コラム
 この20年で私たちが学んだこと …………………………………… 伊藤 剛
 〈この手の事件〉のたび私が思う漠然としたこと ………………… 岡田利規

 IV
◎座談会
〈承認〉を渇望する時代の中で ………… 大澤真幸,平野啓一郎,本田由紀
 執筆者紹介


大澤真幸(おおさわ まさち)
1958年生まれ.京都大学大学院人間・環境学研究科教授.比較社会学,社会システム論.著書に『不可能性の時代』(岩波新書),『〈自由〉の条件』『ナショナリズムの由来』(以上,講談社)など多数.

森 達也(もり たつや)
1956年生まれ.映画監督,ドキュメンタリー作家.映画『A』『A2』,著書に『死刑』(朝日出版社),『悪役レスラーは笑う』(岩波新書),『下山事件(シモヤマ・ケース)』(新潮文庫),『放送禁止歌』(智恵の森文庫)など多数.
公式ウェブサイト http://moriweb.web.fc2.com/mori_t/index.html

竹信三恵子(たけのぶ みえこ)
1953年生まれ.朝日新聞記者.著書に『ワークシェアリングの実像』(岩波書店),『「家事の値段」とは何か』(岩波ブックレット),『女の人生選び仕事,結婚,生きがい』(はまの出版)など.

芹沢俊介(せりざわ しゅんすけ)
1942年生まれ.評論家.著書に『もういちど親子になりたい』(主婦の友社),『母という暴力』(春秋社),『「新しい家族」のつくりかた』(晶文社)など多数.

斎藤 環(さいとう たまき)
1961年生まれ.精神科医.著書に『文学の断層セカイ・震災・キャラクター』(朝日新聞出版),『母は娘の人生を支配する』(日本放送出版協会),『戦闘美少女の精神分析』(ちくま文庫),『心理学化する社会』(PHPエディターズ・グループ)など多数.

和田伸一郎(わだ しんいちろう)
1969年生まれ.中部大学専任講師.メディア論,哲学.著書に『存在論的メディア論』(新曜社),『メディアと倫理』(NTT出版),論文に「民衆に政治をできなくさせる置き換えの手法について」(『思想』岩波書店),「フリーターにとって〈デモクラシー〉とは何か」(『RATIO』講談社)など.

雨宮処凛(あまみや かりん)
1975年生まれ.作家,プレカリアート活動家.著著に『雨宮処凜の闘争ダイアリー』(集英社),『プレカリアート』(洋泉社新書y),『生きさせろ!難民化する若者たち』(太田出版),『全身当事者主義』(春秋社),『信号機の壊れた「格差社会」』(共著,岩波ブックレット)など多数.

湯浅 誠(ゆあさ まこと)
1969年生まれ.反貧困ネットワーク事務局長,NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長.著書に『反貧困』(岩波新書),『貧困襲来』(山吹書店),『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文舘出版)ほか.

東 浩紀(あずま ひろき)
1971年生まれ.批評家.著著に『存在論的,郵便的』(新潮社),『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上,講談社現代新書),『文学環境論集東浩紀コレクションL』『情報環境論集東浩紀コレクションS』『批評の精神分析東浩紀コレクションD』(講談社BOX)など.

土井隆義(どい たかよし)
1960年生まれ.筑波大学大学院人文社会科学研究科教授.社会学.著書に『友だち地獄』(ちくま新書),『「個性」を煽られる子どもたち』(岩波ブックレット),『〈非行少年〉の消滅』(信山社出版)など.

佐藤俊樹(さとう としき)
1963年生まれ.東京大学大学院総合文化研究科准教授.比較社会学,日本社会論.著書に『桜が創った「日本」』(岩波新書),『不平等社会日本』(中公新書),『00年代の格差ゲーム』(中央公論新社)など多数.

中西新太郎(なかにし しんたろう)
1948年生まれ.横浜市立大学国際総合科学部教授.社会学,現代日本社会論.著書に『若者たちに何が起こっているのか』(花伝社),『思春期の危機を生きる子どもたち』(はるか書房),『情報消費型社会と知の構造』(旬報社)など.

内田隆三(うちだ りゅうぞう)
1949年生まれ.東京大学大学院総合文化研究科教授.社会理論,現代社会論.著書に『ベースボールの夢』(岩波新書),『国土論』(筑摩書房),『探偵小説の社会学』(岩波書店)など多数.

速水健朗(はやみず けんろう)
1973年生まれ.フリーランスライター,編集者.著書に『ケータイ小説的.』(原書房),『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書),『タイアップの歌謡史』(洋泉社新書y)ほか.

永井 均(ながい ひとし)
1951年生まれ.日本大学文理学部教授.哲学.著書に『なぜ意識は存在しないのか』(岩波書店),『西田幾多郎――「絶対無」とは何か』(日本放送出版協会),『翔太と猫のインサイトの夏休み――哲学的諸問題へのいざない』(ちくま学芸文庫),『〈私〉のメタフィジックス』(勁草書房)など多数.

吉岡 忍(よしおか しのぶ)
1948年生まれ.ノンフィクション作家.著書に『M/世界の,憂鬱な先端』(文春文庫),『墜落の夏 日航123便事故全記録』(新潮文庫),『放熱の行方 尾崎豊の3600日』(講談社文庫)など多数.

濱野智史(はまの さとし)
1980年生まれ.株式会社日本技芸リサーチャー.情報環境研究.主な論文に「Googleを攻略せよ」(『Mobile Society Review未来心理』モバイル社会研究所),「梅田望夫と西村博之の・思想・を比較する」(『PLANETS』第二次惑星開発委員会)など.

浅野智彦(あさの ともひこ)
1964年生まれ.東京学芸大学准教授.社会学,自己意識論,社会意識論.著書に『自己への物語論的接近』(勁草書房),『検証・若者の変貌』(編著,勁草書房),『図解 社会学のことが面白いほどわかる本』(中経出版)など.

伊藤 剛(いとう ごう)
1967年生まれ.マンガ評論家,編集者,鉱物愛好家.著書に『テヅカ・イズ・デッドひらかれたマンガ表現論へ』(NTT出版),『マンガは変わる』『マンガを読む』(以上,青土社)など.

岡田利規(おかだ としき)
1973年生まれ.劇作家,演出家,小説家.劇団チェルフィッチュ主宰.著書に『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(新潮社),『三月の5日間』(白水社).

平野啓一郎(ひらの けいいちろう)
1975年生まれ.作家.著書に『日蝕』『一月物語』『葬送』『決壊』(新潮社),『ディアローグ』『モノローグ』(講談社)など多数.

本田由紀(ほんだ ゆき)
1964年生まれ.東京大学大学院教育学研究科准教授.教育社会学.著著に『軋む社会』(双風社),『「家庭教育」の隘路』(勁草書房),『多元化する「能力」と日本社会』(NTT出版),『若者と仕事』(東京大学出版会),『「ニート」って言うな!』(共著,光文社新書)など

書評情報

信濃毎日新聞(夕刊) 2008年11月7日
朝日新聞(朝刊) 2008年11月2日
週刊読書人 2008年10月31日号
週刊文春 2008年10月30日号
新文化 2008年10月16日号
山形新聞(朝刊) 2008年10月12日
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