新しい広場をつくる

市民芸術概論綱要

社会における芸術・文化の役割を深く問い,包摂する力を生み出す「新しい広場」の青写真を描くエッセイ.

新しい広場をつくる
著者 平田 オリザ
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2013/10/17
ISBN 9784000220798
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 262頁
定価 2,310円
在庫 在庫あり
ある種の芸術になぜ助成金を出すのか.経済政策では解決しきれない停滞のなかでどう生きていくのか.被災地が復興し,疲弊した地方が自立するためには何が必要か.社会的弱者,文化資本の地域間格差など,諸問題に芸術・文化が果たす役割を深く問い,社会的包摂を生み出す「新しい広場」の青写真を描く文化論的エッセイ.

■編集部からのメッセージ

昨年,大阪市長が文楽への補助金凍結を表明し,大きな話題となりました.「そもそも政治が文化を支援するなんて変じゃないか」と考えた人も少なくなかったことでしょう.ここでは本質的なことが問われていると平田さんは考えます.芸術に関わる者は,なぜある種の芸術分野に公的な支援が必要なのか,より明確に市民に示さなければならない――本書はここから出発し,社会における芸術・文化の役割とは何かを考えてゆきます.
 なかでも重要な問題は,文化資本の地域間格差.一昨年の震災・原発事故を通して,人や物資の流れの面で首都圏と地方との間にある依存関係,非対称性があらわになりました.「国土の均衡ある発展」という戦後の標語が生み出したものは,いったい何だったのか.問われる文化の自己決定能力について,本書は理念のみならず,国内外を飛び回ってきた経験をもとに,各地の現場で胎動する試みも紹介しながら,その可能性を模索していきます.
 明治と昭和の津波の間,東北が貧困にあえいだ時代に生きた宮沢賢治は,農民もまた文化的な主体でなければならないと宣言しました.

   職業芸術家は一度亡びねばならぬ
   誰人もみな芸術家たる感受をなせ
   個性の優れる方面に於て各々止むなき表現をなせ
   然もめいめいそのときどきの芸術家である
(「農民芸術概論綱要」)

 そして賢治を題材にした井上ひさしの名作「イーハトーヴの劇列車」では,賢治に扮した農民がこう言います.

「ひろばがあればなあ,どこの村にもひろばがあればなあ.村の人びとが祭りをしたり,談合をぶったり,神楽や鹿踊をたのしんだり,とにかく村の中心になるひろばがあればどんなにいいかしれやしない」

 思えば広場のなかった日本に,鑑賞だけではなく自ら参加し交流する文化の場,創造と発進の拠点をどのように作るか.生活や社会における芸術の役割を考え実践した巨人の精神的系譜に連なりつつ,深く考えること――これが本書のタイトルの由縁です.
まえがき

第一章│芸術そのものの役割
公共財としての芸術/緩慢なる文化破壊/ルワンダ/文楽問題/文楽は必要か?

第二章│コミュニティの維持,再生のための芸術の役割
なぜ芸術が続いてきたのか?/女川の獅子舞/ゲラダヒヒのコミュニケーション/人間は演じ分ける生き物である/画一化する地方都市の風景/地方という幻想/地方は無駄を許容できない/エリート層にも広がる文化の地域間格差/文化資本/文化格差を超えて/青少年の凶悪犯罪がなぜ地方に拡散するのか/渋谷/渋谷の街の結末/コミュニティスペースとしての図書館/引き続き渋谷について

第三章│新しい広場を作る──文化による社会包摂
「広場」について/重層性のある社会/非日常の空間/ホームレスプロジェクト/空席を利用する/紙芝居劇団「むすび」/文化による社会包摂

第四章│文化の自己決定能力
文化による都市の再生─ナントモデル/大阪病/USJとディズニーランドの違い/天満天神繁昌亭/水都大阪2009/博覧会から芸術祭へ/金沢21世紀美術館/成功の秘密/もう一回券/八戸・ポータルミュージアム「はっち」/ナイトカルチャー/富良野/観光地富良野の誕生/芦別/ソフトの地産地消/被災地の自立/上り列車に乗っての進学/付加価値を付ける教育/ふたたび賢治について

第五章│憲法について
憲法第二十五条/健康・経済・教育/「文化」はどうだろう?/芸術は生き死にの問題か/芸術保険制度を/社会権的基本権の変遷/芸術保険制度は夢か?/人間の安全保障/日本国憲法というソフトパワー

第六章│社会における劇場の役割
社会における劇場の役割/貸し館事業/学習(鑑賞)事業/交流事業/市民参加型舞台の功罪/創造・発信事業/バランスのとれた劇場経営/フランスの劇場経営/creation(創造事業)の仕組み/富士見市/障害者向け事業/コバンザメ作戦/市民の意識の変化/劇場は生きている/劇場職員の仕事/創造活動に向かって/太田省吾さんの思い出

第七章│劇場法と,その先へ
劇場法/法律は必要か?/劇場支援か劇団支援か/劇場の階層化/劇場の観客を増やす/支援会員制度/演劇の質を上げるために/芸術家は,劇場を私物化するのか?/芸術監督を育てる/なぜ劇場法だったのか?/アウェイで闘える演出家を作る/法律を作るということ/劇場法制定の過程で/前文/アーツカウンシル

第八章│stateになるために
文明と文化の違い/文化の違いは善し悪しではない/なぜ新幹線はなかなか輸出されないのか?/新幹線と原発/最大の中堅国家として/モノは人を幸せにしない/痛みとは何か/クールジャパンの功罪/文化を開く/ふたたびstate について/復興が進まない/泣くのはいやだ,笑っちゃおう

あとがき



平田オリザ(ひらた おりざ)
1962年生まれ.劇作家,演出家.劇団「青年団」主宰.1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞.2002年日韓国民交流記念事業『その河をこえて,五月』で第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞.現在,大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授,東京藝術大学客員教授.著書に『芸術立国論』(2001年,集英社新書),『演劇のことば』(2004年,岩波書店),『総理の原稿』(2011年,松井孝治氏との共著),『わかりあえないことから』(2012年,講談社現代新書),『幕が上がる』(2012年,講談社)など.

書評情報

美術手帖 2014年1月号
北海道新聞(朝刊) 2013年12月15日
日本経済新聞(朝刊) 2013年12月1日
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