伊藤博文の韓国併合構想と朝鮮社会

王権論の相克

複数の併合論が存在したこと,伊藤の併合構想が朝鮮社会に受入れられずに挫折したこと等を明らかにする.

伊藤博文の韓国併合構想と朝鮮社会
著者 小川原 宏幸
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2010/01/27
ISBN 9784000221795
Cコード 3021
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 460頁
在庫 品切れ
日露戦争から韓国併合に至る朝鮮植民地化の過程を,伊藤博文を始めとする政治家の統治構想,朝鮮半島をめぐる国際関係,朝鮮社会の三つを軸に考察した最新の研究成果.複数の併合論が存在したことや韓国皇帝の南北巡幸の分析を通して,伊藤博文の併合構想が朝鮮社会に受入れられずに挫折したことなどを明らかにする.

■著者からのメッセージ

 歴史学は,過去という他者を通して現在の自分を理解する知的営みです.したがって,自分を絶対視しては他者と対話できないように,他者を通じて常に自分を相対化し続ける覚悟があって初めて歴史学は成立するのです.他者との緊張関係のなかで自己省察を続けていくことが,いままさに私たちに求められています.
 本書では,植民地にさせられていく側,特に朝鮮民衆の視点をふまえながら,朝鮮植民地過程を描くことを心がけました.そこに明らかに生を営んでいたはずの人々の声は,か細く,かつさまざまな権力関係のなかで常に消し去られようとしてしまい,なかなか私たちの耳にまで届きません.そうした声なき人々の声を聞くために,私たちはあらゆる方法を使って想像力を鍛えていかねばなりません.そうして初めて等身大の人々と出会い,自己を見つめ直すことができるのです.
 昨今は,「わかりやすさ」が求められている時代状況です.しかし,他者と向き合うときには,安易にわかったと思わずに,そこで理解しようと身悶える過程が必要となるはずです.それでこそ自らの価値観に揺らぎが生じてくるはずです.わからないこと自体に恐れをなしてはなりません.
 現在においても,構造的な暴力の下で人々の生が脅かされています.それに無関心でいることは私たち自身が暴力を行使することに連なっていくことになります.そうした構造的暴力を解体するために私たちができることは,権力の重層関係のなかでその生を脅かされた人々の経験を学ぶことではないでしょうか.日本が歴史的にかかわり続けた他者である朝鮮の経験を通じて,読者の皆さまとともに,それを考えていけたらと思っています.

■編集部からのメッセージ

 小川原さんと初めて会ったのは,田中宏・板垣竜太(編)『日韓 新たな始まりのための20章』(2007年刊)に執筆していただくための打合せをした2006年のことでした.
 その時,「著者紹介」の中でも紹介されている論文ですが,「一進会の日韓合邦運動と韓国併合」の抜刷をいただいたので,さっそく読んでみました.これは,従来幽霊団体とも言われていた一進会の実態を史料的に裏付けながら,等身大で捉えたもので,実に興味ぶかく面白い論文でした.
 そして,小川原さんが,実は博士論文を書いているところだと言われるので,それが完成したら是非と言って読ませてもらったものが本書のもとになりました.それから,三年あまりの月日がすぎ,ようやく刊行にいたりました.
 本書は,日本の指導者層の併合構想,朝鮮半島をとりまく国際関係,そして朝鮮社会を基軸に分析しながら,複数の併合論が存在したことを明らかにした研究書です.
  1910年の日本による韓国併合から100年になる節目の年に気鋭の学究の意欲的な研究書を刊行できたのは,ずっと日朝関係に関心をもってきた者として編集者冥利に尽きることでした.小川原さんには更なる研究の深化を期待しています.
(編集部 平田賢一)
序章
 
本書の課題――韓国併合構想の再検討
 
分析視角――帝国主義研究としての韓国併合史・日朝関係史の課題
 
国際関係史研究における民衆史的視挫の導入
 
日本および朝鮮における王権観の位相

第一章 日露戦争と朝鮮植民地化の展開
 
はじめに
 
第一節 朝鮮における近代国家構想と王権観
 
第二節 日露戦争下における日本の朝鮮植民地化政策
 
第三節 韓国保護政策構想の対立――統監の軍隊指揮権問題を手がかりに

第二章 伊藤博文の韓国併合構想と第三次日韓協約体制
 
はじめに
 
第一節 皇帝権の縮小と第三次「日韓協約」の締結
 
第二節 第三次日韓協約体制の成立と伊藤博文の韓国併合構想

第三章 伊藤博文の併合構想の挫折と朝鮮社会の動向
 
はじめに
 
第一節 第三次日韓協約体制の展開と挫折――韓国司法制度改革の展開過程を事例に
 
第二節 統監伊藤博文の民心帰服策と朝鮮の政治文化――皇帝の南北巡幸をめぐって

第四章 併合論の相克
 
はじめに
 
第一節 伊藤博文の統監辞任と韓国併合をめぐる日本政府の動向
 
第二節 「日韓合邦」論の封鎖――一進会・李容九の「政合邦」構想と天皇制国家原理との相克

第五章 韓国併合
 
はじめに
 
第一節 韓国併合計画の開始
 
第二節 韓国併合の断行

終章
 
まとめ
 
課題と展望――植民地研究の自立的展開のために

 
あとがき
 
索引
小川原 宏幸(おがわら・ひろゆき)
1971年長野県に生まれる
2003年明治大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得退学
博士(史学)
現在-青山学院大学非常勤講師,千葉大学非常勤講師,明治大学兼任講師ほか
専攻-近代日朝関係史
論文-「伊藤博文の韓国併合構想と第三次日韓協約体制の形成」(『青丘学術論集』25),「一進会の日韓合邦運動と韓国併合」(『朝鮮史研究会論文集』43),「日露戦争期日本の対韓政策と朝鮮社会」(『朝鮮史研究会論文集』44),「伊藤博文の韓国統治と朝鮮社会」(『思想』1029)ほか

書評情報

図書新聞 2010年8月28日号
東洋経済日報 2010年8月20日号
朝日新聞(夕刊) 2010年3月4日
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