写真集 歌とともに生きる
中国・貴州省苗族の村
誕生の歌,恋の歌,結婚の歌,葬儀の歌.歌とともに生きる中国・苗族の人びと.誇り高きその姿を活写する
生まれたとき,恋を語るとき,客をもてなすとき,そして人生の最後を迎えるときも,村人たちが総出で歌い,送ってくれる.そんな歌とともに生きる人びと――中国貴州省の苗族に魅かれた写真家が,二十年余をかけて撮影した写真集.貧しいが働くことが好きで,何より家族を愛し,子どもたちはのびのびと学び,遊んでいる.古代に日本にもあったという男女の歌の掛け合い「歌垣」も生き生きとした姿で残っている.開放政策で急速に失われつつある中国の山村の暮らしを撮影した希有な記録.
■著者からのメッセージ
私が最初に「苗族ミャオズー」の存在を知ったのは,人類学者の鳥居龍蔵が1902年から1903年にかけて行なった西南中国の調査報告を目にした時だった.苗族は近代まで文字を持たず,親から子,子から孫へと自分たちの歴史文化を,口頭伝承として歌や語りに残してきた.
苗族の歴史は時の朝廷に対する大抵抗の長い歴史であり,戦いに幾度も敗れ,黄河から揚子江,そして西南地方へと移動せざるを得なかった.
その西南地方,貴州省黔東南チェンドンナン苗族 族自治州(黔は貴州省の別名)に暮らしている苗族は,黒い木綿の民族衣装を着ていることから,かつて「黒苗」と呼ばれ,戦闘能力に長けていた為,特に歴代王朝から恐れられていたという.取材に入る前,苗族は,少し気の荒い民族ではないかと思っていた.しかし 実際に彼らの村で,静かな生活の中に身を置いてみると,実に穏やかで優しい人々が自分達の暮らしに誇りを持って生きていた.
「何気ないふだんの生活の中にこそ苗族文化は息づいている」と実感した.この想いがこの本全体のテーマとなった.
わずか20年ほどの間に,中国の急速な近代化は苗族の暮らしも大きく変えてしまった.婦人たちが結っていた村ごとに違う髪形,髷も,藍染の黒い民族衣装も,年配の人たちが辛うじて維持している.「歌垣」も祭りの時以外ほとんど見られなくなってきた.この写真集は,私の意図とは別に,失われゆく民族文化の記録になってしまったようである.
2011年8月
写真家 田中一夫
■編集部からのメッセージ
中国・貴州省の少数民族・苗族の村に入り,村人とともに暮らし,村人に溶け込んで,中からしか撮影できない写真を撮ったのが,この本の著者・田中一夫さんです.彼は心の底から苗族の人々が好きなのです.平等で,自らの文化に誇りをもち,子どもと家族を愛し,歌を愛する人々.民族の来歴から,神話,教訓を歌にしているだけでなく,生まれたとき,客人がきたとき,恋をしたとき,結婚したとき,そしてこの世に別れを告げるときも,村びととともに歌い,踊る.それが苗族の人々です.
この写真集には,1980年代の終わり,改革開放政策が始まった直後に訪れた村で見た「歌垣」(男女がそれぞれ集団で歌を歌いあう)や村人たちの素朴な暮らしが写っています.それは,20年後のいま,近代化が進み,ほとんど見ることのできなくなった光景でもあります.この写真集は,「失われた文化」の記録でもあるのです.
■著者からのメッセージ
私が最初に「苗族ミャオズー」の存在を知ったのは,人類学者の鳥居龍蔵が1902年から1903年にかけて行なった西南中国の調査報告を目にした時だった.苗族は近代まで文字を持たず,親から子,子から孫へと自分たちの歴史文化を,口頭伝承として歌や語りに残してきた.
苗族の歴史は時の朝廷に対する大抵抗の長い歴史であり,戦いに幾度も敗れ,黄河から揚子江,そして西南地方へと移動せざるを得なかった.
その西南地方,貴州省黔東南チェンドンナン苗族 族自治州(黔は貴州省の別名)に暮らしている苗族は,黒い木綿の民族衣装を着ていることから,かつて「黒苗」と呼ばれ,戦闘能力に長けていた為,特に歴代王朝から恐れられていたという.取材に入る前,苗族は,少し気の荒い民族ではないかと思っていた.しかし 実際に彼らの村で,静かな生活の中に身を置いてみると,実に穏やかで優しい人々が自分達の暮らしに誇りを持って生きていた.
「何気ないふだんの生活の中にこそ苗族文化は息づいている」と実感した.この想いがこの本全体のテーマとなった.
わずか20年ほどの間に,中国の急速な近代化は苗族の暮らしも大きく変えてしまった.婦人たちが結っていた村ごとに違う髪形,髷も,藍染の黒い民族衣装も,年配の人たちが辛うじて維持している.「歌垣」も祭りの時以外ほとんど見られなくなってきた.この写真集は,私の意図とは別に,失われゆく民族文化の記録になってしまったようである.
2011年8月
写真家 田中一夫
■編集部からのメッセージ
中国・貴州省の少数民族・苗族の村に入り,村人とともに暮らし,村人に溶け込んで,中からしか撮影できない写真を撮ったのが,この本の著者・田中一夫さんです.彼は心の底から苗族の人々が好きなのです.平等で,自らの文化に誇りをもち,子どもと家族を愛し,歌を愛する人々.民族の来歴から,神話,教訓を歌にしているだけでなく,生まれたとき,客人がきたとき,恋をしたとき,結婚したとき,そしてこの世に別れを告げるときも,村びととともに歌い,踊る.それが苗族の人々です.
この写真集には,1980年代の終わり,改革開放政策が始まった直後に訪れた村で見た「歌垣」(男女がそれぞれ集団で歌を歌いあう)や村人たちの素朴な暮らしが写っています.それは,20年後のいま,近代化が進み,ほとんど見ることのできなくなった光景でもあります.この写真集は,「失われた文化」の記録でもあるのです.
はじめに
第1章 米の民・苗――座脚郷・反排村
第2章 蘆笙作りの名人,潘炳生の一家――新光村
第3章 歌垣に集う――凱里・香炉山
第4章 姉妹飯――施洞・革東
第5章 黄平苗の市場と翁項郷の吃新節
第6章 嫁ぐ日,旅立つ日――重安江・新寨と西江鎮・西寨
第7章 誇り高き男たちの村――沙村
解説 歌垣「心史」とともに生きる苗族――その歴史と文化 雷秀武
あとがき 苗族の30年
第1章 米の民・苗――座脚郷・反排村
第2章 蘆笙作りの名人,潘炳生の一家――新光村
第3章 歌垣に集う――凱里・香炉山
第4章 姉妹飯――施洞・革東
第5章 黄平苗の市場と翁項郷の吃新節
第6章 嫁ぐ日,旅立つ日――重安江・新寨と西江鎮・西寨
第7章 誇り高き男たちの村――沙村
解説 歌垣「心史」とともに生きる苗族――その歴史と文化 雷秀武
あとがき 苗族の30年
1949年生まれ。写真家。東京写真専門学院を卒業後、レコード・ジャケットアシスト、コマーシャル・フォトの撮影に従事、その後フリー。民族学者白鳥芳郎氏に師事。1989年貴州省に苗族を訪ね、3年半現地に住みつき取材。「世界」「季刊民族学」その他に写真、文章を発表。1995~1997年キャノンサロン、NHKギャラリー等で写真展「黒苗」。2002年より、天山山脈、モンゴル、中央アジア、イラン、モロッコなどを取材し、シルクロードカレンダーを制作。日本写真家協会会員。
書評情報
日中文化交流 No.787(2012年1月1日)