海域アジア史研究入門

「海からの視点」をキーワードにアジア全体をとらえ,今どのようなテーマ設定・史料選択が可能かを紹介する.

海域アジア史研究入門
著者 桃木 至朗
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2008/03/26
ISBN 9784000224840
Cコード 0020
体裁 A5 ・ 並製 ・ カバー ・ 302頁
在庫 品切れ
アジア史研究において,各国史からは見えてこない海のネットワークが果たしてきた役割の重要性が説かれて久しい.本書は「海からの視点」をキーワードにより広くアジア全体をとらえ,その「海域アジア史」において,いま,どのようなテーマ設定・史料選択が可能であるかをコンパクトに紹介する.待望久しい入門書の誕生.

■編集委員からのメッセージ

 1970年代後半ないし80年代から,現代世界そのものの激変と,近代への疑いなどの一般的思想状況を背景として,歴史学は大きく変貌した.そこでは社会史,ジェンダー史,環境史など新しい領域の成立,一国主義・国民国家史観やヨーロッパ中心主義の問い直し,文献史料と「客観的史実」への素朴な信頼からの脱却,など多くの新しい動きが生じた.アジアの海域史を扱う本書は,直接にはに関連して,新しい視野を提示しようとする入門書である.
 本書が「アジア海域史」でなく「海域アジア史」という,やや熟さない表現を用いる理由は,2つある.第1に本書は,アジア理解を刷新するために,陸の視点で区切られた「東アジア」「東南アジア」「南アジア」などとは違った,「海域アジア」という新しいまとまりを提起している.第2に,「アジア海域史」と呼んだ場合,既存のアジア史概念を前提とし,その下位区分の一領域のみを扱う(したがって「日本史」や「西洋史」には関係ない)というニュアンスで理解されかねない.だが本書は,「アジア」という地域設定自体を問題にし,ひいては歴史学全体を問い直そうという「思想」をもっている.なお,これらの考えをもつ本書において,「海域史」は航海,貿易,海賊,海上民といった海の世界そのものの歴史だけでなく,海をはさんだ陸同士の交流や闘争,海上と陸上の相互作用などを含み,「アジア史」(日本列島を含むのは最初から当然)は「北・東アフリカ」「西太平洋・オーストラリア」なども排除しない.どちらも,ゆるやかな意味の便宜的な用語である.――「総説」より
総説 海域アジア史のポテンシャル 桃木至朗/山内晋次/藤田加世子/蓮田隆志
第1篇 通時的パースペクティブ
 第 I 部 中世〈9世紀―14世紀前半〉
  第1章 中国人の海上進出と海上帝国としての中国 榎本渉
  第2章 モンゴル帝国と海域アジア 四日市康博
  第3章 宋元代の海域東南アジア 深見純生
  第4章 日本列島と海域世界 山内晋次
 第II部 近世前期〈14世紀後半―17世紀初頭〉
  第5章 明朝の国際システムと海域世界 岡本弘道
  第6章 琉球王国の形成と展開 上里隆史
  第7章 日明の外交と貿易 伊藤幸司
  第8章 日朝多元関係の展開 関周一
  第9章 倭寇論のゆくえ 橋本雄/米谷均
  第10章 「交易の時代」の東・東南アジア 中島楽章/桃木至朗
  第11章 ヨーロッパ勢力の台頭と日本人のアジア進出 岡美穂
 第III部近世後期〈17世紀中葉―19世紀初頭〉
  第12章 経済史から見た近世後期の海域アジア 藤田加世子
  第13章 近世後期東アジアの通交管理と国際秩序 渡辺美季/杉山清彦
  第14章 蝦夷地と琉球――近世日本の2つの口 谷本晃久/深澤秋彦
  第15章 東南アジアの「プロト国民国家」形成 蓮田隆志
  第16章 18世紀の東南アジアと世界経済 太田淳
  第17章 近世から近代へ――近世後期の世界システム 秋田茂
第2篇 各論
  第18章 海陸の互市貿易と国家――宋元時代を中心として 佐藤貴保/向正樹
  第19章 港市社会論――長崎と広州 川口洋平/村尾進
  第20章 貿易陶磁 坂井隆
  第21章 海産物交易――「竜涎香」をめぐって 真栄平房昭
  第22章 造船技術――列島の木造船,終焉期のけしき 出口晶子
  第23章 航海神――媽祖を中心とする東北アジアの神々 藤田明良
  第24章 漂流,漂流記,海難 劉序楓
  第25章 海域アジア史のための東アジア文献史料 渡辺佳成/飯岡直子
 和・中・韓文 文献目録
 欧文 文献目録
 編者あとがき
 執筆者一覧

書評情報

読売新聞(朝刊) 2008年5月9日
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