虚業成れり

「呼び屋」神彰の生涯

興行界の風雲児の栄光,破産,そして居酒屋経営での成功―「赤い呼び屋」神彰の波瀾の生涯を描く.

虚業成れり
著者 大島 幹雄
ジャンル 書籍 > 単行本 > 伝記
刊行日 2004/01/28
ISBN 9784000225311
Cコード 0023
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 388頁
在庫 品切れ
昭和29年秋,東京.ふと口ずさんだロシア民謡からすべては始まった.何ももたない青年がドン・コザック合唱団の来日を実現し,ボリショイバレエ,レニングラード・フィルなど「幻」と思われたアーティストを次々と招聘して旋風を巻き起こす.栄光,破産,そして居酒屋経営での再起.「戦後の奇跡」神彰の波瀾の生涯を描く.

■著者からのメッセージ

いままで4冊の本を出しているのだが,そのいずれも評伝であった.ロシアの道化師,サーカス芸人,漂流民に冒険家と,4人ともほとんど知られていない人たちであり,その生きざまを発掘して紹介するというのが,大きなテーマであった.しかし今度とりあげた神さんは,さすがに若い人たちは知らないかもしれないが,中年以上の世代にとってはどこかで名前ぐらいは聞いたことがあるはずで,いわば有名人に属する人である.有名人のことを書くのは初体験で,正直最初の頃は,しんどい部分もあった.6年前に亡くなったとはいえ,いままで書いてきた人たちと比べて,現代を生きた人であり,関係者の人たちの多くは存命し,各分野で活動している方も多い.しかもこういう場合,本人と会って話を聞くことが大事なことになるはずなのに,それもできなかった.だから最初の頃は,ただひたすら資料を集め,関係者の人たちと会って,話を聞くことに専念した.いままでは,対象となる人物のイメージを自分なりにつくってから書きはじめたのだが,今回はそれをせずに,みんなが語るありのままの神さんをそのまままず書くことにした.
 いま書き終えてみて,それが結果的には良かったかもしれないと思うようになっている.本人の話を聞けなかったのは残念だったが,もしも会ってしまえば,神さんの魔性に呼び込まれ,神さんが残したふたつの自伝『怪物魂』と『天機を盗む』の延長になったかもしれない.神さんの持っているさまざまな側面,優しさと冷酷さをあわせもつような,相反する二面性を,自分のなかで咀嚼せずに,そのまま書くことにより,等身大の神さんを描くことができたのではないかと思っている.
 取材のなかでは,神さんの故郷函館を訪ねた二度の旅が印象に残っている.奇妙に思われるかもしれないが,本人と直接会うことではなく,立待岬にある神さんのお墓を見て,神さんのことがとても好きになってしまった.海を背にして,ひっそりと立つ白い小さな墓を最期の住まいにしようとした神さんの思いが胸に滲みた.2回目に訪れたとき,この白い墓に供えられた小さな野の花が風に揺れている光景がいまも目に焼きついている.あれだけ派手に表舞台で活躍していた男としてはあまりにも慎ましい,この墓と野の花の組み合わせが,もしかしたら神さんが最も望んでいたありかただったようにも思える.
 今回の本は,呼び屋としていままで生きてきた私から神さんへ捧げるレクイエムでもある.願わくば,なにげなくひっそりと供えられたあの花のように,神さんのもとに届けることができたらと思っている.
大島幹雄(おおしまみきお)
1953年生まれ.アフタークラウディカンパニー(ACC)勤務.プロモーターとして主にサーカスやクラウンを海外から呼んだり,日本人パフォーマーのプロデュースを手がける.サーカス文化の会事務局長,石巻若宮丸漂流民の会事務局長,早稲田大学非常勤講師.
著書『サーカスと革命――道化師ラザレンコの生涯』平凡社,1990,『海を渡ったサーカス芸人――コスモポリタン沢田豊の生涯』平凡社,1993,『魯西亜から来た日本人――漂流民善六物語』廣済堂出版,1996,『シベリア漂流――玉井喜作の生涯』新潮社,1998,訳書『日本滞在日記――1804-1805』レザーノフ著,岩波文庫,2000.
※大島幹雄氏のホームページ デラシネ通信 http://homepage2.nifty.com/deracine/

書評情報

レコード芸術 2004年7月号
週刊エコノミスト 2004年6月22日号
文藝春秋 2004年5月号
西日本新聞(朝刊) 2004年4月11日
レモンクラブ 2004年4月号
北海道新聞(朝刊) 2004年3月24日
日本経済新聞(朝刊) 2004年3月21日
北海道新聞(朝刊) 2004年3月21日
ダ・カーポ 533号 2004年3月17日号
四国新聞 2004年3月13日
週刊文春 2004年3月11日号
朝日新聞(朝刊) 2004年3月7日
週刊新潮 2004年3月4日号
東京かわら版 2004年
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