草と木が語る日本の中世
人間にとってもっとも身近な自然である草や木を通じて,日本中世の歴史像を新たな視角から捉え直す.
中世の人々は草や木についてどのような認識・知識をもち,草木や花や果実をどのように利用したのか.それらの流通の実態,植生の維持・管理はどのように行なわれたのか.民俗学や考古学,植物学の知見も取り入れながら文献や絵巻物を読み解き,人間にとって最も身近な自然である草や木を通じて日本中世の歴史像を新たな視角から捉え直す.
■著者からのメッセージ
私たちの周囲には様々な種類の草や木が生えています.日々を過ごす中では,それらは視界には入っているものの,その生えている理由や社会的な意味などを意識することは少ないと思います.しかし,草や木は植えられているにせよ,自然に生えているにせよ,人間の活動が何らかの形で作用して,その場所に存在しています.また,当然ながら,草や木は時間の経過とともに成長し,最終的には消滅しますが,その過程自体が一つの歴史です.つまり,草や木の存在は歴史的所産であるわけです.本書はこうした考えのもとに,日本の中世における草や木の歴史を色々な視点から明らかにしたものです.
歴史には短期的に変化するもの,長い時間をかけて徐々に変化していくもの,長期間変わらないものなど,変化が起きるのに必要な時間の量という面から見れば様々な類型があります.草や木に関しても同様で,大風・洪水・津波による倒木,人間による伐採は,突如起きるという点で短期的な変化と言えます.一方,数十年の時間の経過により,草原が林になったり,松林が照葉樹林になるといった変化が発生しています.これは植物学や生態学の概念である遷移という現象ですが,それは注意して見れば,現在も身の回りで起きていることです.また,松はおめでたいという意識は古代や中世から存在し,今も変わらないものです.
このように本書では異なる時間によって変化をとげる草や木をめぐる様々な事象を扱いましたが,こうした点を意識することで,逆に中世という時代性や現在の状況を再認識できると思います.普段は単なる風景のなかに埋没している草や木を改めて歴史的所産として意識することは,従来の人間中心の歴史を改めて捉え直すことにもつながります.
2011年3月11日には津波が海岸の松林を薙ぎ倒したり越えたりして,内陸深くまで押し寄せました.これにより東北地方の海岸一帯に松林が存在したことが改めて認識されましたが,このこと自体もやはり歴史的所産であり,海岸の松林自体が様々な形でその地域の歴史を物語っています.本書ではこの点は扱えませんでしたが,こうした点を含めて,本書が草や木を歴史的観点から見直す契機となり,それを通じて歴史学が現代的課題に貢献できればよいと思っています.
■著者からのメッセージ
私たちの周囲には様々な種類の草や木が生えています.日々を過ごす中では,それらは視界には入っているものの,その生えている理由や社会的な意味などを意識することは少ないと思います.しかし,草や木は植えられているにせよ,自然に生えているにせよ,人間の活動が何らかの形で作用して,その場所に存在しています.また,当然ながら,草や木は時間の経過とともに成長し,最終的には消滅しますが,その過程自体が一つの歴史です.つまり,草や木の存在は歴史的所産であるわけです.本書はこうした考えのもとに,日本の中世における草や木の歴史を色々な視点から明らかにしたものです.
歴史には短期的に変化するもの,長い時間をかけて徐々に変化していくもの,長期間変わらないものなど,変化が起きるのに必要な時間の量という面から見れば様々な類型があります.草や木に関しても同様で,大風・洪水・津波による倒木,人間による伐採は,突如起きるという点で短期的な変化と言えます.一方,数十年の時間の経過により,草原が林になったり,松林が照葉樹林になるといった変化が発生しています.これは植物学や生態学の概念である遷移という現象ですが,それは注意して見れば,現在も身の回りで起きていることです.また,松はおめでたいという意識は古代や中世から存在し,今も変わらないものです.
このように本書では異なる時間によって変化をとげる草や木をめぐる様々な事象を扱いましたが,こうした点を意識することで,逆に中世という時代性や現在の状況を再認識できると思います.普段は単なる風景のなかに埋没している草や木を改めて歴史的所産として意識することは,従来の人間中心の歴史を改めて捉え直すことにもつながります.
2011年3月11日には津波が海岸の松林を薙ぎ倒したり越えたりして,内陸深くまで押し寄せました.これにより東北地方の海岸一帯に松林が存在したことが改めて認識されましたが,このこと自体もやはり歴史的所産であり,海岸の松林自体が様々な形でその地域の歴史を物語っています.本書ではこの点は扱えませんでしたが,こうした点を含めて,本書が草や木を歴史的観点から見直す契機となり,それを通じて歴史学が現代的課題に貢献できればよいと思っています.
序 章 草木から見る歴史への招待
第一章 中世人は草や木をどのように認識したか
第一節 神木をめぐる言説
第二節 松の象徴するもの
第三節 境界の木
第四節 荒野・荒廃の象徴
第二章 草花と中世の日常生活
第一節 草苅に従事する人々
第二節 年中行事と草花
第三節 薬草としての利用
第四節 様々な草の利用
第三章 木の利用と流通
第一節 木の様々な利用
第二節 材木や檜皮の規格・価格
第三節 京における材木の流通
第四節 鎌倉における材木・薪炭の流通
第五節 果樹の利用と育成
第四章 植生の変化と資源管理
第一節 植生遷移と植生に対する認識
第二節 中世における松の増加
第三節 草山と野
第四節 植生維持と管理
終 章 草木に関する課題
参考文献
あとがき
索引
第一章 中世人は草や木をどのように認識したか
第一節 神木をめぐる言説
第二節 松の象徴するもの
第三節 境界の木
第四節 荒野・荒廃の象徴
第二章 草花と中世の日常生活
第一節 草苅に従事する人々
第二節 年中行事と草花
第三節 薬草としての利用
第四節 様々な草の利用
第三章 木の利用と流通
第一節 木の様々な利用
第二節 材木や檜皮の規格・価格
第三節 京における材木の流通
第四節 鎌倉における材木・薪炭の流通
第五節 果樹の利用と育成
第四章 植生の変化と資源管理
第一節 植生遷移と植生に対する認識
第二節 中世における松の増加
第三節 草山と野
第四節 植生維持と管理
終 章 草木に関する課題
参考文献
あとがき
索引
盛本 昌広(もりもと まさひろ)
1958年横浜市生まれ.慶應義塾大学文学部卒業.東京都立大学大学院修士課程修了.文学博士(2000年.中央大学).
現在,歴史研究家.日本中世・近世史専攻.
著書に『日本中世の贈与と負担』(校倉書房,1997年),『松平家忠日記』(角川書店,1999年),『贈答と宴会の中世』(吉川弘文館,2008年),『軍需物資から見た戦国合戦』『戦国合戦の舞台裏』(ともに洋泉社,2008・2010年),『中近世の山野河海と資源管理』(岩田書院,2009年)などがある.『網野善彦著作集』(岩波書店,2007-2009年)の編集委員をつとめた.
1958年横浜市生まれ.慶應義塾大学文学部卒業.東京都立大学大学院修士課程修了.文学博士(2000年.中央大学).
現在,歴史研究家.日本中世・近世史専攻.
著書に『日本中世の贈与と負担』(校倉書房,1997年),『松平家忠日記』(角川書店,1999年),『贈答と宴会の中世』(吉川弘文館,2008年),『軍需物資から見た戦国合戦』『戦国合戦の舞台裏』(ともに洋泉社,2008・2010年),『中近世の山野河海と資源管理』(岩田書院,2009年)などがある.『網野善彦著作集』(岩波書店,2007-2009年)の編集委員をつとめた.
書評情報
日本歴史 2014年5月号
史学雑誌 第121編第9号(2012年9月)
歴史読本 2012年5月号
日本経済新聞(朝刊) 2012年4月1日
史学雑誌 第121編第9号(2012年9月)
歴史読本 2012年5月号
日本経済新聞(朝刊) 2012年4月1日