現代日本思想論

歴史意識とイデオロギー

丸山真男・吉本隆明から松下幸之助まで,戦後を形作った「現実の思想」に肉迫する,同時代思想史の試み.

現代日本思想論
著者 安丸 良夫
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2004/01/23
ISBN 9784000227384
Cコード 0021
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 294頁
在庫 品切れ
丸山真男・吉本隆明から松下幸之助まで,戦後を形作った「現実の思想」に肉迫する,同時代思想史の試み.生活世界に足場を置いた独自の思想史を模索し続けてきた著者が,新国家主義的風潮が強まる現在の日本社会に対峙するなかで,戦後思想を批判的に総括,明快な見取り図を描くとともに,歴史学の課題と可能性を展望する.

■著者からのメッセージ

 私は日本史を専攻する歴史研究者で,思想史を専門領域としています.歴史研究というものは,ある意味ではさまざまの旧い史料と向き合って,なにかを見つけ出そうとする職人仕事なのですが,しかしまたいうまでもなくそのような作業をする歴史研究者は,現代社会に生きている一人の生活者であり,社会とか現実とかいうものに深く囚われています.この書物は,一言でいえば,私のこうした囚われについて反芻し反省してみたものだといえるでしょうか.
 この書物の具体的な内容は,1945年の敗戦前後から現在までの広い意味での戦後日本の学問と思想について,さまざまの角度から批評し批判したものですが,そこにはもう老人になってしまった私が,どんなことにこだわり何とまた誰と向き合って生きてきたのかということが,かなり率直に語られているのではないかと思います.
 敗戦直後から1960年ごろまでは,戦争体験を踏まえた思想形成のさまざまの新しい試みが存在したのですが,やがて日本経済の高度成長やそれに伴う消費社会化,また国際情勢の変化などが複雑に交錯して,戦後思想の新しい形はしだいに崩れてゆき,私たちは大きな物語を語ることができなくなって,鬱屈感と不確かさの感覚が顕著になってきたのではないかと思います.もとより,新しい学問や思想が切り開いたものは,私たちの現在をゆたかにしていますが,たとえば9・11事件以後のことを考えてみただけでも,私たちの直面している問題の困難さが容易に理解されます.そんな気持をこめて,この書物の最後には,現在の状況についての,素人考えも述べてみました.
 この小さな書物を手がかりに,戦後日本とはなんであったか,現代日本とはそのどのような帰結なのかという討論の輪に,ちょっぴり参加してみたいと思います.

■編集部からのメッセージ

 1960~70年代生まれの若手の論客たちによる優れた戦後思想研究がいくつも現れるようになった昨今ですが,そうした,いわば「戦後」が初めから「歴史」として目の前にあった世代と違って,自分自身が生きてきた時代――そのただ中で育ち,青春を過ごし,仕事や生活にいそしんできた時間――を対象化して客観的に分析することは,なかなか骨の折れる,ときにはかなり勇気のいる作業ではないでしょうか.
 本書は,近世後期から近代にかけての思想史を主な専門領域とし,通俗道徳論の提示をはじめとして民衆思想史の方法を切り拓いてこられた安丸良夫先生が,戦後思想をめぐるさまざまな概念や膨大な思索を整理・紹介しつつ,明快な見取り図を描き,これからの思想的課題を見とおそうとする試みです.
 〈生活の専門家〉としての民衆,その思惟から乖離しないところでの歴史像・歴史叙述を一貫して模索してこられた安丸先生が,戦後思想をどう料理されるのか?「あとがき」の面白さに定評のある安丸先生の,今回もじっくり読ませる「あとがき」と合わせて,多くの方々に味読されることを願っています.
安丸良夫(やすまる・よしお)
1934年,富山県に生まれる.京都大学大学院国史学専攻博士課程修了.一橋大学社会学部教授を98年に退任.一橋大学名誉教授.現在,早稲田大学大学院客員教授.日本思想史専攻.
著書に,『神々の明治維新』(岩波新書),『近代天皇像の形成』(岩波モダンクラシックス),『歴史教科書 何が問題か』(共著,岩波書店),『日本ナショナリズムの前夜』『出口なお』『一揆・監獄・コスモロジー』(以上,朝日新聞社),『日本の近代化と民衆思想』(青木書店,のち平凡社ライブラリー),『〈方法〉としての思想史』(校倉書房)など.編集委員をつとめたシリーズに,「日本近代思想大系」全23巻・別巻1,「岩波講座 日本通史」全21巻・別巻4,「岩波講座 天皇と王権を考える」全10巻がある.

書評情報

UP 2004年5月号
未来 2004年5月号
朝日新聞(朝刊) 2004年3月21日
ページトップへ戻る