市町村の教育改革が学校を変える

教育委員会制度の可能性

教育委員会制度を未来につなげるには?  志木市,犬山市,京都市などの先進的な取り組みを紹介.

市町村の教育改革が学校を変える
著者 小川 正人
ジャンル 書籍 > 単行本 > 教育
刊行日 2006/06/08
ISBN 9784000234191
Cコード 0037
体裁 四六 ・ 並製 ・ 158頁
在庫 品切れ
地方分権化時代の教育改革において,もっとも重要となる市町村の改革の要となる教育委員会制度.それは機能しているのか,運営上抱えている問題は何か.注目を集めている教育委員会廃止論の是非は.改革の先進自治体である志木市,犬山市,京都市などの例を紹介しその実態を検証しながら,教育をめぐるシステムを広く捉えなおす.

■著者からのメッセージ

小川正人

 図1は,昨年,文部科学省が中央教育審議会での義務教育改革に関する審議の検討資料とするためにまとめた調査報告書「義務教育に関する意識調査」(最終報告2005年11月)から取り出した小中学生保護者の学校満足度を示すデータの一つである.
 学校に対する総合的な満足度では,「とても満足している」(5.5%),「まあ満足している」(64.5%)をあわせて70%が学校の現状を肯定的に捉えているのに対し,不満という回答率(「あまり満足していない」「まったく満足していない」の合計)は27.5%となっている.新聞,テレビ等のマスコミが公立学校の問題や不信を大々的に報じる論調と比較すれば,この保護者の学校満足度の高さは意外である.ただ,保護者の4人に1人が不満感を抱いているという数値も決して無視できないし,さらに踏み込んで学校の個別の指導や取り組みについてみると,保護者の学校に対する満足・不満足の評価は項目によって大きく分かれる.総じて,学校の文化・スポーツ活動等の行事や教科外活動への満足度が高いのに対し,教科指導や生活・進路指導については満足度が低くなる.また,小学生保護者と比べ,中学生保護者の満足度が相対的に低くなっていることも特徴的である.
 「国民皆(みな)教育評論家」と言われるほど,国民の多くも図1のデータに見るように保護者と同様な教育への意見や不満等をそれぞれに持っているはずである.ただ,それらの意見や不満等を文部科学省や学校,教員等に対する個人的な批判や怒りで解消させたり,子どもを塾や私立学校に通わせるといった対応等で自分の願いや思いの幾ばくかを遂げようとする保護者,国民が大半ではないかと思う.しかし,それら意見や不満等を個人レベルで解消するのではなく,学校や地域等で集約,組織化して改善策を学校や(教育)行政当局に求めて教育問題を解決していくことも可能なはずである.
 実は,そうした地域住民や保護者の不満や要求等を集約し地域の教育課題に取り組むしくみが,「教育(行政)の住民統制」という理念の下に戦後創設された教育委員会制度であった.しかし,多くの人々は,教育委員会という名称は日常よく目にしたり耳にすることはあっても,教育委員会がどのような組織でどんな運営がなされているのか,あるいは,自分が住んでいる自治体の教育委員はどんな人なのか等々についてはあまりよく分かっていないのではないかと思う.また,教育委員会と聞くと,文部科学省の地方出先機関=教育行政の末端機関であって,学校や教職員を管理しているという印象だけが頭に浮かぶ方も多いのではないだろうか.
 今,その教育委員会制度が大きく揺れ動いている.その背景には,1990年代以降に大きな潮流となった地方分権改革と学校改革がある.
(本書より
一 教育委員会とは何か――そのしくみと組織
1 問われる教育委員会制度
2 教育委員会設置の意味
3 教育委員会のしくみと組織――「地教行法」を読む
  (1) 「教育委員会法」(旧法)との関係
(2) 地教行法の内容と問題

二 教育委員会改廃論議と教育行財政システムの改革
1 教育委員会制度の改廃論議
  (1) 教育委員会制度の長所と短所
(2) 教育委員会制度の廃止論
  2 教育行財政システムの特徴と問題
    (1) 市区町村教育委員会に対する制約
(2) 2000年地方分権改革と残された課題

三 自治体発信による教育改革の胎動
1 市区町村長は教育委員会制度をどう見ているか
――市区町村長アンケート調査結果から
2 自治体の先進的な取り組み事例
――教育政策革新を可能にしている要因は何か
  (1) 首長のリーダーシップと教育委員会との連携による主体性「回復」の取り組み
(1) 愛知県犬山市の事例 (2) 埼玉県志木市の事例
(2) 首長,教育長・事務局,委員会の役割と連携・協力のあり方
(3) ボトムアップ重視の参加型改革
――埼玉県鶴ヶ島市における「対話と合意」の教育(行政)改革
(4) 専門性と現場重視のトップダウンとボトムアップ並行型改革――京都市の事例

四 アメリカ教育委員会制度の実情と改革動向――日本への示唆
1 アメリカ教育委員会制度の実情
  (1) 教育委員の選出,地位・身分,属性
(2) 教育庁長官(州),教育長(学区)の選出
  2 教育委員会の活動
    (1) 教育委員会会議の実際と教育委員の活動
(2) 教育長と教育委員会の役割分担と法的関係
  3 市長の関与強化(mayoral take-over)の動向と改革論議
    (1) 市長の教育委員会関与強化の動向
(2) 市長の関与強化をめぐる論議

五 地域教育改革の課題と市区町村教育委員会の可能性
1 市区町村教育委員会による改革を可能にする条件とは
  (1) 義務教育費国庫負担金削減の影響
(2) 県費負担教職員制度の捻れの増大と改革課題
  2 市区町村教育委員会「再生」の処方箋
    (1) 役割区分を明確にする法制整備と見直し
(2) 教育委員会の組織運営の弾力化
(3) 教育行政「専門」職員の育成と人事システムの構築
(4) 自治体における「政治の復権」に対応した透明で開かれたルールづくり

おわりに
初出/参考文献
小川正人(おがわ まさひと)
1950年生まれ.東京大学大学院教育学研究科教授.専門は教育行政学.戦後日本の教育行財政システムに知悉.その研究の蓄積をもとに各地の自治体の教育政策のリサーチを行い,現在の教育改革に対して積極的な提言を行っている.現在,文部科学省の中教審・専門委員・臨時委員等を務める.主な著書に『戦後日本教育財政制度の研究』(九州大学出版会),『教育財政の政策と法制度――教育財政入門』(エイデル研究所),『分権改革と教育行政』(ぎょうせい),『合併自治体の教育デザイン』(ぎょうせい),『解説 教育六法』(三省堂,編集委員)等.訳書にレオナード・J.ショッパ『日本の教育政策過程――1970~80年代教育改革の政治システム』(三省堂,監訳)がある.

書評情報

内外教育 2006年8月4日号
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