森林の持続可能性と国際貿易

林産物貿易と森林の持続可能性の関係について,理論的かつ実証的な分析を行い,具体的政策を提言する.

森林の持続可能性と国際貿易
著者 島本 美保子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 経済
刊行日 2010/02/23
ISBN 9784000234733
Cコード 3033
体裁 A5 ・ 上製 ・ 210頁
定価 4,620円
在庫 在庫僅少
生物多様性を支える世界の天然林減少の原因の一つは林産物貿易だ.それでもなぜGATT/WTO体制の下貿易自由化が進められてきたのか.森林の持続可能性との関係は.この命題を経済学の立場から理論的・実証的に解き明かすことで,現在の貿易体制の矛盾を明らかにし,林産物貿易のあり方について具体的政策を提言する.


■著者からのメッセージ
 地球の緑を守るためには植林することが大切,と思っている方はぜひこの本を覗いてみてください.地球上の森林のうち,植林された森はわずか4%足らずです.植林するより天然林をなるべく破壊しないようにすることのほうがはるかに大切なのです.
  しかし現在の経済システムの中では,天然林を守ることは極めて難しい.なぜならば,天然林破壊の主な原因の一つが商業伐採であるにもかかわらず,GATT/WTOの自由貿易体制のもとでは,林産物は工業製品であり,他の工業製品と同じ,いやそれ以上に貿易自由化が進められてきたからです.なぜこのような矛盾に満ち満ちた状況が生まれているのでしょうか.それは林産物輸出国の多くに大規模な多国籍企業があり,政府に対してだけでなく国際的な貿易交渉にまで発言力をもっているということと無関係ではありません.
 このような状況が,世間の貿易理論の表層的な理解によってより強固なものになってしまっているように思われます.ですから,この本では森林の持続可能性と貿易の関係を,実証的・理論的に解き明かすべく試みました.今年2010年,生物多様性条約COP10が名古屋で開かれますが,生物多様性を守ることは,それを包み込んでいる世界の天然林の保護なしには不可能です.ぜひ森林と経済の関係に関心がある方は手にとっていただければ幸いです.
島本美保子
序章 「林産物貿易と森林の持続可能性」論争
1. 論争の始まり
2. 研究が林産物自由貿易を支持した時代
3. 現実は林産物貿易自由化へ,研究は自由化批判へ
4. 林産物輸入国の立場からの視点
5. フィリピン
6. タイ
7. インドネシア
8. 「林産物貿易と森林の持続可能性」の包括的分析への道

第1章 森林の現状と森林の持続可能性
1. 世界の森林の種類
2. 熱帯林の森林消失とその原因
3. 北方林の森林劣化とその原因
4. 森林劣化・消失の背景的要因

第2章 森林の持続可能性と林産物貿易マクロ実証モデル
1. 森林の持続可能性とは何か
2. 世界の林産物貿易の動向
3. 林産物貿易についてのマクロ実証モデル
4. 林産物マクロモデルによるシナリオ分析
 ――再造林費込みの天然林材価格政策の森林の持続可能性への影響分析
5. 実証分析の限界
    【補論】林産物モデルにおける需要関数,供給関数の設定の仕方

第3章 「貿易と環境」理論とその限界
1. 「貿易と環境」理論の概要――部分均衡分析
2. 貿易と環境についてのWTOの報告書
3. 新古典派的「貿易と環境」理論の限界(1)――社会的費用の計測可能性
4. 新古典派的「貿易と環境」理論の限界(2)――制度の失敗
5. 新古典派的「貿易と環境」理論の限界(3)――分配問題の捨象
6. まとめ

第4章 森林の持続可能性と貿易政策
1. 本章の分析の前提
2. 部分均衡分析による林産物貿易の分析
3. 一般均衡分析による林産物貿易の分析
4. 森林の持続可能性確保のための制度比較
5. 最適関税論と森林関税協定
6. まとめ

第5章 林産物産業の寡占的体質とレントシーキング
1. 林産物輸出国の林産業の産業組織
2. 寡占的貿易理論・独占的競争貿易理論
3. レントシーキングの理論
4. まとめ

第6章 自由貿易体制と林産物貿易
1. GATT/WTOにおける貿易と環境の議論等
2. GATT/WTOにおける農産物貿易と林産物貿易
3. 森林管理に関する多国間環境協定(MEA)
4. まとめ

第7章 国際金融論的視点およびグローバル企業と日本の経済利益
1. 国際収支勘定
2. 為替レートの決まり方
3. 経常収支の長期的な調整と効率性
4. 経常収支長期不均衡の現実
5. 経常収支中長期的不均衡と貿易論
6. 変動相場制,経常収支不均衡と森林の持続可能性
7. 多国籍企業への国際課税
8. まとめ

終章 結論
1. 林産物貿易体制への提言
2. 経済学の新たな課題
3. ニッチ市場の誘惑
4. エコのセントリズムの問題
5. 残された課題

 あとがき
 索 引
島本美保子(しまもと みほこ)
1965年京都生まれ.88年慶應義塾大学経済学部卒業,94同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学.法政大学社会学部助手,専任講師,助教授を経て2005年より同教授.専攻は環境経済学.経済学博士(慶應義塾大学).主な著作に
・ 「林産物世界貿易モデルによる「環境価格」政策の影響分析」『林業経済研究』第44巻1号,1998年3月,
・ 「「林産物の自由貿易と森林の持続可能性」論争と東南アジア諸国の現状」『林業経済』第639号,2002年1月,
・ “Forest Sustainability and Trade Policies”, Ecological Economics 66(4), July 2008,
がある.

書評情報

林業経済 Vol.64 No.1(2011年4月)
環境経済・政策研究 第3巻第2号(2010年8月)
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