精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本


著者からのメッセージ
著者プロフィール
目次


書誌データへ

編集部だより
サルデーニャ島(州)に誕生したイタリア最新鋭の地域精神保健センターのオープニングパーティ風景(2007年).


著者からのメッセージ

 これは自戒を込めて言うのですが,イタリアを音楽や絵画や遺跡などの遺産で食いつなぐ国などと侮ってはいけません.あまたの天才を輩出した国の,そのDNAは間違いなく現代に受け継がれています.その証拠の一つが,国内全ての精神病院を捨てたこと.これは,世界の99%の人には想像も及ばないことで,この僕も,そこまではできないだろう,と高をくくっていました.
 ところがイタリアは,20世紀の終わりまでに精神病院を全廃してしまった.『精神病院のない国』が地球上に初めて出現したのです.これを知るに及んで記者の血が騒ぎました.イタリア語もろくにしゃべれないというのに,八ヶ岳山麓での薪割り生活を放り出して,いざイタリアの現場へ,ということに相成りました.合計で6か月ほど,イタリア半島を駆けまわりました.
 イタリア精神保健改革の全貌がわかってきたら,日本の精神保健の"極貧"ぶりが改めて気になり,日本の問題を取材し直しました(日本語での取材は本当に楽チンでした).
 校了寸前,かねての大疑問の一つが解けました.私立精神病院大増殖の道を開いた故・武見太郎日本医師会長が私立精神病院のことを「牧畜業者」と表現した,あの歴史的名言が,いつ,どこで,だれに対して,なされたものか,が分かったのです.
 この特ダネは,あとがきの最後尾にねじ込むことができました.まるで,締め切り間際の新聞みたいで,スリル満点でした.


医者と患者はキミとボク(トリエステ,2007年)


著者プロフィール

ローマのデイセンターで日本食の講師を務める筆者
大熊 一夫(おおくま かずお)
1937年生まれ.ジャーナリスト.元朝日新聞記者,元大阪大学大学院人間科学研究科教授(ソーシャルサービス論).1970年,都内の精神病院にアルコール依存症患者を装って入院し「ルポ・精神病棟」を朝日新聞に連載.鉄格子の内側の無法を白日のもとにさらした.以来,福祉,医療の分野を中心に,高齢者や障害者へのケア,特に虐待の問題に強い関心を継続しつつ,取材してきた.
著書に『ルポ・精神病棟』(朝日新聞社,1973),『新ルポ・精神病棟』(朝日新聞社,1985),『精神病院の話――この国に生まれたるの不幸1』(晩聲社,1987),『あなたの「老い」をだれがみる』(朝日新聞社,1986),『ルポ老人病棟』(朝日新聞社,1988),『母をくくらないで下さい』(朝日新聞社,1992),『ルポ・有料老人ホーム』(朝日新聞社,1995),『あなたの老後の運命は――徹底比較ルポ デンマーク・ドイツ・日本』(ぶどう社,1996),『冤罪・千葉大学腸チフス事件――この国に生まれたるの不幸2』(晩聲社,1991),『ケアすること』ケア その思想と実践2,共著,岩波書店,2008)など.


むかし精神病院の島,いま5つ星ホテル(ヴェネツィア,2007年)


目次

はじめに
第1部 日本の悪夢――1970年,鉄格子の内側に潜入
 1 恐怖と絶望と退屈の病棟
 2 私設強制収容所
 3 不肖の息子とその親
第2部 目からウロコ――1986年,精神保健先輩国を訪ねる
 1 精神病院を廃絶?
 2 世界の精神保健事情
 3 バザーリアの後継者を招く
第3部 精神病院の終焉――2006年春,ローマの友からの便り
 1 取材意欲再び
 2 タンスの骸骨
 3 トリエステ燃ゆ
 4 歴史的妥協
 5 トリエステの現在
 6 バザーリアってこんな人
第4部 地域サービス時代の到来――1990年代以降のイタリア
 1 180号法生き残る
 2 首都ローマの改革
 3 司法精神病院の街
 4 政変で精神保健が変わった
 5 残酷物語はお伽話に昇華した
 6 改革のキーワードは脱・施設化
第5部 日本の地域精神保健――2009年,希望への胎動
 1 2人の先達その後
 2 青い鳥を求めて
付録 180号法(バザーリア法)全文(訳・村上和子)
参考文献
あとがき
初出一覧


旧サン・ジョバンニ病院の病棟が幼稚園に(トリエステ,1986年)




Copyright 2009 Iwanami Shoten, Publishers. All rights reserved. 岩波書店