地域情報化の最前線

自前主義のすすめ

いま,地域がおもしろい.ITで活性化に成功している全国の事例を軸に日本を元気にするための戦略を提言する.

地域情報化の最前線
著者 丸田 一
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2004/09/28
ISBN 9784000238274
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 236頁
在庫 品切れ
いま,地域がおもしろい.自前の情報インフラを作り上げた南房総IT推進協議会,世界初の市民アクセス網を引いた原町市,富山の学びのフリーマーケット・インターネット市民塾…ITをフル利用して,活性化に成功しているユニークな地域が続出している.そうした事例をとりあげながら,日本を元気にするための戦略を提言する.

■著者からのメッセージ

現在,十分な帯域の通信インフラを手に入れた多くの地域が,そこに流すべきコンテンツがなくて困っている.しかし,本書で取り上げた地域では次々と溢れるようにコンテンツが生まれるばかりか,生みだされるコンテンツが産業振興や起業,教育などの地域問題の解決に貢献し始めている.さらに,大半の地域がコミュニティの共同性を失う中で,これらの地域は知識生産という共働作業を通じて,新しいタイプの地域コミュニティを作り上げようとしている.
 これらの先進事例は,「通信インフラがなければ始まらない」という私の理解が間違いであることを教えてくれた.通信インフラのない不利な条件を逆手に取って地域づくりに不可欠な自立精神を手に入れ,それぞれの地域が自ら地域問題を解決するために知識生産工場という道具を手に入れつつある.また,地域が健全に成長していくための環境をつくるため,中央と地方の収奪構造を崩し始めている.
 そして,これらの先進事例には「自前主義」とでもいうべき共通の態度が備わっていることがわかってきた.地方自治体がほぼ例外なく目標に掲げる「自立」に似ているが,自立ほどハードルは高くない.また,視点を変えると,力が弱く経験も少ない地域でも一人前に活動できるしなやかな態度であり,条件不利地域から生まれてきたのもうなずける.自前主義は,地域のみならず,地域住民やNPOなど地域のアクティビスト達にも当てはまる.これが,情報社会で活躍する新しいタイプの主体が持つ共通した態度なのかもしれない.

■編集部からのメッセージ

現在の日本は,60年前の1940年代に匹敵する低迷状態から抜け出せず,経済再生のための試行錯誤を続けています.そのひとつにe-Japan戦略がありますが,根本的な問題を抱え,起爆剤にはなっていません.e-Japan戦略は社会のあらゆる側面にITを導入しようとしていますが,「自律・分散・協調」というITの本来の特徴を引き出してきれていません.
 「自律・分散・協調」の核は「地域情報化戦略」であり,それが決定的に欠けているのです.北欧は90年代,地域情報化戦略によって経済危機から再生しました.ここでいう地域情報化戦略とは,地域ITネットワークによって,地域で展開される自発的な活動を可能な限りサポートするとともに,これを地域が抱える課題の解決に結びつけていく戦略です.このためにはITを活用した地方主権社会の構築を推し進める必要があるでしょう.
 日本でITを活用して地域活性化に成功した地域をみると,技術力・アイデア・ネットワーク力を持つキーパーソンが活躍し,地域内の自立的な社会経済システムの中核で,動力源あるいは潤滑油となっているケースが多いのです.かれらは,既存の伝統的な人的ネットワークの中に深く入り込み,そのネットワークを組み替え,ITを導入する役割を果たしています.こうした人財を,地域内で育成することが地域活性化の成功のカギとなります.
 そうした視点にたって,「地域情報化戦略の旗手」として知られる著者が,全国の地域情報化の現場の綿密な取材調査・分析から,具体的な人物(キーパーソン)に焦点をあてながら,日本を元気にするための「地域戦略=国のデザイン」を提言してゆきます.
【編集部 岩永泰造】



はじめに

第1章 情報過疎地域の反乱

1 情報社会に生まれた過疎地域
2 よそ者・わか者・ばか者(事例1:南房総IT推進協議会)
3 世界初の市民アクセス網(事例2:原町市「市民アクセス網」)
4 津から究極の情報サービスを(事例3:三重「ZTV」)
5 兵庫100%ブロードバンド化宣言(事例4:関西ブロードバンド)
6 自前インフラを持つ意味


第2章 外からの地場産業振興

1 中央と地方を巡る問題
2 小分け発注(事例5:長崎ITモデル)
3 公共財としての行政システム(事例6:岐阜オープンリソース)
4 パブリックソフトウェアの威力


第3章 地域を変える知識生産工場

1 地域を巡る問題
2 学びのフリーマーケット(事例7:富山インターネット市民塾)
3 地域に根づいた起業家育成スクール(事例8:佐賀「鳳雛塾」)
4 アクティブシニアのプラットフォーム(事例9:シニアSOHO普及サロン・三鷹)
5 住民ディレクターという地域づくり(事例10:熊本「住民ディレクター」)
6 地域に根づく知識生産工場
7 地域が創る新しい物語


第4章 自前主義がもたらす愉の世界

1 分権改革と地域主権社会
2 自前主義という生き方



あとがき

丸田 一(まるた はじめ)
国際大学GLOCOM 助教授,UFJ総合研究所主席研究員.早稲田大学理工学部建築学科卒業.三和総合研究所(現UFJ総合研究所)主任研究員などを経て,2002年より現職.関心領域は,情報社会学,地域情報化研究,情報文明論.主な著書は『「知の創造」の進化システム―原型としてのインターネット空間』(東洋経済新報社),『再考!都市再生』 (共著,風土社),『2005年日本浮上』(共著,NTT出版)など.

書評情報

日本経済新聞(朝刊) 2004年11月7日
悠 2004年11月号
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