日本経済を問う

誤った理論は誤った政策を導く

長期不況から抜け出しつつある今,必要な政策は何か.経済現象の本質を捉え,鋭い問題提起を行なう.

日本経済を問う
著者 伊東 光晴
ジャンル 書籍 > 単行本 > 経済
刊行日 2006/11/29
ISBN 9784000242431
Cコード 0033
体裁 B6 ・ 上製 ・ 228頁
在庫 品切れ
バブル崩壊後の長期停滞から抜け出しつつある日本経済.10年以上にわたった長期不況の原因を80年代のバブル期まで遡って考察し,その全体像を描き出す.長引く不況のあいだに深刻化した経済格差の拡大,財政破綻といった問題に,今どう対応すべきなのか.経済理論と現実経済を架橋して説得力ある提言を行なう.

■著者からのメッセージ

伊東光晴
 この本は,21世紀に入って『世界』に書いた2つの論文を中心に,その前後に書いた時論を集めて第1章とし,第2章として平成不況を考えるさいに,必ず検証しなければならない,バブルの発生とその崩壊を――すでに発表したものとの重複をできるかぎり避け――書き加え,最終章として,ドーア教授の『誰のための会社にするか』(岩波新書)を読んでの私の考えを書き加えた.
 この間私は2つのことを追い続けていた.第一はケインズの経済理論の再考であり,第二は平成不況をどうとらえるかである.
 両者は私の中にあっては,前者が分析の方法論を与え,後者がその適用であった.前者については,5月に刊行した『現代に生きるケインズ――モラル・サイエンスとしての経済理論』(岩波新書)となった.40年前に書いた岩波新書『ケインズ』が,ケインズ研究を,たんなる理論水準で論ずるのではなく,イギリス社会の中に投影して社会思想史の水準まで高めようとしたのに対して,今回のケインズ再論は,ケインズが意図したモラル・サイエンスとしての理論体系を明らかにするとともに,今日の新古典派の跋扈への反論を試みたものである.その視点は,本書の第2章と,とくに第3章の中に生かされている.
(本書「あとがき」より)
第1章 時流に抗して
  1 「回転ドア」とアメリカ社会の新しい階級
    回転ドア――新しい特権階級を生む装置/経営者のための株価上昇――ストックオプションの弊害/アメリカ的資本主義への欧州からの批判/会社は誰のためにあるのか――注目されるイギリスの行方
  2 カリフォルニア電力危機に学べ
    イギリスの“実験”/垂直的統合のメリット/入札は最高提示価格によって決まる/危機で儲けた企業もある/部分自由化のメリット
  3 郵政民営化論議――アメリカ,ドイツ,イギリス,そして日本
    世界に進出しだしたドイツ・ポスト/民営化の幻想を捨てたアメリカ/イギリスは他山の石
  4 ステイクホルダー・カンパニーとストックホルダー・カンパニー
   (1)イギリスの会社法改正
   (2)企業の品格――企業の社会的責任
    格差と不平等は違う/人材派遣が生む不平等/虚業を許す税制の穴
   (3)フォードの経営とその裁判
    スミスとマーシャルともに反フリードマン
  5 成長なき安定・繁栄は可能か
    「静態的資本主義は形容矛盾」――シュンペーター/ケインズ理論でも「成長なくして安定なし」/科学技術の進歩は課題にこたえられるか/「成長なき安定」を可能にする方法はある/「人口減少」はチャンスだ

第2章 90年代不況の前奏曲――金融政策の転換・投機とその崩壊
  1 安定の20年から不安定の20年へ
    躍進の20年間/動揺の20年間――市場主義と右翼思想の台頭
  2 銀行の経営基礎の動揺
    間接金融方式の崩壊/日本の独創的金融システムとその崩壊
  3 巨額のキャピタル・ロスをもたらした投機
    バブルのはじまり――都心での地上げ/ワラント債のメカニズム/円高不況――その裏で円高による利益を求めての投機/国内で続く投機――それをあおった銀行融資/バブルの崩壊/銀行経営を追いこんだBIS規制/90年代の日本――30年代のアメリカ

第3章 「失われた20年」を検証する
  1 日本経済の現在
    損益分岐点の大きな低下――景気上昇の基礎にある経費削減/コスト低下と売上高低下の悪循環――そして,輸出増加が景気上昇を牽引している
  2 90年代不況に関する諸説の検討
    減税政策/低金利政策/ケインズ政策批判/構造改革/通貨政策
  3 有効な政策はなかったのか
    治療より予防/制度の整備/不況対策はなかったのか

第4章 「失われた20年」の帰結
  1 財政破綻と再分配機能の喪失
    家計ならとうに破綻/税による再分配機能がほとんどない/再分配の主役は社会保障/高齢者世帯の大きな所得不平等は改善する必要がある/税による再分配効果は過去においても小さかった
  2 所得格差の拡大
    所得格差は変化していないのか
  3 戦後労働政策の崩壊
    非正規職員の急増/規制緩和が歪んだ職場をつくった/労働者派遣法――新たな二重構造の進展
  4 高齢化にいかに対処するか
    まず年金,ついで医療,そして介護――値上げは続く/増税以外解決の道はない/財政再建への道――身を切る痛み・増税に耐えねばならない/年金と医療・介護とは異質である

終章 企業経営はこれでよいか
    ドーア教授のファクト・ファインディング/ルノーによる工場閉鎖――ベルギーと日本の違い/経営者――従業員の長老から裏切り集団へ/日本的経営は株主を無視していたのか/短期資金の外資流入が増加しつづけてよいのか/二つの企業観
  あとがき
伊東光晴(いとう みつはる)
京都大学名誉教授.1927年生まれ.東京商科大学(現一橋大学)卒業.東京外国語大学,法政大学,千葉大学,京都大学教授を経て,96年より現職.著書に『ケインズ』『現代に生きるケインズ』『シュンペーター』『経済学を問う』(全3巻).編著に『岩波 現代経済学事典』など多数.

書評情報

毎日新聞(朝刊) 2007年2月11日
日本経済新聞(朝刊) 2007年1月14日
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