日本の空をみつめて

気象予報と人生

何気なく見ている「天気」は,いかに文化や人生と関わるのか.身近な気象から深い思索に至る,気象エッセイ.

日本の空をみつめて
著者 倉嶋 厚
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2009/08/27
ISBN 9784000242653
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 262頁
在庫 品切れ
気象学の研究や予報の現場で60年にわたり活躍してきた著者の,四季や雲,雨,雪,風……といった身近な自然から文化や歴史を考察する,気象エッセイの到達点.戦争と気象予報の関わりや,人生の困難の中で見る空の記述は,何気なく見ている「天気」が生きることに深く関わっていることを,感動とともに読者に伝えてやまない.

■著者からのメッセージ

倉嶋 厚
 私は満85歳.気象庁の予報官,気象台長,テレビの気象キャスター,フリーの気象エッセイストの仕事をしている間に,日本の空の美しさに強く惹かれ,業余の時間に季節エッセイを書き続けてきました.
 それは主として日本人の季節感を気象,気候資料で裏づけたもので,私はこれを勝手に「人文気象学的季節ノート」「人文気候学的季節論」と名づけていました.そして,すでに20冊以上の単行本や文庫となって,多くの方々に読んでいただいております.
 本書には昨年までの12年間に書いた「大気の安定,不安定」など気象専門の項目を含む「乙女の帯」「星のささやき」「雪のない雪害」「朝開暮落花」「焼き味噌」「秋忘れ」「花笑み」「地球照」「頼みの節供」など多彩な約100項目の季節エッセイ,「気象から見た日本文化論の一例題」についての論考,気象学徒としての「青春回顧録」などが掲載されています.
 「日本の空」に「一生の恋」をしてしまった一介の気象技術者の晩年になってからの思いを,共感や批判とともに読んでいただければと,心から願っています.

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光柱,地球照,水平虹,空の水道,三つの夏, 竹の秋,花笑み,冬萌,ながし,樹雨…… 季節の流れや雲,雨,風といった身近な気象から始まる思索の旅. 60余年にわたって気象に関わる現場を歩んできた著者の,日本の空と人生への思い.
まえがき

I  空をみつめて

青春の道標
独学力行の父から心配事対処の方法/「露営の歌」の一節に静かに反発した父/軍事教練で不適格,勉強の評価フイに/直感で「自由」選び,気象台の養成所へ/教授と「雨降り問答」,「知らぬ」を知る生徒/心眼を覆うベール,謙虚こそ成長の道/徴兵控え死を意識,学業励み首席卒業/初めての天気図は「教科書」通りで失敗/特攻隊と共に終戦,四十年後に基地訪れ涙/復員後は再び勉強,公務員の誇り胸に/人生は後悔しない,「辛抱の道」妻と歩む/知ったかぶりせず後輩に教えを請う/定年退職,NHKへ,面白く最良の仕事

自己実現をめざして
妻と歩んだ気象の道/休眠打破/生きている地球について考える

II 季節と言葉

季節アルバム
秋高気爽,晴空万里/秋風白し/リンドウの花/飛行機雲の思い出/乙女の帯/六つの花/あなた任せ/光柱の季節/息白し/星のささやき/日脚伸ぶ/年内立春/「雪のない雪害」/木の根明く/三月三日に思う/お天気挨拶/鷹化して……/お天気師/黒曜石の思い出/竹の秋/光る雨/山笑う/雨の降る日は……/水平虹/諫鼓鳥/見つつ観ざりき/弟切草/小笠原高気圧/オホーツク海高気圧/望雲の情/うねり/朝開暮落花/18時のメロディー/風の盆/赤い実/焼き味噌/秋忘れ/いわし雲/お天気地名/小春日和/金枝玉葉/斜陽,月天心/満足度/冬の稲妻/地球照/光と影/裏日本/二月正月/ウィンド・チル/奇妙な木/頬白の歌/衣更着/黄色い花の春/世界気象デー/柳絮飛ぶ/南枝落ち北枝開く/霞のいろいろ/「賊軍」出身の気象台長/空の水道/沖縄戦/虎が雨/花笑み/明日の淵瀬/夏歌,秋歌/盆の秋/導雷の木/処暑/頼みの節供/大気の安定・不安定/仏滅の良夜/三友花/露量と降水量/オクトーバー/十三夜/

季節ノート
二十四気と清明/立夏,木洩れ日/梅雨と東南アジアの雨期/アカショウビンの思い出/冷房について思うこと/台風眼の記録/月と露と台風/「家計調査年報」に見る季節/人生の小春日和/山頂光,たそがれ,夕轟き/松の内,冬草,冬萌/緋寒桜と花吸い/梅花節,光の春,鳥の妻恋/二月風車,三月のライオン/春惜月,竹の秋,雨前・雨後の茶/みどりの日,保安林,樹雨/くすのき学問,うめのき学問/梅雨,五月雨,つゆ,ながし/水無月,水悩月,蝉の羽月/台風の発生,発達,移動/処暑,酔芙蓉,盆の月/燕去月,名月,結岸/春の愁い,秋の思い/柿と菊について思う/命なりけり/「人生の残日計」/神楽月,弟月,霞初月/薩摩しぐれ,若葉しぐれ/愛語の季節/人生別離足る

III 人文気象学を求めて

暑さと日本人――気象から見た日本文化論の一例題
日本の夏,ヨーロッパの夏/「夏」と「サマー」の語感の違い/水稲栽培の季節感/避暑,夏休み,サマー・タイム/家の作りやう/モンスーン・アジアの文化論/従来の気象風土論の破綻/冷房の普及/クーラーはぜいたく品か?/暮らしの無季化/冬型民家への移行――北海道にはサマーがある/北日本の気候と米作文化/郷土資料館的日本文化論の危惧/おわりに

風水害の時代的変容と防災気象情報のゆくえ――日本気象学会2005年度藤原賞受賞記念講演

あとがきに代えて
倉嶋 厚(くらしま あつし)
1924年長野市生まれ.
1949年中央気象台付属気象技術官養成所研究科(現・気象大学校)卒業.気象庁防災気象官,主任予報官,鹿児島気象台長などを歴任.理学博士.
1984年気象庁定年退職後,NHK解説委員となり気象放送の発展に力をつくすとともに,気象キャスター,気象エッセイストとして活躍する.
主な著書に『暮らしの気象学』(草思社),『やまない雨はない――妻の死,うつ病,それから…』(文藝春秋),『癒しの季節ノート』(幻冬舎)など多数.運輸省・交通文化賞,日本放送協会・放送文化賞,日本気象学会・藤原賞などを受賞.

書評情報

産経新聞 2010年6月4日
北海道新聞(朝刊) 2010年1月4日
週刊朝日 2009年11月6日号
毎日新聞(朝刊) 2009年10月25日
東京新聞(朝刊) 2009年10月11日
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