日露戦争 起源と開戦 (上)

ロシア側機密資料を読み込み,朝鮮問題に着目しながら日露戦争に至る過程を明らかにする,著者渾身の力作.

日露戦争 起源と開戦 (上)
著者 和田 春樹
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2009/12/18
ISBN 9784000242677
Cコード 0021
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 538頁
在庫 品切れ
日露を戦争に向かわせたのはロシアの極東侵略熱か.ロシア人は日本軍の力量を全く知らなかったのか.ロシア側機密資料の分析からは,司馬の『坂の上の雲』におけるそのような認識とは異なる実相が見えてきた.朝鮮問題の重要性に注目し,日本による「韓国併合」100年となる今,世に送る,著者渾身の力作.上巻は戦争の起源を維新前夜から辿る.


■編集部からのメッセージ
 司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』は,日本海海戦に勝利した直後にも関わらず,一人で子規の墓に参った秋山真之の寂しげな姿を描きながら悲観的な雰囲気の中で幕を閉じている.小説冒頭の,坂の上の青い天に白い雲がかがやくイメージからの落差は何を物語るのだろうか.日本近代史の栄光と悲惨とは――.
 日露戦争はなぜ起こったのか.ロシア史・朝鮮史を研究する者としてこの問いに答えることを使命と考え努力を続けてきた.著者は,ロシアの各文書館で日露戦争に関するロシア側の資料(当時の軍人の報告書その他)を渉猟した.それらからわかるのは,現代の日本人の一般常識的な日露戦争観とも,ロシア人の持つ日露戦争観とも異なる事実であった.なぜ異なるのか.ロシアで読まれ,司馬にも受け継がれた物語は,ウィッテやクロパトキンの,自分には開戦の責任が無いことを主張する,虚飾された自己弁護の書がもとであるからである.
 著者によって発掘された,ベゾブラーゾフ――主戦派政治家として考えられてきた人物――の日露同盟案は,「ロシアの侵略熱に追いつめられての開戦」というこれまでの見方に見直しを迫る.日本はこれを黙殺した.
 日露戦争を全面的に捉えるには,日本とロシアの二国間の関係だけではなく,朝鮮をめぐる戦争であったことに注目し,東アジアの問題として広く考えることが重要である.ロシア側が朝鮮をどう見ていたのか,各資料の記述の分析をし,またそれを朝鮮側の資料とつき合わせた.
 2010年の今年は韓国併合100年となる.上巻は,東学党の乱(東学農民叛乱),閔妃暗殺,日清戦争などが描かれ,下巻には開戦直前の交渉が詳細に描かれるが,植民地支配の歴史を考えるうえでも非常に重要な時期が,ロシア側の視線とともに語られる点でも注目されるべき本である.
 人物紹介
第一章 日露戦争はなぜ起こったか
第二章 近代初期の日本とロシア
第三章 日清戦争と戦後の日本・朝鮮・ロシア関係
第四章 ロシアの旅順占領と租借(一八九六-九九)
第五章 義和団事件と露清戦争
 略号一覧
 註(第一章から第五章まで)
和田春樹(わだ はるき)
1938年大阪に生まれる.東京大学文学部卒業.1998年3月まで東京大学社会科学研究所所長.
現在,東京大学名誉教授.東北大学東北アジア研究センター・フェロー.専攻=ロシア・ソ連史,現代朝鮮研究.主著に『ニコライ・ラッセル――国境を越えるナロードニキ』(上・下)(中央公論社),『金日成と満州抗日戦争』(平凡社),『朝鮮戦争全史』(岩波書店),『テロルと改革――アレクサンドル二世暗殺前後』(山川出版社),『ある戦後精神の形成1938―1965』(岩波書店).
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