日本型ワーキングプアの本質

多様性を包み込み活かす社会へ

同じワーキングプア問題を抱える韓国などとの比較を通じ,日本社会に内在する問題の本質を浮き彫りにする.

日本型ワーキングプアの本質
著者 大沢 真知子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2010/05/27
ISBN 9784000242714
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 254頁
在庫 品切れ
世界的な不況の影響を受け生まれた「年越し派遣村」は非正規労働とワーキングプアとが背中合わせにあることを明らかにした.同じ深刻な問題を抱える韓国などとの比較を通じて,「標準世帯」を前提とした日本の社会制度が機能不全に陥っており,社会に多様性を導入することが解決すべき本質であることを,豊富なデータと取材から浮き彫りにする.


■著者からのメッセージ
親の所得が低いために,普通の子供がもてるものがもてない状態に子供が置かれてしまっている.その子供の機会をうばっている原因をたどっていくと,戦後の日本の社会システムや夫婦の役割分業を当たり前として受け入れてきた日本人の意識にまでいきつく.非正社員とは世帯主に扶養されている労働者だという前提で導入されたさまざまな社会制度が,非正規労働者の賃金を下げているからだ.乱暴な言い方かもしれないが,これを放置しているということは,わたしたちが,これらのお母さんたちを経済的に困難な状況に陥れてしまっているということになる.本書では,分析に日韓比較という新たな視点を加えることができた.それによって,日本の非正規労働問題の本質がより明確になったのではないかとおもう.
──本文より


■編集部からのメッセージ
戦後日本の家族は大きく変化し多様化してきている.就業形態についても多様化が進んでいる.にもかかわらず,社会制度は,かっての標準世帯や就業形態が前提となって作られている.そのような標準にあてはまらない家族や就業形態の労働者に対しての生活保障やセーフティーネットはまったく整備されてこなかった.その多くは一生懸命働いても最低の生活も維持できない.標準でない働き方をする非正社員の世帯主が出現してはじめて社会問題となったのだ.これが日本型ワーキングプアの本質であることを本書は明らかにしてゆく.時代に適した雇用制度や法体系とは何なのか.そのなかで,格差の拡大をもたらさない社会制度とはどのようなものなのか……ヨーロッパ,アメリカ,韓国,多数の日本企業の豊富なインタビューや調査を踏まえて,実例を元に制度改革を提案する.
はじめに
第1章 「年越し派遣村」から見えたもの―社会的連帯は可能か
第2章 プレカリアートの増大―非正規労働者の日韓比較
第3章 日本における主婦パートの誕生とその変遷
第4章 子供の貧困からみえてくるもの―貧困の次世代への連鎖を断ち切れるか
第5章 壁を壊せるか
第6章 社会的連帯は可能か
第7章 だれもひとりでは生きられない―韓国社会の非正規問題へのアプローチ
第8章 希望の経済学
終章  多様性を包み込み活かす社会へ
参考文献
あとがき
大沢真知子(おおさわ まちこ)
1952年東京生まれ.日本女子大学人間社会学部教授.1975年成蹊大学文学部卒業.1980年南イリノイ大学経済学研究科博士課程修了.以後,コロンビア大学で研究活動を続け,1984年,Ph.D.(経済学博士).シカゴ大学ヒューレット・フェロー,ミシガン大学助教授,日本労働研究機構研究員,亜細亜大学助教授を経て現職.専門は労働経済学.経済発展の中で女性の就業機会や結婚・家族形成がどう変化していくのか,経済のグローバル化のなかで就業形態がどのように変化していくのか,を国際比較の視点から研究している.内閣府の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会,厚生労働省のパートタイム労働研究会などの委員を務め,雇用をめぐる制度や政策のあり方についても積極的な発言をしている.著書に『ワークライフシナジー―生活と仕事の〈相互作用〉が変える企業社会』『ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方』『コミュニティビジネスの時代』(岩波書店),『働き方の未来―非典型労働の日米欧比較』(日本労働研究機構),『経済変化と女子労働―日米の比較研究』(日本経済評論社),『新しい家族のための経済学』(中公新書)など多数.

書評情報

週刊東洋経済 2010年7月10日号
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