ハンナ・アレントの政治理論
アレント論集Ⅰ
崩壊した伝統の断片から真に本質的なものを救い出すこと──アレントが問い続けた思想的課題から,その政治理論の全貌を描く.
忘れられた古層から掘り出された過去の断片が豊かな思想へと変貌し,それが現代を把握し批判する最高の手だてとなる──アレントは,この確信に基づいて独自の政治理論を追求し,「反動と革命のユニークな知的混合体」と評されることになった.既存のカテゴリーに収まることを拒むアレントの政治理論の全貌を,第一人者が描いた労作.
■著者からのメッセージ
そもそも,ハンナ・アレント(1906~75)という思想家のどういうところが人々の関心を引いているのでしょうか.私自身は,彼女が,思想的にも,そして何よりも自らが遭遇し格闘した出来事という意味でも,20世紀を象徴する性格を持っているからだと感じています.
けれども,アレントの議論の中身は,さまざまな意味で異端的であり,挑発的です.たとえば,彼女の権力をめぐる議論にしても,それは基本的には,権力を抑制するための議論ではなく,権力を創出するための議論で,彼女にとって現代政治の困難は,実は権力の弱さ=欠如にこそあるのです.この認識は,リベラリズムを中心とした現代の政治思想の正統派から見れば,異端的であり,胡散臭くさえあるでしょう.そしてこうした事情が,アレント「大好き人間」と「大嫌い人間」をつくってしまうのかもしれません.
本書に収録された主論文は,1980年代半ばに発表した私の最初のアレント論です.当時,この論文は,「アレントと対話しているみたいだ」とも「あまりアレントに対して愛情が感じられない」とも言われた記憶があります.今にして思うと,見る人が見ると自分よりよくわかるものだと思います.たしかに,私はアレントの主張に何もかも大賛成という「大好き人間」であったためしはなく,いつも彼女の著作には少なからず違和感をかき立てられてきました.だからその意味では「愛情」はありません.けれども,いろいろなことを,今までとは違うふうに考えさせてくれる素晴らしい先生であり,僭越ながら書物を通じた「対話」の相手としては最高に楽しい人だとも思います.そして対話の相手としては,ちょっと「危うい」ところも魅力なのかもしれません.
ですから,読者の皆さんとアレントとの対話に,この本が同席させてもらえて,その対話をより楽しい闊達なものにすることがもしできれば,私としてはそれ以上の喜びはありません.
■著者からのメッセージ
そもそも,ハンナ・アレント(1906~75)という思想家のどういうところが人々の関心を引いているのでしょうか.私自身は,彼女が,思想的にも,そして何よりも自らが遭遇し格闘した出来事という意味でも,20世紀を象徴する性格を持っているからだと感じています.
けれども,アレントの議論の中身は,さまざまな意味で異端的であり,挑発的です.たとえば,彼女の権力をめぐる議論にしても,それは基本的には,権力を抑制するための議論ではなく,権力を創出するための議論で,彼女にとって現代政治の困難は,実は権力の弱さ=欠如にこそあるのです.この認識は,リベラリズムを中心とした現代の政治思想の正統派から見れば,異端的であり,胡散臭くさえあるでしょう.そしてこうした事情が,アレント「大好き人間」と「大嫌い人間」をつくってしまうのかもしれません.
本書に収録された主論文は,1980年代半ばに発表した私の最初のアレント論です.当時,この論文は,「アレントと対話しているみたいだ」とも「あまりアレントに対して愛情が感じられない」とも言われた記憶があります.今にして思うと,見る人が見ると自分よりよくわかるものだと思います.たしかに,私はアレントの主張に何もかも大賛成という「大好き人間」であったためしはなく,いつも彼女の著作には少なからず違和感をかき立てられてきました.だからその意味では「愛情」はありません.けれども,いろいろなことを,今までとは違うふうに考えさせてくれる素晴らしい先生であり,僭越ながら書物を通じた「対話」の相手としては最高に楽しい人だとも思います.そして対話の相手としては,ちょっと「危うい」ところも魅力なのかもしれません.
ですから,読者の皆さんとアレントとの対話に,この本が同席させてもらえて,その対話をより楽しい闊達なものにすることがもしできれば,私としてはそれ以上の喜びはありません.
川崎 修
まえがき
ハンナ・アレントの政治思想――哲学・人間学・政治理論
序
第一章 活動的生活と精神の生活
A 活動的生活
第一節 労働
第二節 仕事
第三節 活動
第四節 活動的生活の三類型の意義
B 精神の生活
第一節 思考
第二節 意志
第三節 判断力
第四節 精神の生活と時間性
第二章 「世界」と人間
第一節 知覚と世界
第二節 人工物の世界
第三節 世界と「公的なるもの」
第三章 政治の概念
第一節 「公的」・「私的」・「社会的」
第二節 自由と活動としての政治
補論 アレントと実存主義
第三節 権力と機構
第四節 権威と伝統
第五節 判断力の役割
結びにかえて
付論 アレントを導入する
索引
ハンナ・アレントの政治思想――哲学・人間学・政治理論
序
第一章 活動的生活と精神の生活
A 活動的生活
第一節 労働
第二節 仕事
第三節 活動
第四節 活動的生活の三類型の意義
B 精神の生活
第一節 思考
第二節 意志
第三節 判断力
第四節 精神の生活と時間性
第二章 「世界」と人間
第一節 知覚と世界
第二節 人工物の世界
第三節 世界と「公的なるもの」
第三章 政治の概念
第一節 「公的」・「私的」・「社会的」
第二節 自由と活動としての政治
補論 アレントと実存主義
第三節 権力と機構
第四節 権威と伝統
第五節 判断力の役割
結びにかえて
付論 アレントを導入する
索引
川崎 修(かわさき おさむ)
1958年生まれ.東京大学法学部卒業.現在,立教大学法学部教授.
専攻は政治学・政治学史.
著作に,『アレント――公共性の復権』(講談社,1998年),『現代政治理論』(共編,有斐閣,2006年),『岩波 社会思想事典』(共編,岩波書店,2008年)などがある.
1958年生まれ.東京大学法学部卒業.現在,立教大学法学部教授.
専攻は政治学・政治学史.
著作に,『アレント――公共性の復権』(講談社,1998年),『現代政治理論』(共編,有斐閣,2006年),『岩波 社会思想事典』(共編,岩波書店,2008年)などがある.
書評情報
週刊読書人 2010年7月23日号
読売新聞(朝刊) 2010年7月18日
図書新聞 2010年6月26日号
読売新聞(朝刊) 2010年5月17日
朝日新聞(朝刊) 2010年3月28日
読売新聞(朝刊) 2010年7月18日
図書新聞 2010年6月26日号
読売新聞(朝刊) 2010年5月17日
朝日新聞(朝刊) 2010年3月28日