半透明の美学

透明でも不透明でもなく,白でも黒でもない「半透明の美学」が開示する豊かな世界とは? 書き下ろし.

半透明の美学
著者 岡田 温司
ジャンル 書籍 > 単行本 > 芸術
刊行日 2010/08/27
ISBN 9784000244619
Cコード 0070
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 234頁
在庫 品切れ
半透明――透明でも不透明でもなく,白でも黒でもなく,なんとも曖昧な妖しい世界.しかし,そのどっちつかずの両義性にこそ,従来の窮屈な芸術観を乗りこえる豊かな可能性が潜んでいるとしたら? アリストテレス,聖書,ダンテ,ドゥルーズらの言葉と数々の芸術作品との交差点から,知られざる「半透明の美学」が姿を現す.

■著者からのメッセージ

ちなみに,「半透明」をネットで検索してみよう.いちばんたくさん出てくるのは,ご想像のとおり,ゴミ袋に関する項目である.何よりもこのことが,「半透明」にたいするわたしたちの,どちらかというと負のイメージを象徴している.要するに,お払い箱,あいまい,役立たず,というわけである.
 それにもかかわらず,なぜ「半透明」について論じようとするのか.そもそもいったい,今このときに思考するにあたいするどんな意味が,「半透明」なるものにあるというのだろうか.のっけから,読者の皆さんの多くがそんな疑問を抱かれているにちがいない.だが,それにもかかわらず,「ゴミ袋」にも等しい世界にあえて皆さんを誘うこと,それが小著の意図するところである.
 そのためにわたしは,四つの扉を用意した.まずは,第I章「透明でもなく,不透明でもなく」.ここでわたしは,「透明か,不透明か」のドラスティックな二分法で物事をかたづけてしまいがちなわたしたちの傾向にたいして,(過去から現代の芸術の批評を例に)いくつかの観点から問題を提起した.
 つづく第II章「半透明の美学=感性学」では,透明にも不透明にも回収されていかない感性と思考のモデルを,アリストテレスの「ディアファネース」という新造語のうちに探りだそうと試みた.そしてさらに,それが中世から近世にかけてたどることになる運命――アヴェロエス,ダンテ,ルネサンス,ケプラーなど――を素描した.
 次に第III章「半透明のイコノグラフィー」では,これまで否定的か消極的にしか扱われてこなかったもの――灰色,埃,ヴェール――に着目して,「ディアファネース」なるものがいかなる想像力をかきたて,いかに表象されてきたかを,過去と現在の芸術をアナクロニスティックに往復しながら跡づけた.
 最後に第IV章「半透明の星座」では,20世紀の思想において,奇しくも「ディアファネース」と共鳴していると思われるもののいくつかに登場を願い,いわば「半透明座」とでも呼べるものの薄すらとした,しかし確かな輝きを皆さんにご覧にいれたいと考えた.
 それがどこまで功を奏しているか,その判断は読者の皆さんに委ねるしかない.少しおこがましい言い方を許してもらえるなら,小著はいわば「半透明の系譜学」とでも呼びうるものになるであろうが,「系譜学」をいみじくも「灰色」になぞらえたのは,現代におけるその生みの親ミシェル・フーコーであった.それでは,「ディアファネース」なるもの,あるいは「半透明」の世界へとご案内することにしよう.
(本書「はじめに」より)



-

透明でも不透明でもない曖昧な領域.
あるいは灰色,埃,ヴェール….
アリストテレスの「ディアファネース」なる概念を探索の糸口に,古今の芸術と思想を自在に往復しながら半透明の世界への豊かな輝きを照らしだす.
はじめに
第I章 透明でもなく,不透明でもなく
  なぜ半透明なのか/透明性不透明性/フォルムアンフォルム/アンフォルムと「モノ」/絵画の起源をめぐって/「カメラ・オブスクラ」とその対抗モデル
第II章 半透明の美学=感性学
  アリストテレスの「ディアファネース」/「ディアファネース」と「分有」/聖書のなかの「半透明」/アヴェロエスの「ディアファーヌム」/ロジャー・ベーコンの「ディアファーヌム」/ダンテの「ディアーファノ」,その一――存在論/その二――言語論/その三――知の体系と天体論/その四――イメージをめぐって/その後の「ディアファネース」
第III章 半透明のイコノグラフィー
  灰色,あるいは「色の震え」/灰色の魔術師,ゲルハルト・リヒター/灰色の両義性/「灰色に注意!」/生と死の,はじまりと終わりの色/生成変化の色/二種類の灰色/ベーコンの灰色/運命としての灰色/灰と埃/埃の美しさ/万物の根源としての埃/変化としての埃,時間としての埃/モランディの埃/「埃の形而上学的意味」――パルミッジャーニの場合/埃としてのデッサン/埃の培養/ヴェールとインティミットなもの/ヴェールとしての雲/肉というヴェール
第IV章 半透明の星座
  「肉」と「ディアファネース」/「肉」の検討と展開/イメージとしての「肉」/「クリスタル―イメージ」――『シネマ1』から『シネマ2』へ/「クリスタル-イメージ」と「識別不可能性」/「クリスタル-イメージ」の系譜学/「何だかわからないもの」という非-知/非-場として,アナクロニーとしての「何だかわからないもの」/「小さな知覚」と「何だかわからないもの」/「極薄(アンフラマンス)」
  おわりに
  人名索引
岡田 温司(おかだ あつし)
1954年生まれ.京都大学大学院教授.西洋美術史・思想史.
著書に『もうひとつのルネサンス』,『芸術と生政治』,『フロイトのイタリア』(読売文学賞)(以上,平凡社),『肖像のエニグマ』,『グランドツアー 18世紀イタリアへの旅』(以上,岩波書店),『イタリア現代思想への招待』(講談社選書メチエ),『モランディとその時代』(吉田秀和賞),『ルネサンスの美人論』(以上,人文書院),『ミメーシスを超えて』(勁草書房),『処女懐胎』,『マグダラのマリア』,『キリストの身体』(以上,中公新書)など.編著に『カラヴァッジョ鑑』(人文書院)ほか.訳書にロンギ『芸術論叢』(監訳,ピーコ・デッラ・ミランドラ賞,中央公論美術出版),アガンベン『イタリア的カテゴリー 詩学序説』(監訳,みすず書房),『スタンツェ』(ありな書房),エスポジト『近代政治の脱構築』(講談社選書メチエ)など.

書評情報

週刊読書人 2010年12月17日号
北海道新聞(朝刊) 2010年10月17日
日本経済新聞(朝刊) 2010年10月3日
ページトップへ戻る