フタバから遠く離れて

避難所からみた原発と日本社会

福島県双葉町の避難所に密着した映画作家が見たものは.関係者への豊富なインタビューを盛り込んだ書き下ろし.

フタバから遠く離れて
著者 舩橋 淳
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2012/10/16
ISBN 9784000246750
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 並製 ・ 212頁
在庫 品切れ
3月11日以降,町全体が警戒区域となり,町ごと埼玉県に避難した福島県双葉町.その後一年のあいだ,埼玉県加須市・旧騎西高校の避難所に密着した映画作家が見たものは.原発立地自治体である町の歴史,住民の苦しみ,国への思いと行動が織りなす現在とは.井戸川克隆町長へのインタビューも収録.同名映画の公開に合わせ緊急出版.

■著者からのメッセージ

この本は,双葉町と双葉郡の人々に捧げられている.
 福島県内,西日本,旧騎西高校と日本中にちりぢりとなってしまった双葉の方々が,近い日にいつか再びどこかで根を下ろし,安心な毎日を送ることができることを願いつつ,この本の言葉は紡がれている.


 ここに記した文章は,原発を持つことにはどんなリスクを伴うのか,正面から向き合い,生産的な話がしたい,という意図に貫かれている.ぜひ双葉地方はもちろん外の方,他の原発立地市町村の方に読んでいただきたい.被曝のこと,避難のこと,生活再建のこと,失われた町の風土・歴史・文化のことなど,逼迫した金銭の問題から,長期にわたる潜在的な問題まで,複層的にダメージをもたらしているのが,今回の原発事故であると思う.
 震災の実害を受けていない日本の他の地域からすると,これらはすべて過去に起きたことの埋め合わせ,後ろ向きな話としての印象があるかもしれない.しかし,本書で明らかにしたとおり,これらの問題は,今まで日本が抱えてきた地方と中央の不平等な関係に根ざしている.日本の未来にも関わってくる,本質的な問題である.



 双葉町に起きたことは,日本中,どの地方都市にも起こりうる.
 シャッター街だらけで,没落してゆく地域経済の抱える病根は,共通である.

 ある女性に,なぜここまで生活の中を晒(さら)して,私に撮影させてくれるのかと伺ったことがある.彼女は言った.
 「あたしの経験をね,繰り返してほしくないの…….だって,こんなになるって双葉の誰も,思わなかったと思うよ.」
 どんなに辛く惨めな状況にあろうとも自分のことを客観視できている,この女性はとても聡明だな,と私は思った.自分の窮状を訴えて助けて欲しい! というのではなく,歴史の中で,自分を客観的に位置づけている.このような場面は一度ではなかったが,そのつど,この人々と出会ってしまった以上,この現実を伝える責任が私にあると強く感じた.それは安易なヒロイズムではなく,どうしても譲れない問題意識からである.
(本書「あとがき」より)
プロローグ

第一章 最も遠くへ避難した町の一年

梅雨



二回目の春

【ポートレート】 旧埼玉県立騎西高校 撮影・舩橋淳

第二章 震災と映像

第三章 避難所からみたニッポン
一 避難所からみた再稼働問題
二 避難所からみた地方政治
三 避難所からみた民主主義

井戸川克隆町長インタビュー
敢えて,皆さんに見ていただきたい

あとがき
舩橋 淳(ふなはし あつし)
1974年大阪生まれ.東京大学教養学部卒業後,ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアルアーツで映画製作を学ぶ.処女作の16ミリ作品『echoes』(2001)は東京国際,ミュンヘン,カルロヴィ・ヴァリ等の映画祭へ招待され,仏アノネー国際映画祭で審査員特別賞・観客賞を受賞,翌年日米で劇場公開された.第2作『BIG RIVER』(2006)は企画段階でベルリン映画祭共同プロダクション・マーケットに選ばれオフィス北野が製作し,ベルリン映画祭,釜山映画祭でプレミア上映,日本で劇場公開された.以降の作品に『谷中暮色』(2009).ニューヨークでは時事・社会問題を扱ったドキュメンタリーを製作,アルツハイマー病に関するドキュメンタリーで米テリー賞を受賞(2005年).文筆活動としては「キネマ旬報」「ユリイカ」「世界」などに寄稿.内外の映画作家へのインタビューも多く,『全貌フレデリック・ワイズマン アメリカ合衆国を記録する』では,アメリカ最大の映画作家にロングインタビューを行った.『フタバから遠く離れて』は初のドキュメンタリー監督作.2012年ベルリン国際映画祭でプレミア上映され,同年秋以降,全国順次公開.劇映画『桜並木の満開の下に』が2013年春に公開された.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2012年10月25日
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