フェルメールの帽子
作品から読み解くグローバル化の夜明け
画家のマジックに閉じ込められたのは“美”だけではない.一七世紀の壮大な東西交流の世界へ,いま扉が開かれる!
著者 | ティモシー・ブルック 著 , 本野 英一 訳 |
---|---|
ジャンル | 書籍 > 単行本 > 文学・文学論 |
刊行日 | 2014/05/29 |
ISBN | 9784000246965 |
Cコード | 0098 |
体裁 | 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 334頁 |
在庫 | 品切れ |
“永遠の瞬間”を描き留め,いずれの作品も珠玉の絵画と賞されるオランダの画家,フェルメール.しかし,画家のマジックに閉じ込められたのは“美”だけではない.アジア航路探索,米大陸での銀採掘,チャイナ・ブーム――17世紀の壮大な東西交流の世界へ,いま扉が開かれる! あなたがまだ見たことのない,フェルメールの新世界.
■著者からのメッセージ
絵画は眺める楽しみは措くとして,みなさんも絵画の表層に近づいて,描かれているオブジェをよく目を凝らして観ていただきたい.そしてそれらをこの絵画が制作された時代と場所を示す手がかりとして観てはいかが,と.そうしたヒントは,描かれたときには大部分が無意識のまま,絵画の中に潜り込んでいる.(中略)
そこに描かれたオブジェを単に窓の背後に隠れた支柱ではなく,開かれた扉であると眺めるならば,作品自体が認めたわけでもなく,また画家自身も恐らく意識しなかったであろう,17世紀の世界の発見へと続く道に立っている自分自身を見出すことだろう.こうした扉の背後には,誰にも知られていない回廊と隠れた横道がある.それらは,私たちが考え及びもつかない驚くようなやり方で,混乱に満ちたわれわれが生きる現在を,単純でないことだけは確かだった過去に結びつけているのだ.そして,これからの分析を待つ七点の絵画の中に描き込まれたオブジェ一つ一つが見せる,17世紀デルフトの複雑な過去から投げかけられるテーマがあるとするならば,それはデルフトだけに限らない.地球全体へ広がる世界に共通するものなのである.
■訳者からのメッセージ
昨今,世界中でレンブラントを凌ぐ人気を獲得するに到ったフェルメールの作品他,当時のオランダ絵画や骨董品を用いながら近世東西交流史を描く着想を,著者は一体どのようにして得たのか.また,本書の根底にはいかなる問題意識があるのか.これらの点について,興味深い情報をもたらしてくれるのは,2007年12月に,フェルメール愛好家向けのインターネットサイト,Essential Vermeerに掲載された著者のインタビュー記事である.
著者がこのインタビューに答えて語るところでは,本書の着想は,学部一年生を対象に世界史を教えた体験から始まった.特に中国について深く考えたこともないような新入生に,彼らが漠然と思い描いていた世界史とは,地球の裏側へと広がる複雑な交流の網の目によって出来ているのだと教えたい一心であったという.そしてこの願いは,中国とヨーロッパの間の巨大な隔たりが事実上初めて消滅した17世紀前半の動向を,これまでとは違った角度から扱ってみたいという思いへ発展した.
著者がフェルメールの作品を用いることを思いついたのは,17世紀のヨーロッパ人の間でいかに地図が高い人気を誇っていたのかを学生に説明する際,『兵士と笑う娘』を事例に取り上げたことがきっかけであった.フェルメール作品に限らず,黄金時代のオランダ絵画の中に,中国や日本から渡来した品が描き込まれていることは,西洋美術ファンなら誰でも知っている.だが,これを正面切って取り上げ,その社会経済史的背景をここまで踏み込んで考察した歴史書は,他に類例を見ないのではないか.
■参考文献
PDFファイル(約550kb)
■著者からのメッセージ
絵画は眺める楽しみは措くとして,みなさんも絵画の表層に近づいて,描かれているオブジェをよく目を凝らして観ていただきたい.そしてそれらをこの絵画が制作された時代と場所を示す手がかりとして観てはいかが,と.そうしたヒントは,描かれたときには大部分が無意識のまま,絵画の中に潜り込んでいる.(中略)
そこに描かれたオブジェを単に窓の背後に隠れた支柱ではなく,開かれた扉であると眺めるならば,作品自体が認めたわけでもなく,また画家自身も恐らく意識しなかったであろう,17世紀の世界の発見へと続く道に立っている自分自身を見出すことだろう.こうした扉の背後には,誰にも知られていない回廊と隠れた横道がある.それらは,私たちが考え及びもつかない驚くようなやり方で,混乱に満ちたわれわれが生きる現在を,単純でないことだけは確かだった過去に結びつけているのだ.そして,これからの分析を待つ七点の絵画の中に描き込まれたオブジェ一つ一つが見せる,17世紀デルフトの複雑な過去から投げかけられるテーマがあるとするならば,それはデルフトだけに限らない.地球全体へ広がる世界に共通するものなのである.
(本書「第1章」より)
■訳者からのメッセージ
昨今,世界中でレンブラントを凌ぐ人気を獲得するに到ったフェルメールの作品他,当時のオランダ絵画や骨董品を用いながら近世東西交流史を描く着想を,著者は一体どのようにして得たのか.また,本書の根底にはいかなる問題意識があるのか.これらの点について,興味深い情報をもたらしてくれるのは,2007年12月に,フェルメール愛好家向けのインターネットサイト,Essential Vermeerに掲載された著者のインタビュー記事である.
著者がこのインタビューに答えて語るところでは,本書の着想は,学部一年生を対象に世界史を教えた体験から始まった.特に中国について深く考えたこともないような新入生に,彼らが漠然と思い描いていた世界史とは,地球の裏側へと広がる複雑な交流の網の目によって出来ているのだと教えたい一心であったという.そしてこの願いは,中国とヨーロッパの間の巨大な隔たりが事実上初めて消滅した17世紀前半の動向を,これまでとは違った角度から扱ってみたいという思いへ発展した.
著者がフェルメールの作品を用いることを思いついたのは,17世紀のヨーロッパ人の間でいかに地図が高い人気を誇っていたのかを学生に説明する際,『兵士と笑う娘』を事例に取り上げたことがきっかけであった.フェルメール作品に限らず,黄金時代のオランダ絵画の中に,中国や日本から渡来した品が描き込まれていることは,西洋美術ファンなら誰でも知っている.だが,これを正面切って取り上げ,その社会経済史的背景をここまで踏み込んで考察した歴史書は,他に類例を見ないのではないか.
(本書「訳者あとがき」より)
■参考文献
PDFファイル(約550kb)
日本語版への序文
第一章 デルフトからの眺め
第二章 フェルメールの帽子
第三章 果物皿
第四章 地理学の授業
第五章 喫煙の学校
第六章 銀の計量
第七章 旅路
第八章 何人も一島嶼にては非ず
謝辞
原注
訳注
訳者あとがき
図版クレジット
第一章 デルフトからの眺め
第二章 フェルメールの帽子
第三章 果物皿
第四章 地理学の授業
第五章 喫煙の学校
第六章 銀の計量
第七章 旅路
第八章 何人も一島嶼にては非ず
謝辞
原注
訳注
訳者あとがき
図版クレジット
ティモシー・ブルック(Timothy Brook)
カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学教授(中国史).著書にConfusions of Pleasure: Commerce and Culture in Ming China (University of California Press, 1998)など.
本野英一(もとの・えいいち)
1955年東京都生まれ.早稲田大学政治経済学術院教授.著書にConflict and Cooperation in Sino-British Business, 1860-1911: The Impact of the Pro-British Commercial Network in Shanghai (Basingstoke: Macmillan/St. Antony's Series, 2000),『伝統中国商業秩序の崩壊――不平等条約体制と「英語を話す中国人」』(名古屋大学出版会,2004年),訳書にロバート・ビッカーズ『上海租界興亡史』(昭和堂,2009年)など.
カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学教授(中国史).著書にConfusions of Pleasure: Commerce and Culture in Ming China (University of California Press, 1998)など.
本野英一(もとの・えいいち)
1955年東京都生まれ.早稲田大学政治経済学術院教授.著書にConflict and Cooperation in Sino-British Business, 1860-1911: The Impact of the Pro-British Commercial Network in Shanghai (Basingstoke: Macmillan/St. Antony's Series, 2000),『伝統中国商業秩序の崩壊――不平等条約体制と「英語を話す中国人」』(名古屋大学出版会,2004年),訳書にロバート・ビッカーズ『上海租界興亡史』(昭和堂,2009年)など.
書評情報
朝日新聞(be) 2015年8月29日
文藝春秋 2014年12月号
東京新聞(朝刊) 2014年10月12日
日本経済新聞(朝刊) 2014年9月21日
週刊エコノミスト 2014年9月2日号
信濃毎日新聞(朝刊) 2014年8月17日
美術手帖 2014年8月号
文藝春秋 2014年12月号
東京新聞(朝刊) 2014年10月12日
日本経済新聞(朝刊) 2014年9月21日
週刊エコノミスト 2014年9月2日号
信濃毎日新聞(朝刊) 2014年8月17日
美術手帖 2014年8月号