墓標なき草原 (上)

内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録(全2冊)

内モンゴルにおける文革の要因と,漢族による略奪と殺害の実態を,体験者の証言を軸に克明にたどる.

墓標なき草原 (上)
著者 楊 海英
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2009/12/18
ISBN 9784000247719
Cコード 0022
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 306頁
在庫 品切れ
他に先がけて文革の火蓋が切られた内モンゴルでは,かつて日本時代に教育を受けた者たちが「内モンゴル人民革命党」一派として粛清され,階級闘争論によって漢族による草原の開墾とモンゴル族の迫害が正当化され,略奪と殺害がエスカレートしていった.内モンゴルの文革の要因と拡大化の実態を,体験者の証言を軸に克明にたどる.


■著者からのメッセージ
 『墓標なき草原(上・下)』に寄せる思い

 「20世紀を震撼させた十大歴史的事件」の一つに,中国の文化大革命が選ばれたことがあります.世界に激震を与えた文化大革命の実態はまだ完全に解明されていませんが,その中にモンゴルなど少数民族の大量虐殺が含まれていることはまぎれもない事実です.
 18年間にわたって資料を集め,多くの人びとに会ってインタビューをしてきました.調査中には被害者たちと一緒に泣きました.インタビューの記録をもとに原稿を書き上げる途中も涙が止まらなくて何度も中断しました.被害者たちの怒りと悲しみを冷静に振り返り,歴史的な事実だけを活字にまとめるのは長い道のりでした.

 「モンゴル人大量虐殺事件」は,日本の殖民地支配に対する間接的な清算でもあるのです.日本の近代史が中国の文化大革命に落とした影を読み取っていただければ幸いです.
(楊海英)
■上巻

はじめに――内モンゴルの文化大革命に至る道

人物紹介・重要歴史事項
地図

序章 「社会主義中国は貧しい人々の味方」――中国共産党を信じた牧畜民バイワル

第 I 部 「日本刀をぶら下げた連中」
第1章 日本から学んだモンゴル人の共産主義思想―一高生トブシン,毛澤東の百花斉放に散る
第2章 「亡国の輩になりたくなかった」――満洲建国大学のトグスの夢
第3章 「モンゴル族は中国の奴隷にすぎない」――「内モンゴルのシンドラー」,ジュテークチ

第II部 ジュニアたちの造反
第4章 「動物園の烽火」――師範学院のモンゴル人造反派ハラフ
第5章 陰謀の集大成としての文化大革命――師範大学名誉教授リンセの経験
第6章 漢人農民が完成させた「光栄な殺戮」――草原の造反派フレルバートル


■下巻
第III部 根元から紅い「延安派」
第7章 「モンゴル人を殺して,モンゴル族の人心を得る」――延安派に嫁いだオルドス・モンゴル人女性,奇琳花
第8章 「モンゴル人虐殺は正しかった」――所詮は「地方民族主義」にすぎぬ延安派オーノス
第9章 「モンゴル人がいくら死んでも,埋める場所はある」――大沙漠に散った延安派幹部アムルリングイ

第IV部 トゥク悲史――小さな人民公社での大量虐殺
第10章 「文明人」が作った巨大な処刑場――トゥク人民公社の元書記ハスビリクトの経験
第11章 「中国ではモンゴル人の命ほど軽いものはない」――家族全員を失ったチムスレン
第12章 「モンゴル人が死ねば,食料の節約になる」――革命委員会主任エルデニの回想

終章 スケープゴートもモンゴル人でなければならない――息子が語る「抗日作家」のウラーンバガナ
視座 ジェノサイドとしての中国文化大革命

おわりに――オリンピック・イヤーの「中国文化大革命」
楊海英(よう・かいえい)
モンゴル名オーノス・チョクトを翻訳した日本名は大野旭.1964年,内モンゴル自治区オルドス生まれ.北京第二外国語学院大学日本語学科卒業.89年3月来日.国立民族学博物館・総合研究大学院大学博士課程修了.博士(文学).静岡大学人文学部教授.主な著作に『草原と馬とモンゴル人』(NHKブックス,2001年),『チンギス・ハーン祭祀――試みとしての歴史人類学的再編』(風響社,2004年),『モンゴル草原の文人たち』(平凡社,2005年),『モンゴルとイスラーム的中国――民族形成をたどる歴史人類学紀行』(風響社,2007年),『モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料(1)――滕海清将軍の講話を中心に』(編,風響社,2009年)などがある.

書評情報

産経新聞 2012年1月14日
フィナンシャルジャパン 2011年4月号
電気新聞 2011年3月11日
産経新聞 2011年2月23日
金融財政ビジネス 第10143号(2011年2月21日)
産経新聞 2010年12月20日
朝日新聞(朝刊) 2010年12月19日
中日新聞(朝刊) 2010年12月10日
文藝春秋 2010年6月号
日本経済新聞(朝刊) 2010年5月1日
経済界 2010年4月6日号
外交フォーラム 2010年4月号
図書新聞 2010年3月6日号
毎日新聞(朝刊) 2010年1月25日
読売新聞(朝刊) 2010年1月24日

受賞情報

第14回司馬遼太郎賞(2011年)
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