マルコ・ポーロ 東方見聞録

原初の形に近い中世フランス語写本(fr.2810)を忠実に翻訳.写本を手にした人々の驚きが伝わる.

マルコ・ポーロ 東方見聞録
著者 月村 辰雄 , 久保田 勝一
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2012/05/16
ISBN 9784000248150
Cコード 0022
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 314頁
在庫 品切れ
『東方見聞録』は13世紀末の成立当初より人気を博し,数多くの写本が作られた.本書は,そのうち原初の形に近いとされる中世フランス語写本(フランス国立図書館蔵,fr.2810)より初めて直接翻訳がなされた『全訳 マルコ・ポーロ 東方見聞録』の待望の普及版である.写本に忠実な翻訳からアジアの驚異に対する当時の王侯貴族の驚きが伝わってくる.

■編集部からのメッセージ

1271年,17歳の青年マルコ・ポーロは,ヴェネツィアの商人である父ニコロと叔父マフェオにともなわれて東方に旅立ち,クビライ・カーンに謁見,帰郷したのは1295年,出発から24年後のことでした.その後マルコは,ジェノヴァとの戦いで捕虜となり,牢獄で東方への大旅行で見聞したことを語り,多くの人々を魅了することとなります.このマルコの語りを同じく牢獄にいた物語作家ピサのルスティケッロが書きとどめたとされるのが『東方見聞録』で,成立当初より人気を博し,数多くの写本が作られました.コロンブスも,『東方見聞録』の刊本を携えて大航海に旅立ちました.
 『東方見聞録』は,今日まで140を超える写本が伝えられていますが,小社では,そのうち原初の形に近いと目される中世フランス語写本のひとつ,フランス国立図書館蔵になる豪華写本fr.2810の精確な複製(ファクシミリ版)を最新の研究成果とともに刊行し(1998年),さらにその忠実な翻訳と絢爛たる全挿絵を付した美術書『全訳 マルコ・ポーロ 東方見聞録』(2002年)を刊行しました.これまで日本で行われてきた翻訳はいずれも近代の刊本の英語訳を底本としていましたが,この「全訳」は原写本からなされた初の翻訳として,好評を博しました.今回の『マルコ・ポーロ 東方見聞録』は,この「全訳」の待望の普及版です.原テクストに忠実な翻訳から,写本を手にした当時のヨーロッパ王侯貴族の,アジアの驚異に対する驚きが伝わってきます.
【編集部:大宮伸介】
1 プロローグ
ここにマルコ・ポーロの驚異についての書が始まる
これよりマルコ・ポーロの,大アジアと大小インドと世界のさまざまな地域の驚異についての書が始まる

2 旅のあらまし
どのようにして二人の兄弟がこの世界を探求するためにコンスタンチノープルを出発したか
どのように二人の兄弟はソルダイアを離れたか
どのように二人は砂漠を越えてバカラの町に着いたか
どのように二人は使者を信じて大カーンのもとへ向かったか
どのようにして二人の兄弟は大カーンのもとに着いたか
大カーンはどのようにキリスト教徒について,特にローマ教皇について質問したか
どのようにして大カーンが二人を教皇への使者として送ったか
どのようにして大カーンが黄金の牌符を与えたか
どのようにして二人の兄弟がアークルの町に到着したか
どのようにして二人の兄弟がニコロ殿の息子マルコを連れ,大カーンのもとに赴くためにヴェネツィアを出発したか
どのようにして二人の兄弟とマルコがアークルを出発したか
どのようにして二人の兄弟が教皇のもとに至ったか
どのようにしてニコロ殿とマフェオ殿がマルコを伴って大カーンのもとに赴いたか
どのようにしてニコロ殿とマフェオ殿とマルコが大カーンの御前に進み出たか
どのようにして大カーンがマルコを使節として派遣したか
どのようにしてマルコが使節のつとめを終えて戻って来たか
どのようにしてニコロ殿とマフェオ殿とマルコが大カーンに暇乞いを求めたか
どのようにして二人の兄弟とマルコ殿が大カーンのもとを立ち去ったか

3 小アジアからパミール高原へ
まず小アルメニアについて
チュルクムニーについて
大アルメニアについて
ジョルガニーとその王について
南東の境にあるモスル王国について
名高い都市バウダと,カリフの監禁について
どのようにしてバウダのカリフがその領土のキリスト教徒を殺そうとしたか
キリスト教徒たちがどれほどカリフの命令に怯えたか
どのようにして司教に何度も幻視が訪れたか
キリスト教徒への愛ゆえに主がなした素晴らしい奇蹟について,また,神の名によってどのように山が動いたかについて
名高いタヴリスの町の素晴らしい富について
三人の王が埋葬されているペルシアのサバという町について
どうしてこの三人の王が石を井戸に投げ込んだか
ペルシアの八王国とその名について
ザスディという大きな町について
シナンクルという王国について
カマディの町とその荒廃について
ホルムズの平原と危険な谷について
これよりマルコ・ポーロは北方の国のありさまと驚異について語る
カバナンという大きな町とその生産物について
八日行程続く砂漠について
山の老人とその国について
どのようにして老人は暗殺者を仕立てるか
どのようにして老人が滅ぼされたか
サルプガンの町について
バラクという町について
塩の山について
バラシアン地方について
バシアン地方について
ケシムール地方について
バラシアンの川について

4 カシュガルから北京へ
カスカールの王国について
サルマカンという大きな町について
カルカンという地域について
コテールという地方について
ペニという地方について
シアルチアンという地方について
ルプという町について
広大なタンガート地方について
カムール地方について
チンニータラスという地方について
スクチュールという地方について
カンピシオンの町について
エサナールの町について
カラコロンの町について
タタール人の最初のカーンとなったチンギス・カーンについて
プレートル・ジャンを攻撃するため,チンギス・カーンがどのようにして臣下を集めたか
プレートル・ジャンはどのようにしてチンギス・カーンを迎え討ったか
チンギス・カーンとプレートル・ジャンの戦いについて
チンギス・カーンの後継者たちとその習慣について
タタール人の神について
カラコロンの平原と住民のさまざまな習慣について
エルギユルという王国について
エグリガイヤルの地方について
タンデュック地方について

5 大カーンの宮廷
シアンドゥの町について
クビライ・カーンと呼ばれる現在の大カーンの偉大な事績について.また,彼の宮廷の栄華について.また,彼がどのように正しくその領土と臣下を治めているかについて
クビライ・カーンが,正当な支配権を得るために,叔父ナイアンに対しておこなった大戦争について
大カーンがどのようにしてナイアンを攻撃したか
大カーンと裏切り者ナイアンの戦いについて
どのようにしてナイアンが殺されたか
大カーンはどのようにしてカンバルクの町に戻ったか
大カーンの風貌について
大カーンの息子たちについて
大カーンの王宮について
大カーンの息子の宮殿について
大カーンを護衛するケシタンと呼ばれる一万二〇〇〇の騎兵について
毎年大カーンの誕生日に催される大祭について
大カーンが年頭に催す大祭について
こうした大祭にあたって大カーンから黄金の衣装をそれぞれ一三組拝領する一万二〇〇〇のケシタンについて
どのようにして大カーンが人々に命じて獣肉を運び込ませるかについて
狩猟のために訓練されたライオンと豹と狼について
猟犬の飼育に当たる二人の兄弟について
大カーンがどのように獲物を追うかについて
鷹狩りから戻ると大カーンがどのように宮廷の集いを催し,どのように祝宴を張るのかについて
カンバルクの町がどのように栄え,どのように大きな人口を擁しているかについて
大カーンがどのようにして証書のような木の樹皮を通貨とし,それを全領土に通用させているかについて
大カーンからあらゆる職務を委ねられた一二人の重臣について
使者や伝令はどのようにカンバルクを発ち,どのようにさまざまな地方に向かうか
大カーンはどのようにして穀物と家畜の被害に苦しむ人々を助けるか
大カーンはどのようにして道のかたわらに木を植えさせたか
カタイの人々が飲む酒について
彼らはどのようにして薪のように石を燃やすか
飢饉の時に人々を助けるため,大カーンはどのようにして穀物を配るか
大カーンはどのようにして貧者に慈善を施すか

6 北京から雲南,ビルマへ
カタイ地方とプリサンギン川について
ジュジュという大きな町について
タイアンフという王国について
カタイの城について
プレートル・ジャンがどのように金王を捕らえたか
カラモラン川とカチアンフという町について
カンジアンフについて
道のりがずいぶん難儀を強いるクンタン地方について
アクバレ・マンジという地方について
サルダンフ地方について
テベットと呼ばれる地方について
さらにテベットのことについて
ガンドゥ地方について
カラヤン地方について
さらにカラヤン地方について
ザルダンダン地方について
大カーンがいかにミェン王国とバンガラ地方を征服したか
大カーンの司令官の軍隊とミェン王の軍隊の戦いについて
さらにミェン王の軍隊との戦いについて
広大な谷を下ることについて
金と銀の二塔をそなえたアミェンの町について
バンガラ地方について
カンジグ地方について
アニン地方について
トロマン地方について
キュニー地方について

7 北京から泉州へ
南方のカカンフの町について
チアングリュの町について
シアンリの町について
クンディンフの町について
シンギュイ・マトゥという町について
リギュイの町について
ピニーの町について
シニーの町について
大カーンはどのようにしてマンジ地方を征服したか
コギンガンニーの町について
パウチンの町について
カユーの町について
ティニーの町について
ヤンニーの町について
マンギンの町について
たいへんに名高いサヤンフの町について
シンニーの町について
クチュイという町について
チンギアンフの町について
チャンギンニーの町について
シニーの町について
マンジ地方の首都,この上なく名高いキンセーの町について
キンセーの町とその周辺から毎年大カーンが得る莫大な収入について
タルピニーの町について
フニーという王国について
名高いフニーの町について
サルコンの町について

8 日本とシンの海
マルコ殿がインドの驚異について語り始める
サパングの島について
小島に残された大カーンの軍隊がどのようにして敵の島を占領したか
偶像神の種類について

9 小インド――東南アジア
広大なチャンバ地方について
ジャヴァという大きな島について
サンデュールという島とコンデュールという島について
ポンタン島について
小ジャヴァ島について
ガヴニスポラ島とネコヴラン島について
アンガマナン島について
セイラン島について

10 大インド――インド大陸
大インドと呼ばれるマアバール地方について
聖トマスの亡骸はどこにあるか.また,聖トマスのおこなった奇蹟について
ムトフィリ王国のこと
アブラマンの出身地であるラールという地方について
カイルの町について
コイラン王国について
クルマリー地方について
エリ王国について
メリバール王国について
ガズラート王国について
タナミ王国について
カンバエ王国について
セメナ王国について
ケスマテュラン王国について

11 中インド――アフリカ東岸
男島と女島について――こう呼ばれるのは,一方には男だけが,他方には女だけが住むからである
スカイラ島について
マデガスカル島について
ザンキバル島について
中インドのアルバシーという広大な地方について
アデン地方について
エシェルの町について
デュファールの町について
カラトゥ湾とカラトゥの町について
すでに触れたホルムズの町について

12 大トルコ――トルキスタン
大トルコについて
カイドゥ王と大カーンの軍隊のあいだの戦いについて
甥であるカイドゥの反乱について大カーンが語ったこと
カイドゥ王の王女の怪力と勇敢さについて
アバガ王がいかにしてその息子にカイドゥ王を攻撃させたか
この戦いの最中に父が死んだことをアルゴンがいかに知ったか,また,そのため彼が王位を手に入れるべく戻ったことについて
正当な権利に従って王位につくべく帰国の途に就いたアルゴンに対し,アコルマとその軍隊がいかに立ち向かったかについて
王位を簒奪したアコルマに対し,アルゴンがいかに兵士を集めて立ち向かったかについて

度量衡および通貨の換算表

マルコ・ポーロを原典で読む   月村辰雄
――中世フランス語版『東方見聞録』訳者あとがき


月村辰雄(つきむら たつお)
東京大学文学部フランス語フランス文学専修課程卒業,同大学院博士課程退学.東京大学文学部教授.中世フランス文学専攻.主な著訳書:『恋の文学誌-フランス文学の原風景を求めて』(筑摩書房),マリー・ド・フランス『十二の恋の物語』(岩波文庫)など.
久保田勝一(くぼた かついち)
東京大学文学部フランス語フランス文学専修課程卒業,同大学院博士課程退学.中央大学商学部准教授.中世フランス文学専攻.主な著書:『剣と愛と 中世ロマニアの文学』(正・続,中央大学人文科学研究所研究叢書,共著)など.

書評情報

東方 391号(2013年9月)
週刊読書人 2012年7月6日号
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