ミボージン日記

最良のパートナーを突然に失った女性記者が,あらゆる理不尽と喪失感情の大波を生き抜く奮闘の日々の記録.

ミボージン日記
著者 竹信 三恵子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2010/12/15
ISBN 9784000248617
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 並製 ・ 216頁
在庫 品切れ
突然「ミボージン」になってしまった! 男中心社会で一歩もひかずに生きてきた女性記者が,世界と闘う最良の同伴者を失って直面したのは「夫のいない女」という妙な立場.喪失感情の大波の中,さまざまな理不尽を機嫌よく生きぬく知恵を再発見しながら,さらに先へと泳ぎだす,日々の奮闘の記録.

■著者からのメッセージ

この本は,世界の半分をなくした人間が,ヤケクソで書きつづった,ヤケクソな自己観察記録です.
 「世界の半分をなくした」なんて,なんとまあ大仰な,と笑われるかもしれません.でも人はいつも,自身の心や生活時間,生活空間の中に,一緒に暮らしている人のための一定の場所をあけてあるものです.その場所が,急に空っぽになるということは,「世界の半分」がなくなることといっても言い過ぎではないでしょう.
 その状態を,ルポルタージュを書くときのように,いったん突き離して眺めてみたら楽になるかもしれない.胸にたまった思いを,連載というダストシュートを通じて定期的に掃き出して行けば,少しは軽くなれる.そんな思いで,隔月刊誌『くらしと教育をつなぐ We』の稲邑恭子さんに連載を持ちかけたのは,夫が亡くなって3年たった2007年のことでした.その年の暮れから始めた連載は,2010年夏まで15回にわたりました.本書は,その連載を一部手直しし,ほぼ掲載時のまま,まとめたものです.
 いま読み返すと,書かれた人たちに申しわけなかったかと思う部分もあります.それでも,あえて大幅な修正はしなかったのは,ミボージンとは,こんな異様な心理に陥るかもしれないのだ,ということを,知ってもらいたかったからです.
 もうひとつ,今になって気になるのは,「仕事を手がかりに,立ち直ろうとしている自分」が前面に出すぎていたかもしれないという点です.ミボージンたちの中には,たまたま,外で働いていなかった人も少なくないでしょう.私が自分の仕事にしがみついたのは,それが夫の形見のようなものだったからだと思います.「おぼれる者はわらをもつかむ」といいますが,それが,当時の私にとっては「わら」だったのです.大切な人を失った人は,おそらく,だれもが,そんな「わら」を持っています.「わら」は,人によって違うのだ,あなたの「わら」を見つけてくださいと,今は強く言いたい気持ちです.
 連載を通じて,『We』の創設者で,家庭科の男女共修運動で知られる半田たつ子さんとも出会いました.半田さんは,夫を失った後,『喪の作業――夫の死の意味を求めて』(ウイ書房,1992年)などの本をまとめました.大切な人の死に直面した体験とその癒しについて克明につづった先駆的な作業です.さらに,同じ体験をした人々が励ましあう「響きの会」を立ち上げますが,参加した人々は,それぞれが自分の言葉で悲しみを語り合い,文章にしていくことで,心がやわらいでいったといいます.これらの活動は,おつれあいがその死をもって残した形見であり,半田さんにとっての「わら」だったのだと思います.
 その半田さんが,大切な人を失った者は,心ゆくまで悲しんでいい,それをこらえると,いやされない,と言っています.精神科医の野田正彰さんの著書『喪の途上にて』(岩波書店,1992年)で出会った考え方だそうです.文章でも,言葉でも,悲しみをしっかり外に出すこと,せきとめないこと.本書も,その延長上にあります.この本が,悲しみをこらえているたくさんのミボージンたちの,なにがしかのお役にたってくれることを,心から願っています.
(「あとがき」より)

1  それは,突然やってきた.
  2  「いいもの」の始まり
  3  包囲網
  4  家庭内再婚
  5  悼みの言葉
  6  焼け太ってみせる!
  7  夫の孤独
  8  世界の再建
  9  二代目の効用
  10 再婚の困難
  11 ひとり親格差
  12 癒しカレンダー
  13 区切りのつけ方
  14 喪失というきずな
  15 ミボージン力
     あとがき
     イラストレーション=イエナツキ
竹信三恵子(たけのぶ みえこ)
1953年生れ.76年朝日新聞入社.経済部記者,シンガポール特派員,学芸部次長,総合研究センター主任研究員などを経て,現在,編集委員兼論説委員.著書に『日本株式会社の女たち』(1994年),『ワークシェアリングの実像』(2002年),『ルポ 雇用劣化不況』(2009年,岩波新書.日本労働ペンクラブ賞)などのほか,『「家事の値段」とは何か』(1999年,岩波ブックレット),『女性を活用する国,しない国』(2010年,同前).2009年,貧困ジャーナリズム大賞受賞.

書評情報

サンデー毎日 2011年2月27日号
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