リスク化する日本社会

ウルリッヒ・ベックとの対話

2010年秋の連続シンポジウムの貴重な記録.ベックが福島第一原発の事故を論じた序文も収録する.

リスク化する日本社会
著者 ウルリッヒ・ベック , 鈴木 宗徳 , 伊藤 美登里
ジャンル 書籍 > 単行本 > 哲学
刊行日 2011/07/28
ISBN 9784000255677
Cコード 0010
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 292頁
在庫 品切れ
多くのリスクや不安に直面する日本のゆくえを,リスク社会論の第一人者との対話から探る.いま社会理論の役割とは何か.家族と社会保障の再構築のために何をすべきか.欧米と東アジアの比較のなかでグローバルなリスクをどう考えるか.2010年秋の連続シンポジウムの記録.ベックが福島第一原発の事故を論じた序文も収録する.

■編者からのメッセージ

リスク社会論の始祖の目を通して日本社会を見る

 ウルリッヒ・ベックのリスク社会論は,社会学者であれば誰しもその重要性に気づきながら,これまで充分に紹介・検討されてきたとは言えません.アンソニー・ギデンズ,ジグムント・バウマン,リチャード・セネット,ロベール・カステルなど,近代社会が新たな段階に入ったことを強調する一群の社会学者の著作を読めば,彼らがどれだけベックから影響を受けていたかは,すぐに分かります.リスク,不確実性,不安….ベックこそ,そうした時代の空気をいち早くつかみ,社会学の課題として定式化した始祖であると言ってよいでしょう.そして,彼の思想形成にもっとも大きな影響を与えたのが,妻であるエリーザベト・ベック=ゲルンスハイムです.
 本書は,そのベック夫妻を迎えて2010年秋に行われた,来日シンポジウムの記録です.遅すぎた初来日講演でしたが,その成果はわれわれの期待を超えるものでした.末尾におかれたベックによるリプライ,「個人化する日本社会のゆくえ」を読んでいただければ,彼が日本側の報告者に対しどれだけ真摯に応答してくれたかが,分かるでしょう.福島第一原発事故について書き下ろしてくれた「この機会に」も見逃せません.リスク社会論や個人化論の考え方を通して日本社会の現在を見つめたい方に,広く読んでいただければと思います.

鈴木宗徳
はじめに

鈴木宗徳
伊藤美登里

この機会に――福島,あるいは世界リスク社会における日本の未来

ウルリッヒ・ベック
(鈴木宗徳訳)

I 再帰的近代化の中の個人と社会――社会理論の現在

第1章 個人化の多様性――ヨーロッパの視座と東アジアの視座

ウルリッヒ・ベック
(伊藤美登里訳)

第2章 個人化論の位相――「第二の近代」というフレーム

三上剛史

第3章 2010年代の日本における個人化とベックの理論

樫村愛子

II リスクの時代の家族と社会保障――ベック理論との対話

第4章 リスク社会における家族と社会保障

ウルリッヒ・ベック
(鈴木宗徳訳)

第5章 個人化とグローバル化の
時代における家族

エリーザベト・ベック=ゲルンスハイム
(鈴木宗徳訳)

第6章 個人化と家族主義――東アジアとヨーロッパ,そして日本

落合恵美子

第7章 日本における個人化の現象――福祉国家をとおしてみる

武川正吾

III 日本と東アジアにおける多元的近代

第8章 第二の近代の多様性とコスモポリタン的構想

ウルリッヒ・ベック
(油井清光訳)

第9章 東アジアにおける第二の近代の
社会変容とリスク予防ガバナンス
――ウルリッヒ・ベックとの対話

韓相震
(雑賀忠宏,田村周一,梅村麦生訳)

第10章 社会学理論,第二の近代,「日本」
――アジア的パースペクティヴとコスモポリタン化をめぐるベックとの対話

油井清光

IV 個人化する日本社会のゆくえ
――コメントに対するコメント

ウルリッヒ・ベック
(鈴木宗徳訳)


ウルリッヒ・ベック(Ulrich Beck)
 1944年生まれ.元ミュンヘン大学教授.社会学.チェルノブイリ原発事故発生の年に刊行された『危険社会』(邦訳は法政大学出版局)が世界でベストセラーになるなど,現代を代表する社会学者,リスク社会論の第一人者として大きな影響力を持つ.福島第一原発事故を受けて設置されたドイツ政府の「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」委員も務める.『〈私〉だけの神』(鈴木直訳,岩波書店),『世界リスク社会論』(筑摩学芸文庫),『再帰的近代化』(アンソニー・ギデンズ他との共著,而立書房),『ナショナリズムの克服』(NTT出版)などの邦訳書がある.
鈴木宗徳(すずき・むねのり)
 1968年生まれ.法政大学社会学部准教授.理論社会学.共著に『批判的社会理論の現在』(晃洋書房),『21世紀への透視図』(青木書店),共訳書にヴォルフガング・シュルフター『『経済と社会』再構成論の新展開』(未来社)など.
伊藤美登里(いとう・みどり)
 1965年生まれ.大妻女子大学人間関係学部教授.社会学史,知識社会学.著書に『現代人と時間』(学文社),『共同の時間と自分の時間』(文化書房博文社),訳書にウルリッヒ・ベック『危険社会』(共訳,法政大学出版局)他.
三上剛史(みかみ・たけし)
 1952年生まれ.神戸大学大学院国際文化学研究科教授.知識社会学.著書に『社会の思考――リスクと監視と個人化』(学文社),『道徳回帰とモダニティ――デュルケームからハバーマス―ルーマンへ』(恒星社厚生閣),『ポスト近代の社会学』(世界思想社)など.
樫村愛子(かしむら・あいこ)
 1958年生まれ.愛知大学文学部教授.専門はラカン派精神分析の枠組みによる現代社会・文化分析.著書に『「心理学化する社会」の臨床社会学』(世織書房),『ネオリベラリズムの精神分析――なぜ伝統や文化が求められるのか』(光文社新書),『臨床社会学ならこう考える』(青土社)など.
エリーザベト・ベック=ゲルンスハイム(Elisabeth Beck-Gernsheim)
 1946年生まれ.元エアランゲン―ニュルンベルク大学教授.家族社会学.ウルリッヒ・ベックとの共著Individualization(個人化),Das ganz normale Chaos der Liebe(愛という全く普通のカオス)など著書多数.邦訳書に『子どもをもつという選択』,『出生率はなぜ下がったか』(以上,勁草書房)がある.
落合恵美子(おちあい・えみこ)
 1958年生まれ.京都大学大学院文学研究科教授.家族社会学,ジェンダー論,比較社会学.著書に『近代家族の曲がり角』(角川書店),『21世紀家族へ――家族の戦後体制の見かた・超えかた』(有斐閣),『アジアの家族とジェンダー』(共編著,勁草書房)など.
武川正吾(たけがわ・しょうご)
 1955年生まれ.東京大学大学院人文社会系研究科教授.社会学,社会政策.著書に『社会政策の社会学――ネオリベラリズムの彼方へ』(ミネルヴァ書房),『連帯と承認――グローバル化と個人化のなかの福祉国家』(東京大学出版会),『地域福祉の主流化――福祉国家と市民社会III』(法律文化社)など.
韓相震(ハン・サンジン)
 1945年生まれ.ソウル国立大学名誉教授,北京大学客員教授.社会学.著書にHabermas and the Korean Debate, Seoul National University Press, Human Rights in North Korea, Co-edited with Kie-Duck Park, “The Dynamics of the Middle Class Politics in Korea: Why and How do the Middling Grassroots differ form the Propertied Mainstream?” Korean Journal of Sociology 43(3).など.
油井清光(ゆい・きよみつ)
 1953年生まれ.神戸大学大学院人文学研究科教授.社会学.著書に『パーソンズと社会学理論の現在』(世界思想社),『身体の社会学――フロンティアと応用』(共著,世界思想社),『主意主義的行為理論』(恒星社厚生閣)など.

書評情報

毎日新聞(朝刊) 2012年1月22日
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