埒もない繰言,私事ばかりを連ねたような気がいたします. 自分の恥ずかしいことばかりを書き連ね,果たしてお役に立つことがあるのか.そんな心配もしております. あまりに長い生涯も,語ってしまえば,これだけのことにすぎないようです.語っていくなかで,暗いお話,辛いお話を多くしたように思いますが,いつも暗く辛いことばかりあったわけではありません.楽しいこと,嬉しいこともいくつもございましたが,それは自分の心のなかにしまっておけばいいことなのでしょう. …… 女形として,遅いスタートでした.その遅れが,いつも身体や心の隅に残っており,わたしをあるときは焦らせ,あるときは絶望の淵に立たせもしました. 投げ出したいと不埒なことを考えたこともありますが,そのたびに,自分の芸に我慢を重ねてやってきました. 戦前,戦後の女形修業,映画界,大阪歌舞伎――人さまから見れば波乱万丈の生涯,なんと紆余曲折の多い人生だと思われるかもしれませんが,わたしはいつも歌舞伎のことだけを考え,歌舞伎だけを見てきたように思います.それでもままならないことが,人生にはあるものだと痛感いたします. 長年,明日の舞台こそ満足できるものをお見せしたい,お見せしようと,それだけを考え精進してまいりました. 上達は遅々として進みませんが,長いあいだには,少しずつ実をつけていたのかもしれません.それでもこの道は,まだまだつづくと思っております.
(「あとがき」より) |