落語の世界

3 落語の空間

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編者からのメッセージ  川添 裕

 落語をめぐるこのシリーズは,本巻をもって,とりあえずひと区切りとなります.
 まだまだ落語について語りたいこと,よろこびを分かちあいたいこと,いっておかなければならないことが多くあるのですが,ここでテーマとした「落語の空間」は,その最大のもののひとつでしょう.
 「落語の空間」とは,落語がおこなわれ享受される場所,環境,背景の文化,社会を指したもので,具体的には,寄席やホールなどのライブの空間,レコードやCDなどの複製メディア,ラジオやテレビなどの放送,また,落語をめぐる評論や出版物といったもろもろをふくむものです.
 もともと落語は,至近距離にお客がいて,その反応が即座に噺家へと伝わる寄席の空間で成立しました.ある意味で落語は,こうした聴客の反応と噺家がともにつくりだした「共創造」の庶民娯楽といえるのではないかと思います.
 しかし今日,寄席もホール落語も各種の会も一方で盛んですが,他方では,むしろそれ以上に,テープ,CD,MD,ビデオ,DVDなどで落語を楽しむ機会が多いはずです.インターネット落語などといった試みも,すでに実際におこなわれています.
 こうしたメディアの空間,あるいは都市の生活空間,情報空間の変遷は,落語にどんな影響をもたらしてきたのでしょうか.江戸と上方の寄席を出発点にして明治近代,現代へと歴史を追いながら,それぞれの特徴を考えることが,この巻のねらいになっています.
 内容は全般に堅苦しいものではなく,落語らしく「しゃべり」のかたちも多くとりいれました.加えて,寄席の現場,メディアの現場の「生きた声」を,意識的に盛り込んでいます.とりわけ巻頭の京須偕充,篠山紀信,横澤彪の各氏による座談会,またお席亭の四氏による座談会は,従来にない画期的な試みかと思います.
 なお,シリーズの全体をつうじて,長井好弘氏,大友浩氏のご両人には,とくにこうした「生きた声」の企画編集で多大なご協力をいただきました.編者一同,心から御礼を申しあげます.

 さて,われらが楽しき空間「落語国」へと,さらにともに旅を続けるとしましょう.

(本書「舌代」より)


目次

舌 代 ……………………………………………… 川添 裕
〈座談会〉落語はどこにあるのか ……… 京須偕充・篠山紀信・横澤 彪・山本 進
メディアから落語を照らす
  落語のメディア空間 …………………………… 川添 裕
  速記と落語 ……………………………………… 清水康行
  レコードに吹き込まれた落語 …………………… 岡田則夫
  放送と落語 ……………………………………… 熊谷富夫
    ――上方落語を中心に――  
  上方寄席事情 …………………………………… 中川 桂
  地域寄席 ………………………………………… 伊藤 明
  落語評論を書くこと ……………………………… 矢野誠一
  資料復刻 瀧野寿吉「落語の席をあけるまで」 … 山本 進
〈インタビュー〉立川志の輔 ………………………… 聞き手=長井好弘
〈対談〉落語論の可能性 …………………………… 川添 裕・大友 浩
〈座談会〉寄席の現在,そして未来 ………………… 司会=長井好弘
  上野鈴本演芸場・新宿末広亭・浅草演芸ホール・池袋演芸場 各席亭
装丁・南伸坊
表紙文様・広瀬雄望(江戸小紋伝統工芸士)


執筆者紹介(掲載順)

京須偕充(きょうす ともみつ)
1942(昭和17)年,東京・神田生れ.ソニー・ミュージックエンタテインメント(旧,CBS/ソニー)で,『円生百席』をはじめ300をこえる落語レコード,CDをプロデュースした斯界を代表する人物である.『円生の録音室』(青蛙房・中公文庫)ほか多くの著書もある.

篠山紀信(しのやま きしん)
1940(昭和15)年,東京・新宿生れ.いわずと知れた日本を代表する写真家だが,かつて「カメラ小僧」であるとともに「落語小僧」であったことは,余り知られていない.中学生にして高座で一席うかがった経験をもち,のちには名人,円生の写真を何度も撮影している.

横澤 彪(よこざわ たけし)
1937(昭和12)年,群馬県・前橋市生れ.フジテレビで『オレたちひょうきん族』『笑っていいとも!』などを手がけ,「お笑い」の潮流をつくった名プロデューサーである.現在は吉本興業専務・東京本社代表をつとめる.若い時分には落語関連の番組にも多く携わっている.

山本 進→編者紹介参照

川添 裕→編者紹介参照

清水康行(しみず やすゆき)
1952年生.日本語史.日本女子大学文学部教授.『日本語表現法』(編著,放送大学教育振興会),『言語文化研究I―国語国文学の近代』(共著,放送大学教育振興会),「一九〇三年二月録音の東京落語平円盤資料群について」(『国語と国文学』79巻8号,至文堂)

岡田則夫(おかだ のりお)
1946年生.大衆芸能研究.『遊戯・娯楽』(共著,『近代庶民生活誌』第8巻,三一書房),「蒐集奇談」(連載,『レコード・コレクターズ』ミュージック・マガジン社)

熊谷富夫(くまがい とみお)
1936年生.演芸プロデューサー.文化庁芸術祭審査員,日本笑い学会副会長.『放送演芸史』(共著,世界思想社)

中川 桂(なかがわ かつら)
1968年生.近世芸能史.文学博士,大阪大学非常勤講師.「寄席芸としての話芸―咄と講釈」(『講座日本の伝承文学6』,三弥井書店),『能勢の浄瑠璃史』(共同執筆,能勢町教育委員会)

伊藤 明(いとう あきら)
1947年生.川越蔵造り落語会世話人,全国地域寄席連絡会会長.「マンガISO入門」(原作,連載,『ISOマネジメント』,日刊工業新聞社)

矢野誠一(やの せいいち)
1935年生,評論家,エッセイスト.日本文藝家協会会員,歌舞伎学会会員.『三遊亭圓朝の明治』(文春新書),『エノケン・ロッパの時代』(岩波新書),『都新聞藝能資料集成』大正編・昭和編(上)(白水社)

立川志の輔(たてかわ しのすけ)
1954年生.噺家.1989年文化庁芸術祭賞受賞.『しのすけのものさし』『志の輔の肩巾』(以上,毎日新聞社),『話の後始末』(共著,マドラ出版),『志の輔旅まくら』(新潮文庫)

長井好弘(ながい よしひろ)
1955年生.読売新聞東京本社編集局文化部次長,文化庁芸術祭審査員,都民寄席実行委員,浅草演芸大賞専門審査委員.『新宿末広亭春夏秋冬「定点観測」』(アスペクト),『寄席おもしろ帖』(うなぎ書房),『正楽寄席かるた』(奥野かるた店)

大友 浩(おおとも ひろし)
1958年生.月刊誌『東京かわら版』編集長.『志ん生!落語ワンダーランド』(共著,読売新聞社).「演芸かわら版・おもしろい人々」(有線ブロードネットワークス)パーソナリティ

鈴木 寧(すずき やすし)
1953年生まれ,上野・鈴本演芸場社長

北村幾夫(きたむら いくお)
1948年生まれ,新宿末広亭社長

松倉由幸(まつくら よしゆき)
1963年生まれ,浅草演芸ホール社長

梅田久治(うめだ ひさはる)
1968年生まれ,池袋演芸場専務




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