岩波フォト・ドキュメンタリー 世界の戦場から

イラク 爆撃と占領の日々

劣化ウラン弾でイラクの大地は汚染され,空爆と経済制裁で米軍占領下のイラク市民は疲弊しきっていた.

イラク 爆撃と占領の日々
著者 豊田 直巳
ジャンル 書籍 > 単行本 > 写真
シリーズ 岩波フォト・ドキュメンタリー 世界の戦場から
刊行日 2003/10/07
ISBN 9784000269636
Cコード 0331
体裁 A5 ・ 上製 ・ 函入 ・ 78頁
在庫 品切れ
イラクからの帰還兵や子供たちに白血病やガンが多発する「湾岸戦争症候群」.被害の実態を追究しようと国連経済制裁下のイラクに入ってから13年,イラク戦争による空爆下の取材を敢行.米軍占領下のいま,劣化ウランでイラクの大地は汚染され,市民は長い経済制裁で疲弊しきっていた上に失業に見舞われていた.

■「あとがき」より

ロイター通信が配信したビデオ映像は,見覚えのあるバグダッド郊外のアブグレイブ刑務所の壁を映した後,右にパンして幹線道路側を映し出した.すると突然,正面から高速で走り寄る大きな戦車が飛び込んできた.次の瞬間,その戦車の砲塔の辺りから白い白煙が上がり,パンパンという乾いた音が響いた.と,思うと同時にビデオ映像は大きく揺れて空中をさ迷い,そしてアスファルトを映し出し,そして止まった.
 イラクを占領する米英軍の真実を映しだしたこの「スクープ映像」を撮影したのはロイター通信のカメラマン,マゼン・ダナ記者である.「国際報道の自由賞」をも受賞した勇気あるマゼン記者ならではの映像だが,しかし彼の最後の「作品」となってしまった.この自らに向けて発砲するアメリカ兵の映像を記録した瞬間に,その戦車兵の撃った銃弾はマゼン記者に命中したのである.マゼン記者は,この「イラク戦争」における17人目のジャーナリストの死として記録された.
 米統合参謀本部の広報官はロイター通信に対し,「米軍が,ロケット砲を構えていると見えた人物と交戦した.この人物は後に報道関係者と判明した」と言ったそうだ.
 しかし私たち「イラク戦争」の間,バグダッドに留まった者は,この「言い訳」を信じない.「バグダッド陥落」前日の4月8日,チグリス川に架かる共和国橋に陣取った米軍戦車が,私の宿泊するパレスチナホテルを砲撃し,取材仲間のジャーナリストを虐殺しているのだ.そのときも,米軍のブルックス准将は「ホテルの一階から攻撃を受けたので,応戦した」と事実に反する言い訳をした.当時パレスチナホテルには100名以上の外国人ジャーナリストが滞在し,この瞬間を記録していた.ホテル側からの米軍戦車への攻撃などなかったのだ.
 どうも私たちはフォトジャーナリストも記者も,ジャーナリストであるがために狙われているようだ.私たちはできうる限り戦争の実相を記録し,そして報告しようと努力してきたつもりだ.そして,それゆえに戦争の遂行者は私たちを許せないのかもしれない.「バグダッド陥落」後にパレスチナホテルに入ってきた米軍は,ここを事務所に報道を続けてきたロシアやドイツなどのテレビ局などを「家宅捜索」した.「爆発物の可能性」「不審人物の捜査」などと称しながらも,実際にはジャーナリストたちに米兵は銃を突きつけた.私たちの報道が気に食わないとの「無言」の意思表示であり,強迫である.
 戦争には無数の嘘と,無数の隠された真実があるならば,それを暴き,明るみに出すのが私たちの仕事だろう.あらためてこの戦争で殺された17名の仲間たちの冥福を祈り,彼らに続くような仕事をすることを意に決したい.この戦争で殺された7000名とも言われるイラクの市民,そして戦争に動員されて殺された人びとの死を無駄にしないためにも.
 最後に,このような発表の場を与えてくださった広河隆一さん,馬場公彦さんはじめたくさんの友人にこの場を借りて感謝の気持ちをあらわしたい.ありがとうございました.そして,この戦争の犠牲となった全ての人びとにこの写真集を捧げたい.

2003年8月25日
豊田直巳(とよだ なおみ) フォトジャーナリスト
1956年,静岡県生まれ.83年よりパレスチナ問題の取材を開始.92年より中東以外にもアジアやバルカン,アフリカなどの“紛争地”を巡り,そこに暮らす人びとの日常を取材.2003年は劣化ウラン弾の被害を中心にイラクを集中取材し,3月20日から4月19日まで,バクダッドにて「イラク戦争」を取材.雑誌,新聞,テレビにて作品を発表.日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)会員.
写真集に『イラクの子供たち』(第三書館,2002年12月),『パレスチナの子供たち』(第三書館,2003年4月),フォトルポルタージュに『難民の世紀~漂流する民』(出版文化社,2002年9月),『「イラク戦争」の30日──私の見たバグダッド』(七つ森書館,2003年10月)がある.
公式ホームページに『境界線の記憶』http://www.ne.jp/asahi/n/toyoda/がある.

書評情報

日刊ゲンダイ 2015年2月2日
サンデー毎日 2013年12月1日号
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