ひとびとの精神史 1

敗戦と占領

1940年代

敗戦という大転換を経て,何が変わり,何が変わらなかったのか.戦後七〇年の「原点」を見つめる.

敗戦と占領
著者 栗原 彬 , 吉見 俊哉 , テッサ・モーリス‐スズキ 編集委員 , 苅谷 剛彦 編集委員 , 杉田 敦 編集委員
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
書籍 > シリーズ・講座・全集
シリーズ ひとびとの精神史
刊行日 2015/07/24
ISBN 9784000288019
Cコード 0336
体裁 四六 ・ 並製 ・ 350頁
定価 2,530円
在庫 在庫あり
8月15日という大転換を経て,何が変わり,何が変わらなかったのか.北と南の戦場,沖縄,広島,植民地朝鮮,そして本土で,ひとびとは何を経験したのか.社会の変化にどう向き合おうとしたのか.12の物語が,「あなたはどのように生きるか」という問いを私たちに突きつける.時代の転換期におくるシリーズ,刊行開始.本巻で取り上げる人物…大田昌秀,水木しげる,大田洋子,黒澤明,花森安治,堀越二郎,北村サヨ,茨木のり子,若月俊一,中野重治ほか.

■ 刊行にあたって

本企画は,第二次世界大戦の敗戦以降,現在に至るまでのそれぞれの時代に,この国に暮らすひとびとが,何を感じ考えたか,どのように暮らし行動したかを,その時代に起こった出来事との関係で,精神史的に探究しようとする企てである.
ここでいう精神史とは,卓越した思想家たちによる思想史でもなければ,大文字の「時代精神」でもない.市井のひとびとが,暮らしの中で感じ考え,振る舞い行動したこと,言い換えれば,生き方の姿勢としての精神の運動を探究すること.自分一個の「体験」でなく,他者との相互関係を含み,広い可能性に開かれた,精神の強度をもつ「経験」を記録すること.それが,「ひとびとの精神史」の課題である.
2011年3月11日以降に起こった出来事,東日本大震災と福島原発災害は,危機の進行のうちに,この社会がはらむ根元的な矛盾を一挙に噴出させ,あらゆる分野に潜在していた深刻な問題群を露わにした.1945年8月15日という日付がそうであったように,3月11日も「あなたはどのように生きるか」という問いを私たちに突きつけている.3月11日の「経験」は,私たちが今まで「経験」の中に十分に繰り込むことができず,したがって「経験」を精神のあり方に連結することができないでいることへも,探究の視座を広げることを促している.それらは,以下のような問題群として,当企画の構成に組み込まれる.戦後史を一貫して,私たちの暮らしが戦争と深く関わりをもってきたこと.出来事にアメリカの世界支配が影を落としていること.出来事の「経験」にアジアとの深い関わりがあること.経済成長至上主義,「富国強兵」,天皇制,植民地主義,公害,差別と社会的排除など,連続する問題があること.沖縄,東北,九州,水俣,釜ヶ崎,福島など,「受苦」の場所でのひとびとの「経験」と精神のあり方が,「失われたもの」と「いまだ実現しないもの」との間に橋を架ける潜勢力をもつこと.
時代の底に押し込められてきて,今生まれつつあるものが,眼に見えるものへと形を現わすことに力を添えることをも,当企画の更なる課題としたい.
2015年春
編集委員一同


■ 全巻構成

  • 第1巻 敗戦と占領―1940年代
  • 第2巻 朝鮮の戦争―1950年代
  • 第3巻 六〇年安保―1960年前後
  • 第4巻 東京オリンピック―1960年代
  • 第5巻 万博と沖縄返還―1970年前後
  • 第6巻 日本列島改造―1970年代
  • 第7巻 終焉する昭和―1980年代
  • 第8巻 バブル崩壊―1990年代
  • 第9巻 震災前後―2000年以降
プロローグ 1940年代――敗戦と戦後のあいだで……… 吉見俊哉

I 生と死のはざまで
1 大田昌秀――原点としての沖縄戦……… 比屋根照夫
2 大田洋子――原爆と言葉……… 五十嵐惠邦
3 水木しげる――ある帰還兵士の経験……… 野上 元
4 黄容柱と朴鐘鴻――近代の成就と超克……… 金 杭

II それぞれの敗戦と占領
1 茨木のり子――女性にとっての敗戦と占領……… 成田龍一
2 黒澤明――アメリカとの出会いそこない……… 中村秀之
3 花森安治――その時,何を着ていたか?……… 佐藤八寿子
4 堀越二郎――軍事技術から戦後のイノベーションへ……… 前間孝則

III 改革と民主主義
1 中野重治――反復する過去……… 鶴見太郎
2 若月俊一――地域医療に賭けられたもの……… 大串潤児
3 西崎キク――大空から大地へ……… 武田宏子
4 北村サヨ――踊る宗教が拓く共生の風景……… 栗原 彬
栗原 彬
立教大学名誉教授.政治社会学.
   
テッサ・モーリス‐スズキ
オーストラリア国立大学教授.日本思想史.
   
苅谷剛彦
オックスフォード大学教授.教育社会学,現代日本社会論.
   
吉見俊哉
東京大学教授.社会学.
   
杉田 敦
法政大学教授.政治学.

書評情報

沖縄タイムス 2015年9月12日
日本農業新聞 2015年8月9日

この商品に関するお知らせ

ページトップへ戻る