日本の社会主義

原爆反対・原発推進の論理

平和を求める思想・運動であり,原子力にあこがれ裏切られる歩みでもあった日本社会主義の軌跡.

日本の社会主義
著者 加藤 哲郎
通し番号 18
ジャンル 書籍 > 岩波現代全書 > 歴史・伝記
刊行日 2013/12/18
ISBN 9784000291187
Cコード 0330
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 294頁
在庫 品切れ
日本の社会主義は,資本主義・帝国主義に対する最大の抵抗勢力,平和を求める思想・運動であったと同時に,原子力にあこがれ裏切られる歩みでもあった.その軌跡を,知識人言説やSF小説など戦前から現在までの様々な資料からたどり,「社会主義・共産主義の神話」と「原子力の平和利用神話」とが日本でなぜ結びついたのかを抉り出す.


■編集部からのメッセージ
 なぜ今,社会主義の歴史を辿るのでしょうか.著者は,社会主義こそが,フランス革命の「自由・平等・友愛」理念を継承し,とりわけその「平等・友愛」理念を実現しようとした思想・運動の試みだったと言います.
 もちろんその試みは歴史的な試練の中で浮き沈みを繰り返しつつ,冷戦の終結とともに「過去の遺物」になったように思われました.けれども,グローバル化した資本主義によってもたらされた格差・貧困への対抗や新たな民主化闘争――「ウォール街を占拠せよ」や「ジャスミン革命」など――は,かつての社会主義がもっていた「平等・友愛」理念をどこか彷彿とさせるものがありはしないでしょうか.
 本書は,そのような意味での社会主義の日本における軌跡を,近代化・経済成長と原爆・原発をめぐる問題を通して浮かび上がらせます.社会主義は,原子力にいかに向き合ってきたのか.平和を求めて社会変革を願う社会科学が3.11以後の様々な社会問題と切り結ぶためには,この問題を避けては通れないのではないか.著者の語りは読者にそう問いかけます.
中山永基
はじめに
序章 現代日本における「非核・平和」
 1 非核平和都市宣言に見る日本の「非核」と「脱原発」
 2 「原子力の平和利用」は可能か?――「文明の暴力」としての原子力
第一章 日本の社会主義――「非戦・平和」からの出発
 1 日本における体制変革の試み
 2 社会民主党の四大原理――社会主義,民主主義,平和主義,国際主義
 3 幸徳秋水の非戦とアメリカ体験
 4 サンフランシスコ大地震の「災害ユートピア」――つかのまの社会主義
第二章 ロシア革命,関東大震災と社会主義
 1 第一次共産党――ロシア革命に触発された社会主義
 2 一九二二年九月の「日本共産党綱領」
 3 関東大震災における「災害ユートピア」の兆候
 4 「エリート・パニック」としての朝鮮人・中国人虐殺
 5 孤立した社会主義と第一次共産党の解党
第三章 近代化のための社会主義・共産主義・原子力
 1 第二次共産党――山川イズムから福本イズムへ
 2 近代化の論理と社会主義の論理――「三二年テーゼ」の夢見た近代
 3 H・G・ウェルズにおけるSFとしての原子力と社会主義
 4 近代化のもうひとつの道としての「原子的家庭」
第四章 占領下日本の原爆・原子力
 1 日本への原爆投下は不可避であったか――冷戦の起源としての広島・長崎
 2 日本国憲法の制定と社会主義政党――日本社会党と第三次共産党の出発
 3 「悔恨共同体」か「無念共同体」か――占領下日本の「原子力」言説
第五章 原子力にあこがれた社会主義――武谷三男の場合
 1 米国の核開発に協力した日本の科学者
 2 「原子力時代」を根拠づけた武谷三男の社会主義論
 3 サンフランシスコ講和条約と日米安保体制
 4 朝鮮戦争期の日本の科学者と武谷三男
第六章 「アトムズ・フォー・ピース」の日本的受容
 1 ビキニ被爆がもたらした「原水爆反対,原子力は平和のために」
 2 原発導入国策化における日本社会党の役割
 3 日本共産党の「原爆反対,原発歓迎」と武谷三男の「脱原発」
 4 「ビキニからフクシマへ」の原水禁運動と脱原発運動
第七章 平野義太郎と日本共産党の「平和利用」論
 1 講座派の論客から「大アジア主義」を経て日本平和委員会会長に
 2 共産党の六一年綱領と「原子力の平和利用」
 3 原水禁運動を分裂させた共産党の「社会主義の防衛的核」
 4 脱原発運動に反対した共産党の「平和利用」の論理
第八章 日本社会党と有澤廣巳の「原子力と社会主義」
 1 松前重義と社会党の「原爆反対,原発推進」
 2 原子力委員会「労働代表」有澤廣巳の場合
 3 日本経済自立のために――エネルギー転換と原子力委員就任
 4 原子力の経済性と安全性のはざまで
終章 社会主義の崩壊と脱原発運動
 1 チェルノブイリがもたらした社会主義の崩壊
 2 日本の原発大国化と反原発・脱原発運動
 3 日本の社会主義と平和主義の遺産――「唯一の被爆国」を超えて

参考文献
あとがき
加藤哲郎(かとう てつろう)
1947年岩手県生まれ.東京大学法学部卒業,博士(法学).現在,早稲田大学大学院政治学研究科客員教授,一橋大学名誉教授.英国エセックス大学,米国スタンフォード大学,ハーバード大学,ドイツ・ベルリン・フンボルト大学客員研究員,インド・デリー大学,メキシコ大学院大学客員教授等を歴任.専門は政治学・比較政治・現代史.インターネット上で「ネチズン・カレッジ」主宰.著書に,『社会と国家』,『ワイマール期ベルリンの日本人』(岩波書店),『コミンテルンの世界像』,『モスクワで粛清された日本人』(青木書店),『国境を越えるユートピア』,『象徴天皇制の起源』(平凡社),『東欧革命と社会主義』,『情報戦の時代』,『情報戦と現代史』(花伝社),など多数.

書評情報

図書新聞 2014年11月1日号
公明新聞 2014年4月28日
朝日新聞(朝刊) 2014年2月16日
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