9.30 世界を震撼させた日

インドネシア政変の真相と波紋

1965年10月1日未明,インドネシア政変で,大統領が交代.国内全土で大虐殺が起こり,華僑迫害が拡大していく.

9.30 世界を震撼させた日
著者 倉沢 愛子
通し番号 28
ジャンル 書籍 > 岩波現代全書 > 歴史・伝記
刊行日 2014/03/18
ISBN 9784000291286
Cコード 0322
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 274頁
定価 2,530円
在庫 在庫僅少
1965年10月1日未明に,軍事政変が勃発し,大統領はスカルノからスハルトへと変わった.中国では文化大革命が起き,東南アジアにアセアンが成立し西側反共主義陣営の結束を固めた.国内全土に大虐殺の嵐が吹き荒れ,華僑迫害がエスカレートしていく.事件の真相を追究し,波紋の全体像を活写する.


■編集部からのメッセージ
 著者倉沢先生はジャカルタ郊外のカンポン(村)に広い敷地の家をお持ちである.2012年の夏,ちょうどラマダーン(イスラームの断食期間)の時期に,御自宅に泊めていただいて,1965年の930事件の犠牲となった7名の陸軍将校を祀ったパンチャシラ広場に御一緒して,将校たちが投げ入れられたというルバン・ブアヤ(鰐の穴)にある小さな井戸の底を覗いた.先生はそれまでも事件の発端となったクーデターの後,全土で広がった虐殺の犠牲者への聞き取りを,ジャワ島やバリ島でなさっていた.
 私はクーデターの背後にある中国の影に着目し,虐殺の犠牲者のなかにかなり華人が含まれていて,華僑への迫害・排斥が組織的に行われたことに関心があった.だが被害に遭った華僑たちは国内では迫害の記憶を胸にしまい込み口を閉ざしたままである.事件後の『人民日報』で,スマトラ島メダンに,迫害された華僑が集められた収容所があり,彼らの一部は中国の派遣船で中国に渡り,広東省や福建省の「華僑農場」に「安置」されたとの記事が出ていた.文化人類学者のフィールド調査によると,農場には今もインドネシアからの「帰国華僑」が多く住んでいるという.私は先生に華僑農場に行きましょうと誘った.そこで帰国華僑にインタビューして,事件や華僑迫害の実態についての証言を集めようと思い立ったのだ.
 2013年5月の連休に,広州市郊外の華僑農場に先生と訪れた.朝8時ころ,市場に人だかりがしていて,鶏肉を買っていた女性に中国語で「インドネシアから来た人を知りませんか?」と聞くと,とたんに表情が硬くなり,「どこから来た? 何しに来た?」と詰問された.そこで倉沢先生がインドネシア語で語りかけると,女性は相好をくずし,たまたま市場に集っていたインドネシアからの帰国者に声をかけ,自宅に招待し,帰国華僑の集まる集会所に案内してくれた.集会所に集まった帰国華僑には,出身地や渡華した時期に応じて,さまざまな物語があり,インドネシアと中国の現代史が凝縮していた.
 先生のこの本には,先行研究や歴史史料だけでなく,先生が長年にわたって足で拾い集めたインタビューや証言がちりばめられている.世界を震撼させた930事件は,インドネシアの住民だけでなく,中国やアジアの人々の人生を決定づけ,運命を翻弄してきたのである.
馬場公彦
はじめに
第Ⅰ部 左傾化するスカルノ政権
第1章 新植民地主義との闘い
第2章 対立を内包したスカルノ体制
第3章 台頭するインドネシア共産党(PKI)
第Ⅱ部 二つのクーデター――九・三〇事件と三・一一政変
第4章 九月三〇日の事件
第5章 「三・一一政変」――もう一つのクーデター
第Ⅲ部 社会暴力
第6章 大虐殺
第7章 大虐殺の背後に見えるもの
第8章 スケープゴートにされた華僑・華人たち
第Ⅳ部 新たな秩序による再編
第9章 新秩序の確立と国際関係の再編
第10章 マレーシア闘争の終了と西カリマンタン農村社会の再編
第11章 不穏分子の排除と政治的安定
おわりに――そしていま


あとがき
用語一覧
引用文献
九・三〇事件関係年表
倉沢愛子(くらさわ あいこ)
1946年生まれ.東京大学大学院修了,コーネル大学大学院ならびに東京大学にて博士号(ともにインドネシア史).名古屋大学教授を経て慶應義塾大学教授,その後名誉教授.インドネシア社会史.
単著として,『日本占領下のジャワ農村の変容』(草思社,1992年),『20年目のインドネシア』(草思社,1994年),『女が学者になるとき』(草思社,1998年),『南方特別留学生が見た戦時下の日本人』(草思社,1997年),『ジャカルタ路地裏フィールドノート』(中央公論新社,2002年),『インドネシアと日本 桐島正也回想録』(論創社,2011年),『資源の戦争』(岩波書店,2012年)などがある.

書評情報

社会評論 No.178(2014年秋)
ワセダアジアレビュー No.16(2014年9月)
北海道新聞(朝刊) 2014年6月8日
書評空間 2014年4月1日掲載
The Daily Jakarta Shimbun 2014年3月22日
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