岩波科学ライブラリー 227

材料革命ナノアーキテクトニクス

原子スイッチから貼る制癌剤まで,ナノテクノロジーの次にくる近未来の科学技術を見通す.

材料革命ナノアーキテクトニクス
著者 有賀 克彦
ジャンル 書籍 > 単行本
書籍 > 自然科学書
書籍 > シリーズ・講座・全集
書籍 > 岩波科学ライブラリー > 情報・技術
日本十進分類 > 自然科学
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2014/06/27
ISBN 9784000296274
Cコード 0343
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 116頁
在庫 品切れ
ナノメートル,すなわち原子・分子の大きさになると,物質のふるまいが日常世界とは一変する.その性質を利用して,ナノ構造どうしが連携しあって機能する新材料を「構築」する.これが,ナノ建築学=ナノアーキテクトニクスだ.原子スイッチから貼る制癌剤まで,ナノテクノロジーの次にくる近未来の科学技術を見通す.

■著者からのメッセージ

私たちの周りにあるいろいろなもの,たとえばはさみのような道具からテレビやコンピュータなどの機械,あるいは衣服から家のような建築物に至るまでの生活を支える構造物,これらを人間は次々と開発してきた.これらを生産するときに重要な2つの要素がある.どのような素材(物質・材料)を選ぶかということと,それをどう加工して組み上げるか(建築や製作)ということである.これまでの発展の歴史のほとんどの時間の中では,われわれはあるがままの物質・材料を選び,それをどのように細工するかだけを考えてきた.
 しかし,21世紀になった今,われわれはその常識をやぶる革命を起こさねばならない.それは,素材と建築を分けて考えない,新物質を建築によって生み出すということ,つまり,まったく新しい物質・材料をナノの世界から建築のように組み上げて作る技術体系の創出である.
 幸いにして,われわれはナノ物質やナノ技術を発展させてきた.これを,ナノアーキテクトニクス(nanoarchitectonics,ナノ建築学)という,新物質をナノレベルで建築していくという概念に昇華させるのである.(中略)
 このナノアーキテクトニクスは,ナノスケールの世界におけるアーキテクチャー(構造建築)の“ニクス(学問体系)”を意味する.つまり,単なる技術(テクノロジー)から総体的な建築学(アーキテクトニクス)への転換である.個々のナノスケール構造の機能を分析的に見る従来のナノテクノロジーの視点から,それらのナノスケール構造が密接な相互作用によって生み出す連携機能に注目する,総合的な視点に転じるということである.
 特に,この概念を,素材と建築を分けて考えない物質創成という観点から見たとき,それはマテリアルズ・ナノアーキテクトニクスという概念になる.マテリアルは,いうまでもなく物質・材料のことであるが,ナノスケールにおける現象や機能が連携して働き,あるいはそれが組み上がっていくことによって,それらがハーモニーを奏でる,あるいは,単純なアンサンブルではない機能物質を作っていく技術体系である.
 マイクロテクノロジーがもたらす微細加工やそれに関連する技術では,精度高く予定調和の物性をもつ材料が得られるにすぎない.一方,ナノアーキテクトニクスでは,ナノの世界についてまわる不確定性,一義的に正確には決められない物性,いわゆるあいまいさを容認した物質構築がなされることになる.あいまいさや(決定論ではなく)確率によって支配される世界では,これまでの技術では得られにくい機能の柔軟さやしなやかさが得られることになる.
――「プロローグ ナノ技術からナノ建築学へ」より
プロローグ ナノ技術からナノ建築学へ
 小さくすると、どんないいことがある?/マイクロテクノロジーからナノテクノロジーへ/ 「ナノテクノロジー」の生みの親/ナノテクノロジーは分子・原子の影響を受ける/ナノテクノロジーの次にくるもの──ナノアーキテクトニクス/新しい概念は必要・必然

1 汚れない窓ガラス──ナノシート
 混ぜて振るだけ──2次元物質の発見/ナノシートを使って物質をナノ建築する/交互吸着法の将来性/ナノシートを組み上げることで生まれる新しい機能

2 トイレを除菌──メソポーラス物質
 メソポーラス物質/混ぜて乾燥させて焼くだけ!/高性能の電極に、トイレのコーティング剤に/朝飲めば、昼と夜にも自動的に薬剤が出る?/お手本は自然にあり

3 紙ではない紙──電子ペーパー
 いつでもどこでも気軽に読書/ハイブリッドポリマー──電気で色づける/電子の移動で色の調整も思いのまま

4 新しい電池の時代──ナノイオニクス
 安全で高性能なリチウム電池を求めて/ナノイオニクス/開発はまだまだ続く

5 脳型コンピュータへの道──原子スイッチ
 迫るコンピュータの限界/ナノペンから発明された原子スイッチ/デバイス化へ/原子スイッチの特徴を活かす/アトムトランジスタ/脳のように学習するコンピュータへ

6 分子に情報を書き込む──ナノレベルの電子回路
 フラーレン分子をメモリにする/ハイビジョン映画を1ミリ角のチップに録画/分子の配線を描く

7 世界で一番薄い集積回路を目指す
 テープで剝がせるナノ物質──グラフェン/1枚のグラフェンでできる電子回路/ロジック素子

8 夢のエネルギー技術──人工光合成
 人工光合成/光触媒物質の発展/より優れた光触媒を求めて

9 医療革命へ
 マテリアルセラピー/生体に適合する材料を求めて/貼る制癌剤/新しい投薬法

エピローグ ナノアーキテクトニクスが描く未来

謝 辞
有賀克彦(ありが かつひこ)
1962年生まれ.東京工業大学工学部卒業.東京工業大学大学院理工学研究科修了.工学博士.東京工業大学助手,新技術事業団・超分子プロジェクト・グループリーダー,奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科助教授,科学技術振興事業団・相田ナノ空間プロジェクト・グループリーダーを経て,現在,物質・材料研究機構WPI国際ナノアーキテクトニクス研究拠点主任研究者.英国王立化学会フェロー.
著書に『超分子化学への展開』(共著,岩波講座現代化学への入門),『賢くはたらく超分子』(岩波科学ライブラリー)がある.

書評情報

理科教室 2014年12月号
日経サイエンス 2014年10月号

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