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岩波科学ライブラリー 242

時を刻む湖

7万枚の地層に挑んだ科学者たち

水月湖が過去5万年の時を測る「標準時計」となるまで二十数年.国境を越えた研究チームの熱き物語.

時を刻む湖
著者 中川 毅
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 宇宙・地球
日本十進分類 > 自然科学
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2015/09/09
ISBN 9784000296427
Cコード 0344
体裁 B6 ・ 126頁
在庫 品切れ
2013年,水月湖が過去5万年の時を測る「標準時計」として世界に認められた.その真の意味とは? 「物差し」となった,世にも稀な土の縞模様「年縞」とは? ひとりの若き研究者が描いた夢を発端に二十数年,研究チームはどのように広がり花開いたか.国境を越えた友情,ライバルとの戦い,挫折と栄光とを,当事者が熱く語る.


■編集部からのメッセージ
 若狭湾岸の静かな景勝地,水月湖.本書では,その底から発見された土の縞模様「年縞」が,過去5万年の時を測る「世界の標準時計」になるまでの日々を活写します.二十余年前にひとりの若い研究者が描いた夢が広がり,花開くまでには国境を越えた友情,ライバルとの戦い,挫折と栄光とがありました.これらを当事者のひとりが熱く語ります.
 「年稿」とは,1年に1枚の縞模様を形成する堆積物のことです.その驚きの存在を知ったのは3年前の,暑い,暑い日曜日の午後でした.都心の大学の講堂で行われた「大昔の温度をはかる――花粉が解き明かす気候変動の歴史」と題する著者の講演を聞いたときのこと.福井県の「奇跡の湖」から採取されたおよそ7万年分の年縞に含まれる花粉を分析することで,過去の気候が推測できる.イギリスのニューカッスル大学に在籍しながら,ドイツの研究者らと共同で研究している.そんなお話でした.

 年縞の重要性はよくわかりましたが,具体的にはどのように解析するのか,将来はどのような研究につながるのか……!? もっとくわしく知りたくて,3日後に行われたサイエンス・カフェに押しかけて,本書の相談がはじまりました.1か月半後には「サイエンス」の記者会見があり,一般紙でも「考古学の標準時に 過去5万年 誤差は170年」などと大きく報じられ,広く知られるようになったことは本書でも紹介します.
 「真に挑戦的な科学には必ず当事者の血を沸き立たせる要素があり,その魅力には普遍性があると信じている.私たちが実際に味わった興奮の一部を,本書を通じて少しでもお伝えすることができれば,水月湖に深く関わった者として非常に嬉しく思う」(「プロローグ」より).まさに,ここに見るのは真の科学者たちの姿です.若き研究者たちの挑戦と苦悩の日々を,どうぞ追体験してください.
プロローグ――「福井の湖,考古学の標準時に」

1 奇跡の湖の発見
最初は偶然だった/年縞研究の幕開け/掘れるだけ掘ってみよう/縞模様はなぜできる?/年縞が失われないために/埋まらない湖/これをどう使う?

2 とても長い時間をはかる
長い時間のはかり方/戦争の陰で/成り立たない前提/誤差をどう解消するか/樹木年輪の「壁」/ピンチヒッター/北川浩之の挑戦/長い戦い/もう一つの長い戦い/時間の統一/標準時をめぐるデッドヒート/水月湖の挫折

3 より精密な「標準時計」を求めて
93年コアの限界/イギリスの決断/1ミリも取りこぼさない/年縞独特の難しさ/7万枚の縞を数える/新しい技術/英独間のホットライン/見えない年縞/1200枚の葉っぱを拾う/北川データの復活/越えられなかった壁/最後の工夫/完成した年代目盛

4 世界中の時計を合わせる
ポーラ・ライマーの挑戦/より厳密な定義/地質年代学の歩み/成果を論文にまとめる/革命記念日を水月湖のほとりで/ついに「標準時計」に!/歴史の教科書を書き換える?

エピローグ――「数えるなんて簡単なこと」
中川 毅 (なかがわ たけし)
 1968年東京都生まれ.京都大学理学部卒業,同大学院理学研究科修士課程修了.フランス・エクス・マルセイユ第三大学大学院博士課程修了.理学博士.国際日本文化研究センター助手,イギリス・ニューカッスル大学教授などを経て,現在,立命館大学古気候学研究センター長.2013年大和エイドリアン賞受賞.
 共著書に『文明の盛衰と環境変動──マヤ・アステカ・ナスカ・琉球の新しい歴史像』(岩波書店)がある.

書評情報

日経サイエンス 2018年5月号

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