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人間晩年図巻 1990-94年

山田風太郎の衣鉢を継ぐ,新たな「図巻」誕生.アイルトン・セナから「風船おじさん」まで,悲喜こもごもの晩年を匠の筆で描き出す.

人間晩年図巻 1990-94年
著者 関川 夏央
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2016/05/26
ISBN 9784000611398
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 276頁
在庫 在庫あり
山田風太郎『人間臨終図巻』の衣鉢を継ぐ新たな「図巻」が誕生.一九九〇年代を舞台に,世界的スターから市井の人まで,悲喜こもごもの晩年を匠の筆で描き出す.あの人はどんな晩年を送ったのか? 彼らが世を去った90年代とはいかなる時代だったのか? 本書には田中角栄,アイルトン・セナ,長谷川町子,「風船おじさん」らを収録.


■編集部からのメッセージ
 関川夏央さんの最新作『人間晩年図巻 1990-94年』,『人間晩年図巻 1995-99年』は,岩波書店ホームページ内で約2年間連載された「人間晩年図巻 1990年代に死んだ人たち」の単行本化となります.
 本書は,カエサルから夏目雅子まで,古今東西の著名人約900人の死に際を描いた稀代の名著・山田風太郎『人間臨終図巻』の衣鉢を継ぐ企画として構想されました.『臨終図巻』に記されているのは1986年までの物故者ですので,その後,1990年代に亡くなった方々の「図巻」を作成しようと考えたのです.
 企画化にあたっては,『臨終図巻』との差異化をはかるため,『晩年図巻』独自の特徴を打ち出そうと企図しました.それは,各個人の晩年を通して「1990年代」という時代そのものを影の主役として浮かび上がらせるという試みです.
 山田風太郎の『臨終図巻』は没年齢順に構成されており,読み手が自分の年齢を意識して読む図巻だと思われます.つまり,40歳の人間は「40歳で死んだ人」の章から読み始め,65歳の人間は「65歳で死んだ人」から読み始めるのではないでしょうか.それで「ああ,あの偉人は今のわたしと同じ歳で死んだのか……」と噛みしめるのが,この図巻の醍醐味の一つではないかと思います.
 対して『晩年図巻』は,1990年から99年まで年代順の構成です.雲仙普賢岳の火砕流で亡くなった火山学者たち,阪神淡路大震災に被災した村山実,オウムサリン事件に尋常ならざる怒りを吐露した司馬遼太郎,アイルトン・セナやダイアナ元妃の非業の死,「風船おじさん」の冒険や,伊丹十三や江藤淳の自死…….彼らの晩年や死を通じて,はたして90年代とはどんな時代だったのか,当時の思い出とともに振り返っていただくのが,本書の醍醐味ではないかと考えております.
 「1990-94年」編と「1995-99年」編あわせて掲載人物は70人,政治家・文学者・映画監督・俳優・芸人・スポーツ選手から企業家や市井の方まで,一つとして同じものはない多彩な晩年の在り方が収められています.読者の方におかれましては,「我が晩年」と「我が90年代」に思いを馳せながら,本書をお楽しみいただければ幸いです.
■『人間晩年図巻 1990-94年』

1990年に死んだ人々
栃錦(春日野)清隆(脳梗塞/肺炎・64歳)……渋好みのコドモが愛した横綱
成田三樹夫(胃がん・55歳)……自由律俳句好きの悪役
グレタ・ガルボ(肺炎/腎機能障害・84歳)……「ガルボが笑う!」
池波正太郎(急性白血病・67歳)……「人間は死ぬために,生きはじめる」
藤山寛美(肝硬変・60歳)……「阿呆」の天才
幸田 文(心不全・86歳)……「崩れ」を見に行く

1991年に死んだ人々
江 青(縊死・77歳)……悪いのはやっぱり毛沢東
中島 葵(子宮頸がん・45歳)……数奇な血統の女優
カティア・クラフト/モーリス・クラフト/ハリー・グリッケン(事故死)……普賢岳大火砕流に飲み込まれた火山学者たち
山本七平(膵臓がん・69歳)……地獄からの生還者の戦後46年
相田みつを(脳内出血・67歳)……評価に苦しむ作品と人生

1992年に死んだ人々
中村曜子(ALS・65歳)……「松本清張的世界」最後の登場人物
山村新治郎(殺人被害・58歳)……なんでこうなった?
尾崎 豊(肺水腫・26歳)……ひたすら急ぐ青春
小池重明(肝硬変・44歳)……「破滅型」は破滅する
長谷川町子(脳血腫・72歳)……女たちだけの家
大山康晴(肝臓がん・69歳)……老天才の執念
中上健次(腎臓がん・46歳)/永山則夫(刑死・48歳)……同年に上京した二人の人生
寺田ヒロオ(静脈瘤破裂・61歳)……「真実一路」のマンガ家,その長い晩年
太地喜和子(事故死・48歳)……深夜の海に転落
風船おじさん(鈴木嘉和)(冒険事故死?・52歳?)……ジェット気流に乗ってアメリカへ行こう

1993年に死んだ人々
オードリー・ヘップバーン(大腸がん・63歳)……ヨーロッパの影を生きた「妖精」
神永昭夫(直腸がん・56歳)……柔道家たちの秋
山本満喜子(老衰・80歳)……「エドの舞踏会」の孫娘
ハナ肇(肝臓がん・63歳)……「お父っつぁん,お粥ができたわよ」
山本安英(急性呼吸不全・90歳)……「健やかにゆくものは,とおく行く」
マキノ雅弘(慢性呼吸不全・85歳)……生涯261本
田中角栄(脳梗塞・75歳)……父の恨みを娘が継ぐ
逸見政孝(胃がん・48歳)……司会者として死にたかった人

1994年に死んだ人々
安井かずみ(肺がん・55歳)……「理想的夫婦」といわれた17年
アイルトン・セナ(レース中の事故死・34歳)……攻撃的天才の死
金日成(心筋梗塞・82歳)……どうする? 銅像と肖像画は
吉行淳之介(肝臓がん・70歳)……「真面目な蕩児」の病気人生
乙羽信子(肝臓がん・70歳)……「タカラヅカの娘」の一途な生涯

あとがき


■『人間晩年図巻 1995-99年』

1995年に死んだ人々
内村健一(腎不全・68歳)……「天下一家の会」という無限連鎖講を考案した男
金子信雄(細菌性敗血症・71歳)……「美少年」から「セコい親分」への道のり
城 達也(食道がんの肝臓転移・63歳)……「いつの日か,雲の彼方で……」
山田康雄(脳出血・62歳)……「ルパン三世」たちの人生
テレサ・テン(気管支喘息・42歳)……昼は鄧小平が語り,夜は鄧麗君が歌う
公文 公(肺炎による急性呼吸不全・81歳)……「ごくどう」したいから「公文式」を開発

1996年に死んだ人々
横山やすし(肝硬変・51歳)……好きでもない酒で命を縮めた漫才師
司馬遼太郎(腹部大動脈瘤破裂・72歳)……「歴史青春小説家」から「憂国」の人へ
金丸 信(脳梗塞・81歳)……晩節ほど大事なものはない
難波康子(遭難死・47歳)……エベレスト大量遭難の一日
浅原正基(肺がん・79歳)……最後まで「ソ連」ひとすじだった「シベリア天皇」
フランキー堺(肝不全・67歳)……早熟の悲しみ
渥美 清(転移性肺がん・68歳)……渥美清として生き,田所康雄として死ぬ

1997年に死んだ人々
藤沢周平(肝不全・69歳)……「普通」であろうと努力した作家
鄧 小平(パーキンソン病と肺感染症の合併症・92歳)……不倒翁倒了
萬屋錦之介(中咽頭がん・64歳)……多病多婚
大津高幸(喘息発作・51歳)……「あさま山荘」で狙撃された機動隊員
勝新太郎(下咽頭がん・65歳)……「映画スター」を演じきった男
ダイアナ・スペンサー(交通事故・36歳)……やっぱりシートベルト
金杉忠男(がん・56歳)……下町の「追憶の天才」
伊丹十三(自殺・64歳)……自在な「容器」の華麗な「退屈」
三船敏郎(多臓器不全・77歳)……几帳面な乱暴者の生涯

1998年に死んだ人々
剣晃敏志(汎血球減少症・30歳)……「大食細胞」に敗れた力士
尾嶋 彰(殺人被害・56歳)……パリの空の下,殺人者も闊歩する
ポル・ポト(死因不明・69歳または72歳)……何が悪かった?
秋野 豊(殺人被害・48歳)……タジキスタンの山中で殺された研究者
森安敏明(心不全・50歳)……「豪快」であろうとした青年の軽率な失敗
村山 聖(膀胱がん・29歳)……青春即晩年
村山 実(直腸がん・61歳)……「永久欠番11」の震災体験
横井英樹(虚血性心不全・85歳)……火葬場で転がり出た銃弾
木下恵介(脳梗塞・86歳)……「仕事は楽しいに決まっている」

1999年に死んだ人々
芦田伸介(肝臓がん・81歳)……退職後の『七人の刑事』
スタンリー・キューブリック(心臓発作・70歳)……「才能あるイヤな野郎」
江藤 淳(自殺・66歳)……嵐は人の気持を砕く
寺尾五郎(大腸がん・78歳)……ものごとは見たいように見える

あとがき
関川夏央(せきかわ なつお)
作家.1949年,新潟県生まれ.上智大学外国語学部中退.『海峡を越えたホームラン』(双葉社,1984年)で第7回講談社ノンフィクション賞,『「坊っちゃん」の時代』(谷口ジローと共作,双葉社,1987-97年)で第2回手塚治虫文化賞,2001年には,その「人間と時代を捉えた幅広い創作活動」により第4回司馬遼太郎賞,『昭和が明るかった頃』(文藝春秋,2002年)で第19回講談社エッセイ賞を受賞.近著に『子規,最後の八年』(講談社,2011年),『東と西――横光利一の旅愁』(講談社,2012年),『文学は,たとえばこう読む――「解説」する文学II』(2014年,岩波書店)など.

書評情報

毎日新聞(夕刊) 2019年9月5日
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