円朝全集 第一巻

怪談牡丹燈籠 塩原多助一代記 鏡ケ池操松影

怪談牡丹燈籠 塩原多助一代記 鏡ケ池操松影
著者 倉田 喜弘 , 清水 康行 , 十川 信介 , 延広 真治
ジャンル 書籍 > 単行本 > 文学・文学論
シリーズ 円朝全集
刊行日 2012/11/28
ISBN 9784000927413
Cコード 0393
体裁 A5 ・ 上製 ・ 618頁
定価 9,240円
在庫 在庫あり
目の前で登場人物が語り動くかのようなリアルな文体が明治中期の読者に衝撃をもたらした「怪談牡丹燈籠」,立身出世の時代精神を体現して喝采を浴びた「塩原多助一代記」,江島屋騒動の名で知られる「鏡ケ池操松影」を収録.[校注=清水康行・佐藤かつら・横山泰子]


■ 編集にあたって
 大師匠――いまなお敬愛の情を込めて落語家から,こう呼ばれているのが三遊亭円朝.かくも崇敬されるのは優れた作を創り,かつ巧みに演じ,門弟を慈しみ育てたからに外なるまい.とは言え没後百十余年を閲し,伎倆も指導振りも伝説と化し,実感できるのは作品のみとなった.
 それらの諸作は速記術による口語文体で書かれ,多くの読者に迎えられた.幸田露伴は明治文学に最も功労のある人物として,円朝と黙阿弥を挙げ,円朝の文章界における貢献を讃えている.この評価は,文体を模索していた二葉亭四迷に,円朝の落語(はなし)の通りに書いてはどうかと坪内逍遥が勧めたことでも,納得し得る.影響は文体のみに留まらない.夏目漱石の『琴のそら音』は『怪談牡丹燈籠』を念頭においての作であり,正岡子規は『名人競(錦の舞衣)』を聴いて,小説の趣向かくこそありたけれと悟るなど,枚挙に遑(いとま)がない.ただ残念なのは,芥川龍之介が円朝研究を志しながら,果たさず早世したことである.
 円朝は熱心に取材旅行を行ったが,たとえば明治十九年,山県有朋内相,井上馨外相らの北海道巡視に随行した成果は『蝦夷訛』となり,『北海道文学全集』第一巻巻頭を飾る.北海道文学は円朝に始まるのである.モーパッサン初紹介となる『名人長二』など外国文学の受容にも意を用い,『真景累が淵』では文明開化の世に幽霊は存在するのかと問いかけ,『英国孝子ジヨージスミス之伝』では成文法整備期の人間模様を描く.このような関心の広さは目前の観客の反応を探った結果でもあろう.そして観客の反応によって練り上げられた円朝の口演は,日本人の心性の記録となり,索引ともなるのである.生と死,この世とあの世が地続きである円朝の怪談にしても,畏怖する心を失った現代を生きる我々が,新たな意味を見いだし得るのではあるまいか.
 いまなお滅法面白い読み物としての円朝,その面目を一新した全集の誕生に,ご期待を乞う次第である.

 二〇一二年六月
編集委員


■ 特色
◆構成
円朝口演作品(伝承作も含む)は速記録発表順で本編に,弟子の口演のみ伝わる円朝作品,円朝の速記以外の文は別巻に収録.従来の全集に未収録の作品を多数収める(全巻構成の*印).

◆底本
新聞・雑誌初出本文のある作品はそれを底本に設定.単行本化の際に脱落や誤りを生じたまま伝わってきた従来作品も,十全な姿を再現.

◆本格的な翻刻本文
「狼狽(あわアくツ)た」「気絶(めをまは)した」「遊蕩(やくざ)な亭主(ていし)」のように俗語や訛りなど生きた口語の含意を巧みに表した当時の文体.通行字体への置き換えや改行の付加など読み易さに配慮した処置を施しつつ,原則として底本の表記を保存する.

◆挿絵
芳幾,芳年,年方,清方ら名匠による挿絵も収録.

◆注解・後記・月報
辞書では調べられない語や文意に巻末注を付し,後記に作品解題を収める.各巻月報付.
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