いのちの選択 今,考えたい脳死・臓器移植


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編集部だより
編集部からのメッセージ

 2009年7月,臓器移植法が改定されました.この改定によって,同法の枠内とはいえ,「脳死」は一律に人の死とされ,本人による拒否の意思表示がない限り,家族の承諾だけで脳死状態からの臓器提供が認められることとなりました.また,これまでは15歳以上であった摘出の対象も,ゼロ歳児までの全年齢へと拡大されました.
 このブックレットは,臓器移植法の改定に際して徹底審議などを要請した研究者たちによる「生命倫理会議」の声明文を基礎として,生命倫理会議から編者・執筆者14人が立ち,さらにゲスト執筆者5人を迎えて編んだものです.
 1章では,脳死・臓器移植をめぐり,知っておきたいこと,考えておきたいことを,13の事柄に整理して解説しています.また,2章には,脳死と判定され臓器を提供された方のご遺族のインタビューを収録しています.重い疾患に苦しみ,移植を待ち望む方の声は多く報じられていますが,提供したご本人はもちろん声を発することができず,提供した方の家族の声も,ほとんど伝えられずにきました.複雑な心境を率直に語られた,大変貴重なお話です.3章には,14名の方による,専門に応じた多様な見解が示されています.
 2010年7月からは,改定された法が本格施行されます.これは,家族が交通事故や水難事故,自殺未遂,脳の疾患などにより,突然,脳死状態になったときに,(本人が事前に拒否を示していなかった限り)誰しも「臓器を提供なさいますか?」という判断を迫られる日が来ることに他なりません.しかし,それにしては,あまりに知られていないことが多すぎます.個人の方のみならず,学校の「倫理」「現代社会」の時間などでも,このブックレットをご利用いただき,社会の中で「いのち」がどこに向かおうとしているのか,どこに向かうべきなのか,ともに考えていただければ嬉しく思います.


編者プロフィール

小松美彦(こまつ・よしひこ)
1955年生まれ.東京海洋大学海洋科学部教授.専攻は科学史,生命倫理学.著書に『死は共鳴する』(勁草書房),『脳死・臓器移植の本当の話』(PHP新書)など.

市野川容孝(いちのかわ・やすたか)
1964年生まれ.東京大学大学院総合文化研究科教授.専攻は医療社会学.著書に『身体/生命』(岩波書店),『生命倫理とは何か』(編著,平凡社)など.

田中智彦(たなか・ともひこ)
1967年生まれ.東京医科歯科大学教養部准教授.専攻は政治哲学,思想史.著書に『連続講義「いのち」から現代世界を考える』(共著,岩波書店),論文に「生命倫理の歴史的現在」(『三田学会雑誌』102巻1号)など.

生命倫理会議ブログ
http://seimeirinrikaigi.blogspot.com/


目次

はじめに                  編者代表 小松美彦
1章 知っておきたい,考えたい,脳死・臓器移植13のこと
                         香川知晶・小松美彦・田中智彦
<1>脳死・臓器移植とは何か/<2>日本における脳死・臓器移植/<3>2009年の臓器移植法改定/<4>脳死とは実際はどのような状態なのか/<5>脳死になると,ほどなく心臓が止まるのか/<6>「脳死=人の死」と科学的にいえるのか/<7>臓器移植によって本当に長生きできるのか/<8>「他人の臓器を待つ」とはどういうことなのか/<9>法改定で,私たち誰しもが備えるべきこと/<10>虐待を受けた子どもが「脳死」とされるとき/<11>臓器移植の代わりになる治療法はないのか/<12>脳死の保険治療打ち切りから尊厳死法へ/<13>科学技術と法律と倫理の関係
2章 家族として脳死と臓器移植を経験して
                         佐藤 凛 (聞き手・市野川容孝)
3章 さまざまな声
脳死臓器移植は愚行である(池田清彦)/脳死移植を考える(池内了)/小児脳死診断基準と長期脳死(杉本健郎)/脳死移植について(多田富雄)/脳死と倫理学(大庭健)/優生思想と功利主義による身体の資源化(荻野美穂)/聴こえない声を聴く(金森修)/生よりも,死よりも,高きもの(小泉義之)/改定臓器移植法は法の名に値するか(佐藤憲一)/これは,おそらく始まりに過ぎない(高草木光一)/希望をふりまくだけではなく,事実を伝えてほしい(柘植あづみ)/死を見据えて生きてこそ見える「いのち」の実相(爪田一壽)/「愛」を問いなおし,そして脳死となる人のいのちを大事にしよう(土井健司)/「長期脳死」をめぐる国会での暗闘(森岡正博)
主な参考文献/〔付録〕生命倫理会議 臓器移植法改定に関する緊急声明




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