フォト・ドキュメント 骨の戦世

65年目の沖縄戦

沖縄の土に埋もれた日本兵の遺骨は,何を私たちに問いかけるのか.現場を捉えた写真と論考.

フォト・ドキュメント 骨の戦世
著者 比嘉 豊光 , 西谷 修
通し番号 796
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2010/10/27
ISBN 9784002707969
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 80頁
在庫 品切れ
戦後65年,本土防衛の捨石とされた沖縄ではいまも日常的に戦没者の遺骨が発見されている.那覇新都心など,再開発の進むかつての激戦地跡から偶然掘り起こされた日本兵の遺骨・遺品は,私たちに何を問いかけているのか――.普天間移設問題に揺れる沖縄で,遺骨収集の現場をおさめた写真30点と「骨」「戦後」をめぐる論考集.

■著者からのメッセージ



 その瞬間,鳥肌が立ち身体が凍った.おそらくカメラを持つ手も震えていたのだろう.最初に撮影したそれはブレ,ピンぼけで写っていなかった.六五年前の沖縄戦の現場で収集された遺骨から「脳」が出たのだ.その瞬間に立ち合えた衝撃は忘れられない.
 二〇〇九年夏から二〇一〇年春にかけて浦添市前田,那覇市真嘉比(まかび),西原町などの激戦地跡から計一〇〇体余り,地中に埋まっていた日本兵の遺骨が一挙に出たのである.現在の沖縄の地上のざわめきがその骨たちを呼び起こしたのではなかろうか.
 今回の骨たちの写真は,私たちに様々なことを考えさせる.これまで私は1000人近くのオジー,オバーが島クトゥバ(方言)で語る戦世の話を記録してきた.生と死の境界を彷徨いながら生き延びた人びとの語る「死者への記憶」と,六五年間土の中に取り残された悲惨で孤独な骨たちの「死者からの記憶」は,生と死という対極に位置しているが,「戦争の記憶」を共有し,捨石にされたあの悲惨な沖縄戦,そして平和ボケした戦後六五年日本の「今日」を問うていると思う.
(比嘉豊光,本書より)
骨に呼ばれて
比嘉豊光
珊瑚のカケラをして糺しめよ
仲里 効
熱狂の夏の足下に
新城和博
ある“一兵卒”女性の戦中・戦後
宮城晴美
六五年目の黄泉がえり
西谷 修
「戦死」を掘る
――沖縄における遺骨収集の現在的展開
北村 毅
無数の罅(ひび)割れと襞(ひだ)に向かって
小森陽一
 写真撮影地一覧・
 沖縄本島中部の主な日本軍陣地,住民避難壕地図
<編者>
比嘉豊光
写真家.「琉球弧を記録する会~島クトゥバの記憶・記録~」共同代表.1950年読谷村生まれ.琉球大学文学部美術工芸学科卒業.写真集に『熱き日々 inキャンプハンセン』(共著,あーまん企画)『光るナナムイの神々』(風土舎),『赤いゴーヤー1970-1972』.
西谷 修
東京外国語大学総合国際学研究院教授.思想文化論.1950年生まれ.東京大学法学部卒業,東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退.著書に『不死のワンダーランド』(青土社),『沖縄/暴力論』(仲里効氏との共著,未来社),『理性の探究』(岩波書店)他.

<執筆者>
仲里 効
メディア工作者.1947年南大東島生まれ.法政大学社会学部卒業.著書に『ラウンドボーダー』(APO),『沖縄,イメージの縁』『フォトネシア――眼の回帰線・沖縄』(以上,未来社)他.映画『夢幻琉球・つるヘンリー』(高嶺剛監督)共同脚本.
新城和博
出版社「ボーダーインク」編集者,ライター.1963年那覇市生まれ.琉球大学文学部卒業.著書に『うちあたいの日々』『<太陽雨>の降る街で』『うっちん党宣言』(以上,ボーダーインク)他.
宮城晴美
沖縄大学・琉球大学非常勤講師.沖縄近現代史.1949年座間味島生まれ.著書に『母の遺したもの――沖縄・座間味島「集団自決」の新しい事実』(高文研).
北村 毅
早稲田大学琉球・沖縄研究所客員准教授.文化人類学,近現代日本社会論,沖縄研究.1973年生まれ.著書に『死者たちの戦後誌 沖縄戦跡をめぐる人びとの記憶』(御茶の水書房).
小森陽一
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授.日本近代文学.「9条の会」事務局長.1953年生まれ.北海道大学大学院文学研究科博士課程修了.著書に『小森陽一,ニホン語に出会う』(大修館書店),『天皇の玉音放送』(朝日文庫),『漱石論――21世紀を抜け出すために』(岩波書店)他.

書評情報

週刊朝日 2010年12月31日号
東京新聞・中日新聞(朝刊) 2010年12月28日
愛媛新聞 2010年12月21日
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