ほんとうにいいの? デジタル教科書


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編集部だより
著者からのメッセージ

 2010年,総務省は「学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析するための実証研究」を行うとしてフューチャースクール推進事業を開始した.デジタル機器とネットワークを用いた「協同教育」を「未来の教育」,つまりフューチャースクールの姿として位置づけたのである.この事業はいわゆる事業仕分けの影響もあり2年間で幕を閉じたが,現在も実証実験は続いている.また,この工程表に沿って文部科学省では「教科書のデジタル化」が進められている.
 明治以降,私たちは紙の教科書で教育を受けてきた.それがデジタルに置き換わるとするならば,学校教育に大きな変化をもたらすに違いない.そこまでは想像ができる.が,それはどのような変化であり,どんなメリットとデメリットがあるのか.そもそも,紙の教科書を今デジタルに置き換える必然性はあるのか.それにはどのようなコストがかかるのか.知りたいことは山のようにある.
 ところが,デジタル教科書に関心をもち,その是非について考えたいと思った瞬間に,そこには大きな壁が立ちはだかる.デジタル教科書に関して書かれた報告書やウェブサイト,書籍,どれを開いても見慣れないカタカナ語が氾濫しているのである.クラウドコンピューティング,ビットレート,オペレーティングシステム,タブレット等々,挙げればきりがない.意を決して,それらの意味を読み解こうとして辞書を開くと,さらなるカタカナ語が押し寄せる.これでは,いつまでたっても「デジタル教科書」とはどんなもので,なぜ今それが議論されているのかに,一般の人がたどりつくことはできそうにない.うっかり「紙の教科書をデジタルにすると,教育は良くなるのですか?」と専門家と称する人々に尋ねたりしたら,「もちろんです.私たちに任せなさい」と言われるか,冷笑されてさらに横文字を並べられるかのどちらかである.
 この状況は,公平とは言い難い.
 学校は誰もが9年以上の時間を過ごす場所である.デジタル教科書が現在の学校を根底から変える可能性をもつものであるのならば,それに関する情報はデジタル好きな人々以外にも,平等に理解可能な状態で開放されているべきであろう.そして,国民全員が平等にその議論に加わることができ,その是非を判断できるような情報が提供されていることが望ましい.
 本書では,パソコンやインターネットを使ってはいるが,その仕組みに専門的な関心を抱いていない読者を対象に,なるべくわかりやすく「デジタル教科書」にまつわる議論を解説し,その是非の判断の助けとなることを目指そうと思う.
(「はじめに」より)


著者プロフィール

新井紀子(あらい・のりこ)
東京都出身.一橋大学法学部およびイリノイ大学卒業,イリノイ大学大学院数学科修了.博士(理学).
専門は数理論理学(証明論)・知識共有・協調学習・数学教育.2001年より,教育機関向けの情報共有基盤システムNetCommonsを開発.現在,3000を超える教育機関で学校ホームページやグループウェアとして活用されている.2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める.
著書に『ハッピーになれる算数』『生き抜くための数学入門』(イーストプレス),『数学は言葉』(東京図書),『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)など.


目次

はじめに――平等に是非を議論するために
1 「デジタル教科書」とはどのようなものか
2 ソフトウェアから見た問題
3 デジタルコンテンツと学びの質
4 ネットワーク配備をめぐる政治状況
5 教育の「クラウド化」と予算
おわりに――デジタルへの興奮を自覚的に鎮める




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