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福島第一原子力発電所の深刻な事故以降,日本では,再生可能エネルギーへの転換か原発維持かをめぐって活発な議論が展開されています.そこでは,エネルギー転換支持派は経済的な負担を覚悟しながら安心安全な生活を願い,原発維持派は経済的負担を心配しています.しかし,深刻な需要不足に悩む日本では,エネルギー転換を行っても安全か経済優先かという対立にはなりません.
エネルギー転換には余計な人手がかかるのは事実です.多くの人びとは,そのための費用がそのまま負担だと考えますが,人余りの続く状況では,余計な人手がかかっても,既存の生産を減らす必要はありません.それどころか,新たな市場と雇用が生まれるために経済が拡大します.つまり,エネルギー転換は,安心安全と経済活動との両面でプラスなのです.しかし,利害対立が生まれ,産業構造の転換も必要になるため,いろいろな政治的摩擦が生じてきます.
本書ではこのことを解説した上で,具体的なイメージをつかむために,いくつかのエネルギー転換のシナリオを想定し,それが完全雇用の場合にはどのような負担を生み,不況の場合には消費全般をどの程度刺激し,どのくらいの新規雇用を生むか,推計を行います.さらに,脱原発にともなって懸念される温室効果ガス排出量への影響も試算します.
小野善康(おのよしやす)
1951年東京都生まれ.大阪大学社会経済研究所教授.専門はマクロ経済動学,国際経済学,産業組織論.東京工業大学工学部社会工学科卒,東京大学大学院経済学研究科修了・経済学博士.大阪大学教授,東京工業大学教授,内閣府経済社会総合研究所所長などを経て現職.著書にMoney, Interest, and Stagnation(Oxford University Press),Trade and Industrial Policy under International Oligopoly(Cambridge University Press, S. Lahiriとの共著),『成熟社会の経済学』,『景気と経済政策』,『景気と国際金融』(以上,岩波新書),『不況の経済理論』(共編著),『金融
第2版』,『国際マクロ経済学』(以上,岩波書店),『不況のメカニズム』(中公新書)など.
はじめに
1 エネルギー転換は負担にならない
妥協の余地のない対立/不況なら費用は負担ではない/事故の補償積立金と景気の状況/個別製品の価格上昇と一般的物価上昇との違い/グローバル経済での経済効果/負担の有無の分岐点/エネルギー転換のスケジュール確定こそ最高の産業政策/電源三法交付金の使い道
2 利害対立の構図
「経済のため」の実態は既得権の維持/エネルギー転換が生む不良債務/電力会社の負担の行き着く先/ケインズの『平和の経済的帰結』/電源三法交付金の使い道
3 エネルギー転換のシナリオ
経済効果の試算方法/想定するシナリオ/必要な設備容量と設備投資額の算出/廃炉費用/廃炉の順序/エネルギー転換の費用
4 経済全体への波及効果
就業誘発数/発電費用上昇の波及効果/経済波及効果の試算結果/代替的な試算方法/CO2排出量
5 結論 産業構造の転換と経済成長
試算に用いたデータの出典および参考資料
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