フォト・ルポルタージュ 福島を生きる人びと


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編集部だより
編集部からのメッセージ

 東日本大震災および東京電力福島第一原発事故が発生してから,三年が経ちます.本書の著者である豊田直巳さんは,震災が発生した翌日2011年3月12日に福島の現地に取材に入りました.突然の避難に戸惑い,苦悩する人びとや,人気の消えた町の様子は,前著フォト・ルポルタージュ 福島 原発震災のまち』にまとめました.本書は,その続編にあたります.
 本書では,引き続き福島の取材を続ける豊田さんが,「福島第一原発事故が人びとに何をもたらしているのか」に焦点を当て,まとめたものです.被曝の不安を抱えての暮らし,将来の展望がみえない避難生活,着々と進められている「除染」政策の矛盾,第一原発内での事故収束作業の実態など,福島の人びとが直面している問題が報告されます.なかでも,原発事故により,住みなれた家や仕事,家族との暮らしを奪われ,自ら命を絶った人たちについての話は,原発事故の被害の重さを感じさせます(第1章 原発事故が奪った命).
 2013年9月,東京にオリンピックを招致するため,安倍晋三首相は国際オリンピック委員会(IOC)で,福島第一原発事故について「状況はコントロール下に」あり,放射能汚染水の影響も「完全にブロックされている」と述べました.さらに,その2カ月前の7月,自民党政調会長の高市早苗氏は「爆発事故を起こした福島原発も含めて死亡者が出ている状況にない」と発言しました.しかし,本書を読めば,福島の現実が,こうした状況とはほど遠いものであることが理解できると思います.
 原発事故の事実や被害の実態を矮小化したい,という為政者の思い.そして,それに抗うことなく,福島の現実に目を向けずに忘却しようとしている日本社会.こうした状況は,崩壊したはずの「安全神話」をよみがえらせ,原発の再稼働を許す空気を生みだしていないでしょうか.原発事故は終わっていないという,その現実を直視することが,いま何よりも大切だと考えます.
 本書のタイトルを豊田さんは「福島に生きる人びと」とせず,「福島を生きる人びと」としました.そこには,原発事故後の世界を生きているのは,福島の人だけでなく,私たち一人ひとりである,という思いが込められています.私たち一人ひとりが,原発事故がもたらした現実に目を向けなければ,いま起きている被害を止めることも,また新たな原発事故を防ぐこともできない,との思いです.
 豊富なカラー写真と長期取材をまとめたルポによって,原発事故の現実,福島のいまを伝える本書をぜひ多くの方に読んでいただければと思います.
(編集部・田中宏幸)


著者プロフィール

豊田直巳(とよだ・なおみ)
フォトジャーナリスト.日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)会員.1956年静岡県生まれ.1983年よりパレスチナ取材を開始.1995年以降は中東のみならず,アジア,バルカン半島,アフリカなどの紛争地をめぐり,そこに暮らす人びとの日常を取材している.2011年3月11日に発生した東日本大震災・原発事故の翌日から,福島の現地に入り,取材を開始した.2003年,平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞.
著書に『戦争を止めたい――フォトジャーナリストの見る世界』(岩波ジュニア新書),フォト・ルポルタージュ 福島 原発震災のまち』(岩波ブックレット),『フクシマ元年』(毎日新聞社),写真集に『イラク 爆撃と占領の日々』(岩波書店),『イラクの子供たち』『パレスチナの子供たち』『大津波アチェの子供たち』(以上,第三書館)など.2013年,ドキュメンタリー映画『遺言――原発さえなければ』(野田雅也氏との共同監督)を完成.
ツイッター:@NaomiTOYODA
映画『遺言――原発さえなければ』公式サイト: http://yuigon-fukushima.com/


目次

はじめに――忘却がもたらすもの

第1章 原発事故が奪った命
1 「生きてきた証し」を踏みにじられて/2 喪失の果てに/3 「原発さえなければ」を遺して

第2章 被曝と健康への不安の中で
1 甲状腺検査への戸惑い/2 情報の隠蔽が招いた被曝

第3章 残ること,避難すること
1 言葉を奪われる母親たち/2 避難し続ける意志とためらい

第4章 新たな「安全神話」に抗して
1 誰のため,何のための除染か/2 分断された「美しい村」/3 疲弊する事故収束作業の現場

おわりに――私たちも福島を生きている

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