ブラック企業のない社会へ

教育・福祉・医療・企業にできること

ブラック企業に関連した被害相談,学生支援,鬱病対策など,各分野から現状分析と具体的提言をおこなう.

ブラック企業のない社会へ
著者 今野 晴貴 , 棗 一郎 , 藤田 孝典 , 上西 充子 , 大内 裕和 , 嶋﨑 量 , 常見 陽平 , ハリス鈴木絵美
通し番号 905
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット > 労働
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2014/07/09
ISBN 9784002709055
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 78頁
定価 682円
在庫 在庫僅少
流行語ともなった「ブラック企業」については,社会全体の問題と受け止める必要がある.教育,福祉,医療,企業の人事など,さまざまな分野の人が協働して立ち上がった「ブラック企業対策プロジェクト」.その各ユニットが,被害相談,学生支援,鬱病の広がりへの対策など,現状分析と具体的な提言をおこなう.


■著者からのメッセージ
 「ブラック企業」――.今では,この言葉を知らない人はいないだろう.
 ブラック企業問題は昨年(2013年)の参議院選挙の争点の一つとなり,同年8月には政府の対策も打ち出された.12月には2013年度流行語大賞のトップ10にも挙げられた.10年ほど前,インターネットに書き込まれた「悪口」にすぎなかったこの言葉は,今や日本の一大社会問題となり,政府の政策的課題ともなっているのである.
 ブラック企業問題は当初,「一部の「違法な企業」の問題」か,酷い場合には軟弱な若者の「受け止め方の問題」だと考えられてきた.ところが,ブラック企業の過酷な労務管理は新入社員を次々に鬱病に追いやる実情が明らかになった今日,この問題は「若者の使い潰し」として把握されるようになった.(中略)
 現場からの発信は,ブラック企業問題を「社会問題」として認知させるきっかけとなった.しかし,ブラック企業が社会問題として認知され,政府も対策を打ち出している現在も,労働相談の現場にはブラック企業問題が改善されている実感はない.それは,ブラック企業問題は,一部の特定企業を取り締まれば済むような単純な問題ではなく,日本の社会構造に関わる根深い問題だからである.(中略)
 詳しくは次のI部以降に譲るが,ブラック企業を支えてしまっているのは,過剰に企業に依存する日本の社会システム総体であり,この社会システムの中にどっぷりとつかっている私たち一人ひとりなのである.したがって,「社会問題」としてのブラック企業問題の解決のためには,社会システム総体に立ち向かうような,新しい社会のネットワークが不可欠である.(中略)
 そこで私たちは,そうした広い射程を持つ「ブラック企業対策プロジェクト」を立ち上げた.私たちの仲間は労働問題にかかわる弁護士,ユニオン,NPOの他,教育者,福祉関係者,人事関係者,社会発信を専門に行うソーシャルビジネスの運営者にまで及ぶ.ブラック企業が「根深い問題」だからこそ,取り組みの輪は幅広い分野にまたがると同時に,新しい社会的ネットワークの構築を可能にする潜在力をもった問題でもある.
 本書では,ブラック企業をそれぞれの断面から扱う.そして,ブラック企業に立ち向かうこの「プロジェクト」の取り組みを紹介する.本書が多くの方のブラック企業問題の理解に役立ち,新しい社会的対策の一助となれば,幸いである.
(本書「はじめに」より)
はじめに

Ⅰ ブラック企業対策プロジェクトの意義
今野晴貴

Ⅱ ブラック企業のない社会のために

1 労働相談の専門家にできること、すべきこと――相談ユニットから
嶋﨑 量

2 学校の教師・職員にできること、すべきこと――教育・就職ユニットから
上西充子

3 社会福祉とブラック企業――福祉・医療ユニットから
藤田孝典

4 人事担当者は、ブラック企業問題にどう取り組むか?――人事ユニットから
常見陽平

5 「ブラックバイト」問題への取り組み
大内裕和

6 「運動の実験室」――広報ユニットから
ハリス鈴木絵美
今野晴貴(こんの・はるき)
ブラック企業対策プロジェクト共同代表.NPO法人POSSE代表.著書に『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書),『生活保護――知られざる恐怖の現場』(ちくま新書)など.

棗 一郎(なつめ・いちろう)
ブラック企業対策プロジェクト共同代表.日本弁護士連合会(日弁連)労働法制委員会事務局長,旬報法律事務所.

藤田孝典(ふじた・たかのり)
ブラック企業対策プロジェクト共同代表.NPO法人ほっとプラス代表理事,著書に『ひとりも殺させない――それでも生活保護を否定しますか』(堀之内出版)など.

上西充子(うえにし・みつこ)
法政大学キャリアデザイン学部および同大学院キャリアデザイン学研究科教授.著書に『就職活動から一人前の組織人まで――初期キャリアの事例研究』(共著,同友館),共訳書に『若者の能力開発』(OECD,明石書店)など.

大内裕和(おおうち・ひろかず)
中京大学国際教養学部教授.「奨学金問題対策全国会議」共同代表.著書に『日本の奨学金はこれでいいのか!――奨学金という名の貧困ビジネス』(共著,あけび書房)など.

嶋﨑 量(しまさき・ちから)
ブラック企業対策プロジェクト事務局長.反貧困ネットワーク神奈川幹事.神奈川総合法律事務所.

常見陽平(つねみ・ようへい)
人材コンサルタント・評論家.著書に『「できる人」という幻想――4つの強迫観念を乗り越える』(NHK出版新書),『最新版 就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)など.

ハリス鈴木絵美(ハリス・すずき・えみ)
196カ国7000万人以上のユーザーをもつ社会改革のための世界最大の署名サイトChange.org(チェンジ・ドット・オーグ)日本代表.
ページトップへ戻る