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「定常経済」は可能だ!

なぜ現在の「成長経済」ではダメなのか.「定常経済」とは何か.どう移行していけばよいのか.平易な入門書.

「定常経済」は可能だ!
著者 ハーマン・デイリー , 枝廣 淳子 聞き手
通し番号 914
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2014/11/05
ISBN 9784002709147
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 64頁
在庫 品切れ
いま私たちは,持続可能な「経済のあるべき姿」の再考を迫られている.なぜ現在の「成長経済」ではダメなのか,「定常経済」とは何か,どのように移行していけばよいのか――.2014年の「ブループラネット賞」受賞者である環境経済学の大家が,日本の環境ジャーナリストの問いに平易に答える,第一級の「定常経済」入門.

■はじめに



――ハーマン・デイリーさん,こんにちは!
 温暖化の進行や生物多様性の危機,世界に広がる水や食料の不足,繰り返し起こる経済のバブル(次のリーマン・ショックがいつ起きてもおかしくない状況ですよね),貧困や格差の増大,モノは余っていても心は満たされない人が増えているなどの状況に加えて,世界に先駆けて人口減少・超高齢社会に突入した日本は,本当にみんなを幸せにしてくれる持続可能な「経済のあるべき姿」に向けて再考を迫られています.
 あちこちでいろいろな分野の人が考え直しをしようとしている今,デイリーさんが四〇年以上前から提唱されてきた「定常経済」(steady state economy)という考え方は,大きなヒントときっかけを与えてくれます.なぜ現在の成長経済ではダメなのか,「定常経済」とは何か,どのように移行していけばよいのかなど,いろいろ教えてくださいね.
 ええ,喜んで! 日本の「失われた二〇年」という言葉を聞くたびに,「成長志向型の経済がうまくいかなかったというその経験を活かしてもらえればよいなあ」と思います.「どうやったら成長の限界に適応したらよいか」を考える,つまり,「限界を破れないこと」は「成長経済の失敗」ではなく「定常経済の成功」なのだと考えられないか,と思うのです.
 日本は島国ですから,「限界」はよりわかりやすいでしょう.人口増加は世界的な問題ですが,日本はすでに人口増加の制限に成功しています.日本人は伝統的に,「もっと,もっと」と量的な拡大をするよりも,良い製品を開発すること,つまり,質的な発展を大事にする人々ですよね.そして,他の西洋諸国の多くに比べて,所得の平等な分配を大事にしようと社会全体が考えている国です.
 あらゆる国が,限界に直面しており,こういった方向に向かっていかなくてはなりませんが,「成長の限界にうまく適応する」ことについて,日本は,自発的に,または状況に強いられて,という面もあるでしょうけれど,世界の先頭に立っているように思えます.
 限界に直面したときの痛みの多くは,「成長しかない」と努力し,限界と闘うことから生じるのではないかと思っています.「じょうずに調整して限界に合わせよう」「経済成長のデメリットがメリットより大きくなってしまうタイミングを知ろう」とすれば,痛みは少なくてすむでしょう.
――次の一〇年が,「失われた三〇年」ではなく,「持続可能な経済にシフトする一〇年」になるように,そのための大きなヒントと枠組みを提供してくれる「定常経済」についてお話をうかがえることを心から楽しみにしています.デイリーさん,よろしくお願いします!
 はじめに

Ⅰ なぜ「定常経済」が必要なのか
 1 「経済成長」に頼って問題解決ができない時代
 2 本当に温暖化問題を解決するには
 3 「空いている世界」から「いっぱいの世界」へ
 4 「不経済成長」から「定常経済」へ

Ⅱ 「定常経済」とは何か
 1 「定常経済」の着想と戦い
 2 「定常経済」とは何か
 3 なぜ経済学は「成長」にしがみつくのか
 4 経済学における「定常経済」の系譜
 5 技術だけでは解決できない
 6 「定常経済」と雇用
 7 「経済成長」と「定常経済」に関する誤解・反論・心配への回答

Ⅲ どうやって「定常経済」へシフトするのか
 1 「うまくいかない成長経済」から「定常経済」へ
 2 持続可能な経済への移行には、考え方の移行が必要
 3 「定常経済」へシフトするために必要な「一〇の政策」
Herman Daly(ハーマン・デイリー)
1938年,テキサス生まれ.メリーランド大学公共政策学部名誉教授.1967年,バンダービルト大学経済学博士.ルイジアナ州立大学教授,世界銀行上級エコノミストなどを歴任.経済学に環境,地域社会,生活の質,倫理性といった要素を組み込んで“定常状態の経済学”を再定義し,環境経済学の礎を築いた.特に“ハーマン・デイリーの3原則”として知られる持続可能な人間社会に不可欠な指標を明示し,世界に大きな影響を与えてきた.1996年にもう一つのノーベル賞といわれる「ライト・ライブリフッド賞」,2014年には地球環境問題の解決に大きく貢献した個人や組織に贈られる「ブルー・プラネット賞」を受賞.邦訳書に『持続可能な発展の経済学』(2005年,みすず書房),『エコロジー経済学――原理と応用』(共著,2014年,NTT出版).

枝廣淳子(えだひろ・じゅんこ)
1962年,京都生まれ.東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了.環境ジャーナリスト,翻訳家.幸せ経済社会研究所所長.東京都市大学環境学部教授.訳書に『GDP追求型成長から幸せ創造へ』(アラン・アトキソン,2012年,武田ランダムハウスジャパン),『アル・ゴア 未来を語る――世界を動かす6つの要因』(2014年,角川マガジンズ,共訳)ほか多数.著書に『エネルギー危機からの脱出』(2011年,講談社),『わが家のエネルギー自給作戦』(2012年,エネルギーフォーラム)ほか多数.
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