江戸端唄集

「端唄」は,三味線を伴奏に哀切にして粋に詠われる民衆歌曲.洗練された近世文化の最後の調べを伝える.

江戸端唄集
著者 倉田 喜弘
通し番号 黄283-1
ジャンル 書籍 > 岩波文庫 > 黄(日本文学)
日本十進分類 > 芸術/生活
刊行日 2014/09/17
ISBN 9784003028315
Cコード 0192
体裁 文庫 ・ 並製 ・ カバー ・ 250頁
在庫 品切れ
日本人に愛唱されてきた歌謡は,時代により様々である.特に,近世末期から明治初期を絶頂期とした民衆による流行歌曲「端唄」は,日本歌謡史上,逸することが出来ない.三味線を伴奏にして,恋のやり取り,郷土の風物への思い,世相・政治への風刺が,哀切,粋な調べにのせて詠われる.爛熟,洗練された近世文化の最後の精華を伝える代表的な端唄を,初めて編纂する.


■編者からのメッセージ
 端唄の演奏時間は短い.一分ぐらいの曲もあるが,平均して一曲は三分.唄はすぐに口ずさめる.集中力を高めれば,少しぐらい長い曲でも,三十分あれば一応覚えられる.これが端唄の強味であるから,江戸末期,各地で愛唱された.
 次に唄のテーマ.題材は身のまわりの些事であるが,とりわけ「恋」の唄が多い.平安時代の勅撰和歌集以来,和歌の多くは恋を扱ってきた.その伝統を,端唄は身近な生活の中に見出す.むかしの和歌や俳諧を用いる場合もあるが,決して気取らない.
 歌詞から察しられるように,例えば「春雨」では梅と鶯が,「わがもの」では雪と千鳥が,それぞれ唄われる.江戸時代には,ありふれた,お馴染の風景であったから,日本画の良き題材にもなっている.美しい“日本の情緒”,それを端唄は追求する.

 まず初めに,紹介している「端唄」を選び出して,聴いていただきたい.収めたのは任意に選んだ十曲であるが,さきに触れた「春雨」のほか,浪花の恋を唄った「梅川忠兵衛」,男の心意気を示す「槍はさびても」,江戸の一風俗であった「奴さん」,新築を祝う「木やり」の変形「木やりくずし」,そのほかポピュラーな曲を収めた.
 音を聴いていただくと,文章として千万言を費やす必要はなくなる.穏やかな音の流れに包み込まれ,心の安らぐ思いに浸っていただけよう.そうした端唄を,江戸の庶民は愛好した.いや,世界各国の人たちも,穏やかな音を求めているようだ.
 じつは毎年正月のことだが,テレビが映し出すウィーン・フィルの演奏を,私は楽しんでいる.三十年ほど前になろうか,「美しく青きドナウ」をカール・ベームが指揮したとき,穏やかに流れるドナウ河が目の前に現れた.もちろん錯覚で,十秒あるかないかというわずかな時間.同時に日本の音曲,とりわけ端唄に想いを寄せた.オーケストラと何ら変わることはない.ごく一瞬,引き込まれる端唄が多数ある.
(本書「解説」より)


■演奏例
 以下に,本文の頁と演奏時間を示しました.音源は根岸登喜子の弾き唄いで,門弟に与えた稽古用のテープです.
(倉田喜弘)

 ・春雨(17頁) 4分00秒
 ・槍はさびても(29頁) 3分31秒
 ・棚のだるまさん(39頁) 1分57秒
 ・伽羅の香り(48頁) 2分11秒
 ・御所のお庭(61頁) 2分38秒
 ・館山(102頁) 3分38秒
 ・奴さん(104頁) 3分01秒
 ・梅川忠兵衛(118頁) 2分29秒
 ・木やりくずし(151頁) 2分14秒
 ・波の上(152頁) 2分26秒
端唄百番

俗謡十種
 一 大津絵
 二 伊予節
 三 とっちりとん
 四 二上り新内
 五 木やりくずし
 六 鎌倉節
 七 相撲甚句
 八 ぞんぞろりぶし
 九 都々逸
 一〇 数え唄

古典文芸二題
 端唄 源氏物語
 都々逸 百人一首

解説  倉田喜弘

端唄・俗謡曲目索引

書評情報

日本経済新聞(朝刊) 2014年11月30日
伝統文化新聞 2014年11月11日号
東京新聞(朝刊) 2014年11月7日
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