緑の家 (上)

(全2冊)

豊饒な想像力と現実描写で,小説の面白さ,醍醐味を十二分に味わわせてくれる,現代ラテンアメリカ文学の傑作.物語の壮大な交響楽.

緑の家 (上)
著者 M.バルガス=リョサ , 木村 榮一
通し番号 赤796-1
ジャンル 書籍 > 岩波文庫 > 赤(外国文学/南北ヨーロッパ・その他)
日本十進分類 > 文学
刊行日 2010/08/19
ISBN 9784003279618
Cコード 0197
体裁 文庫 ・ 並製 ・ カバー ・ 352頁
定価 1,012円
在庫 在庫あり
インディオを手下に従えて他部族の略奪を繰り返す日本人,アマゾン奥地の村の尼僧院で暮らすインディオの少女,砂の降りしきる町に流れ着き,娼館「緑の家」を建てる盲目のハープ弾き…….広大なペルー・アマゾンを舞台に,さまざまな人間たちの姿と現実を浮かび上がらせる,物語の壮大な交響楽.現代ラテンアメリカ文学の傑作.(全2冊)


■内容紹介
 現役バリバリの作家バルガス=リョサの最高傑作の文庫化です.作者バルガス=リョサは,1936年に南米ペルーで生まれ,1959年,短篇集『ボスたち』でデビューしました.63年,長篇小説『都会と犬ども』で一躍脚光を浴び,65年,今回岩波文庫に収録いたしました大作『緑の家』により,ラテンアメリカ文学を代表するもっとも優れた作家の一人として認知されるに至りました.そして,1976年には,若干40歳にして,国際ペン会長に就任(-79年).その他の作品に,『ラ・カテドラルでの対話』(69年),『パンタレオン大尉と女たち』(73年),『世界終末戦争』(81年)などの小説のほか,エッセイ集,フローベール論,ガルシア=マルケス論などもある,現代ラテンアメリカ文学の〈ブーム〉の世代を代表する作家です.1990年のペルー大統領選挙に出馬して,あのアルベルト・フジモリに負けたあたりから,ノーベル賞が遠のいたと言われていたのですが,やりました! 祝 2010年ノーベル文学賞受賞!
 さて,今回刊行される『緑の家』.ラテンアメリカ文学といえば,だれもが思い浮かべるのがガルシア=マルケスの『百年の孤独』ですが,あの魔術的リアリズムの傑作に十二分に拮抗する力をもった,物語性のきわめて強い作品です.この『緑の家』を読むかぎり,欧米を中心とする国々においてよく言われる「小説の行き詰まり」「小説の困難」などはまったくの嘘っぱちとしかおもえません.岩波文庫化にあたって底本とした新潮文庫版,その新潮文庫版が底本とした単行本(新潮社)が1981年に出版された当時は相当に話題になった本で,外国文学をやっている者で,この『緑の家』を読んでいない者は「もぐり」だ,と言われた,という噂もあるほどです.
 この作品は,作者が少年時代を過ごした沿岸部の乾燥した土地ピウラの町の思い出と,たまたま参加した密林地帯でのインディオ調査によって得たさまざまな一次資料をもとに書かれた長篇小説で,当初は別個の二つの作品として執筆を始めていたものが,書いているうちに二つの物語が互いに侵犯しあうようになってきたため,予定を変更して一つの作品にまとめられたといいます.ラテンアメリカの由緒ある文学賞ロムロ・ガジェーゴス賞の第1回受賞作(1967年)でもあります.
 治安警備隊員と二人の尼僧をのせたランチが川を遡り,密林の奥のアグアルナ族の部落に入りこんでいく場面からはじまるこの小説は,全体が77の断片から出来上がっており,五つのサブストーリーが循環するように語られていきます.密林の中の島で好戦的なインディオを手下に従えて他部族の略奪を繰り返す日本人フシーア,白人の搾取に抵抗しようとして逆に痛めつけられてしまうインディオのフム,カトリックのシスターに保護され,サンタ・マリーア・デ・ニエバという村の伝道所で暮らすインディオの少女ボニファシアと,彼女に恋をする治安警備隊の軍曹,どこからともなくピウラの町に流れ着き,砂漠の中に緑色をした娼家「緑の家」を建てる神話的な人物アンセルモ,リマの刑務所を出所してピウラに戻ってきたリトゥーマと,その彼を迎える三人の不良仲間,そして娼婦になってしまった彼の妻ラ・セルバティカ…….いったん書かれた小説の原稿を意図的にバラバラにして,シャッフルして綴じ直したような感じの小説ですが,それら時系列すら前後しつつ並行して進行するさまざまなエピソードのおもしろさに惹きつけられて読みすすむうちに,やがて場面と場面が結び合い,人物と人物がつながり合い,過去と現在がお互いを照らし出し,未開と文明が対決し,いつしか壮大な小説世界が立ち現れます.いくつもの支流が合流し,滔々と流れるアマゾンの大河のような小説といえばいいでしょうか.ミニマリズムの作品とはちがって,小説とはまさにこうあってほしいものだ,と再確認させてくれる大作です.分量はそれなりにありますが,読後感は圧倒的です.
バルガス=リョサ(Mario Vargas Llosa、1936- )
ペルー、アレキーパ生まれ。1958年、国立サン・マルコス大学卒業。1959年、短篇集『ボスたち』でデビュー。63年、長篇小説『都会と犬ども』で一躍脚光を浴びる。66年、大作『緑の家』により、ラテンアメリカ文学を代表するもっとも優れた作家の一人として内外より讃辞を受ける。1976年、40歳にして、国際ペン・クラブ会長(-79年)。『ラ・カテドラルでの対話』(69年)、『パンタレオン大尉と女たち』(73年)、『世界終末戦争』(81年)などの小説のほか、エッセイ集、フローベール論、ガルシア=マルケス論などもある。

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