西域 探検の世紀




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編集部だより
百年前、西域は……

楼蘭
 西域とは中央アジアの東半分、およそ中国の新疆ウイグル地区を指します。 ここを通るシルクロードは、かつて玄奘三蔵が経典を求めてインドへ向かった『西遊記』の道でもありました。19世紀後半、人を寄せ付けない沙漠と思われていたこの地から、楼蘭や敦煌などの遺跡やすばらしい仏教美術が次々と発見・発掘され始め、世界の注目を集めるようになりました。各国からの探検家が西域をめざし、発掘競争がさかんになってゆきます。
 しかしこの時期、この地はまた別の意味でもひそかな注目を集めていました。北からは、港を求めて南下をもくろむロシア帝国、南からはインド(現在のパキスタンを含む)を領有する大英帝国が、西域に主権を持つ清国の弱体化に乗じて、それぞれ勢力を広げるべく暗闘を繰り広げていたのです。
 この二大帝国による、中央アジア全域から西アジアにわたる勢力争いは「グレイト・ゲーム」と呼ばれています。西域では、その西端のオアシスの町カシュガールにイギリスとロシアがそれぞれ領事館を開き、そこが情報網の中心となっていました。
カシュガールのイギリス領事館とロシア領事館
 本書は、これまで別々のものと見られがちだった探検と政治 ― グレイト・ゲームが、実は複雑にからみ合っていたことを、いくつもの興味深いエピソードをちりばめながら明らかにしてゆきます。
 そしてここで登場するのが、日本から唯一、西域での発掘競争に挑戦した西本願寺大谷探検隊でした。西本願寺法主大谷光瑞ひきいる西域探検隊が出発したのがちょうど100年前の1902年8月。しかし三次にわたる彼らの探検も、グレイト・ゲームの現実と関わらざるを得ないのでした……
スヴェン・ヘディン
スウェーデン
1865−1952
マーク・オーレル・スタイン
イギリス
1862−1943
橘瑞超
大谷隊
1890−1968

 さて、本書の随所にキムという名前の少年が登場します。西域から見ればカラコルム山脈を越えたはるか南、英領インドはラホールの下町に暮らし、白人でありながら現地社会に溶け込んで、友とするのはアフガン人の馬商人、師と仰ぐのはチベットから訪れた神秘的な仏教僧というこの不思議な少年、実は当時(20世紀はじめ)のベストセラーに登場する架空の人物なのですが、彼は本書のテーマとどのように関わるのか……あとはどうぞ読んでのお楽しみに。

著者紹介
金子民雄(かねこ・たみお)氏は、1936年、東京生まれ。日本大学商学部卒業。Ph. D.
中央アジア史の調査研究を続け、アフガニスタン、中国新疆ウイグル自治区、チベットなど各地に早くから入って、現地を知り尽くしている。とりわけ探検史については自らシルクロードをたどって遺跡を訪ねると同時にヘディン、スタインなどの探検家に関する資料も数多く収集してきた。
 著書は、東南アジア史についてのものも多いが、西域関連に限っても『ヘディン伝』(中公文庫)、『中央アジアに入った日本人』(中公文庫)、『動乱の中央アジア探検』(朝日文庫)、『天山北路の旅』(連合出版)、『宮沢賢治と西域幻想』(中公文庫)、『辺境の旅から』(古今書院)、『アフガンの光と影』(北宋社)、『タクラマカン周遊』(山と渓谷社)、『楼蘭への旅』(JTB)他多数を数える。
 訳書としては、岩波文庫、F.キングドン‐ウォード著『ツアンポー峡谷の謎』(青478-2)

目次
 はじめに
序章 ラホール博物館 ― キプリングの『キム』
第一章 情報戦の幕開け
カシュガリアのグレイト・ゲーム(英露情報戦)
陸の孤島カシュガール
敦煌莫高窟遠景
第二章 西域発掘競争
発掘競争が始まる
バウアー文書の発見
探検家スタインとヘディン
砂中に埋れた古代都市
第三章 西本願時西域探検隊
ロンドンの大谷光瑞
第一次探検 ― インド隊
第一次探検 ― 西域隊
日露戦争と西域探検
キジル千仏洞
第四章 西本願寺第二次探検
流砂からの贈り物 ― 楼蘭、李柏文書の発見
英インド省の疑惑 ― カシュガールからの秘密報告書
本願寺大谷隊の後始末
インドにて ― 探検終了と再征準備
アスターナの古墳
第五章 探検時代の終わり――本願寺第三次調査隊
新たなる疑惑
瑞超、再度の西域挑戦
崑崙探検始末
敦煌での大谷隊
終章 グレイト・ゲームに終わりはない  
 参考文献  
 あとがき  

岩波新書にはこんな本もあります
中央アジア歴史群像 加藤九祚著 新赤版419
西遊記 ― トリック・ワールド探訪 ― 中野美代子著 新赤版666
インドとイギリス 吉岡昭彦著 青版D36
異文化理解 青木保著 新赤版740
蓮如 ― 聖俗具有の人間像 ― 五木寛之著 新赤版343
(2002年3月)



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