粘土でにゃにゅにょ

土が命のかたまりになった!

粘土が心身に重い障がいをもつ人の心を開いた.

粘土でにゃにゅにょ
著者 田中 敬三
通し番号 ジュニア新書 602
ジャンル 書籍 > 岩波ジュニア新書 > 趣味・旅行
刊行日 2008/07/18
ISBN 9784005006021
Cコード 0237
体裁 新書 ・ 並製 ・ カバー ・ 222頁
在庫 品切れ

ぬるぬる,ねちゃねちゃ,みんなを夢中にさせる粘土の世界.相手に合わせ自在に変化する粘土は,心身に重い障がいのある人たちの心も開いていきました.ただの土が「命のかたまり」として光を放つまでに,どんなドラマがあったのでしょう.滋賀県の「第二びわこ学園」を舞台とする「にゃにゅにょ」の世界へようこそ!

作品名「アース」 

作品名「アース」】 体に強い硬直があり寝たきりの状態だけれど,力強い左足で3メートルにも粘土を棒状に伸ばすことができる英史さんの作.足の裏だけで大地と接している私たちと違い,体全体で地球・大地を感じている英史さんの思いが作品名に込められているのかも,と著者は紹介している.

 

■内容紹介
 この本には77枚もの写真が載っています.泥んこ粘土を顔や頭に塗りたくったり,帽子のように粘土を頭にのせたり,ムニューと手からしぼり出したり,プスプスと棒で刺したり,玉入れのように投げてみたり…….この本でいう「粘土」とは,油粘土や紙粘土ではなく土の粘土のことですが,そのあそび方のあまりの大胆さに,びっくりする人も多いかもしれません.でも,「どんなに泥んこになってもいいよ,自由にあそぼう」と言われたら,すごく幸せに思いませんか?
  それから,長くのばした粘土が球にまるめられたもの(写真)とか,粘土板をただ手でばんばん叩いたものとか,ぺらぺらした粘土が積み重なったものだとか,崩れ落ちかけている泥だんごの山だとか,一風変わった「作品」も満載です.「これを作れ」と課題を与えられるようなことはなく,心の趣くままに作っていいようです.
 この本の舞台は滋賀県,琵琶湖近くの「第二びわこ学園」という施設です(現在は,びわこ学園医療福祉センター野洲に改称).粘土で大胆にあそんでいるのは,心身に重い障がいのある「園生さん」たち.耳や目が不自由で言葉での意思疎通が難しい,手足にマヒがあり自由に動けない,逆にじっとしていることができず,特定のものに強いこだわりがある……といった人たちが,粘土に自分の思いをのせてあそぶようになったのです.
 偶然のきっかけから「第二びわこ学園」の職員になった著者は,「園生さんと,粘土であそぼう」とただそれだけを考え,約37年前,試行錯誤で粘土活動に取り組み始めました.しかし,最初は著者の気持ちは空回り.粘土の感触になじめず,多くの園生さんは強い拒否反応を示しました.それが上記のようになるまでには,どんなドラマがあったのか? 「粘土は相手に合わせるしなやかさを持っている」「結局,粘土が先生だった」と著者は書いていますが,園生さん―粘土―著者(職員)のゆっくりとした歩みは,いろいろなメッセージを秘めているように思います.
 うれしさや,時には苛立ち,悔しさも,黙って受け止めてくれる粘土のような存在の大切さ,結果を性急に求めず「待つ」という相手への信頼,押しつけられるのではなく自由に表現することの力強さ…….第二びわこ学園の「にゃにゅにょ」の世界は,本当は大事なことのはずなのに,効率や利益ばかりが追求される世の中でないがしろにされているものに気付かせ,励ましてくれるようです.読者のみなさんは,どんなメッセージを受け取るでしょうか? とても楽しみな気持ちで本を送り出します.

はじめに

1 重い障がいをもつ子どもたちと出会う
 豪快な叔母と映画『夜明け前の子どもたち』/私を圧倒した厚信さん/熱きうねりの中へ/砂糖の卸問屋に生まれて/下町の子ども時代/思い描けなかった将来の夢/重症心身障害児施設・第二びわこ学園/学園の職員になった,が……/日常の世話に明け暮れる日々/子どもたちの欲求に応えたい……

2 粘土活動,はじまる!
 何だ? この作品は――一麦寮の衝撃/「自由にやらせよ,手を出すな」/とまどいながらの出発/作品を焼いてみたい/粘土がサークル活動になった/「粘土なんて,しょせん職員のあそびや」/粘土室,完成!/学園の全員を対象に/粘土が拒否にあう/これだ!――事態を打開した出来事/岡崎園長のこと

3 粘土の世界へようこそ
 森羅万象が宿る粘土室/つるつるのスキンシップ/音であそぶ/顔に塗る/頭にのせる/粘土の「お菓子」/粘土室の窓ガラス/粘土室は遊園地/感触あそび――粘土でなくてもいい/五感にはたらきかける/「薬」代わりの粘土/粘土に会いに来た人

4 土が命のかたまりになった!
 英史さんの黄金の左足/三メートルの作品を焼く/アース/永達さんの「お祝いの壺」/繊細な「貝がら」と焼き方の問題/源さんの「赤ちゃん」/「あご」での挑戦/「あご」とロクロ/粘土に表れた「心の内面」/「流れ落ちる」作品/「鼻クソ」千個で作品をつくる/「粘土が先生」

5 芸術は爆発だ!?
 1 あふれるパワー――谷口ちよ子さん
  本当に作品が爆発/破壊と創造/ちよ子さんの作品のファン/周囲への穏やかな反応/心と体の縛りをほどいた粘土
 2 やさしさを形に――新見次郎さん
  次郎さんが学園に来るまで/絵の才能が粘土でも/「ブドウ」の発見――平面から立体へ/次郎さんにつくられたものたち
 3 「天才」の奇跡――戸次公明さん
  公明さんとの出会い/学園内の混乱と試行錯誤/堰を切ったように生まれる粘土作品/公明さんの儀式/万物には「顔」がある

6 粘土の小宇宙の大きな広がり
 外に向けて発せられる作品のパワー/「百万円の偽金よりも,本物の百円がいい」/裾野を広げる――世界陶芸祭「土をうたう」展/公明さんの陶筒レリーフ/粘土が人を連れてくる/近くの小学校との交流/「なんで粘土がでけへんのや」/映画『わたしの季節』とのめぐり合い/粘土室にカメラが入る/新たな始まり

あとがき

書評情報

日本経済新聞(朝刊) 2008年10月12日
毎日新聞(朝刊) 2008年9月25日
京都新聞(朝刊) 2008年8月18日
京都新聞(朝刊) 2008年8月10日
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