井上清史論集 1

明治維新

硬直左翼史観,反動的史学と戦い,科学的で血の通った近代史研究をめざした歴史家の単行本未収録論集.

明治維新
著者 井上 清 , 松浦 玲 解説
通し番号 学術111
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 歴史/地理
シリーズ 井上清史論集
刊行日 2003/11/14
ISBN 9784006001117
Cコード 0121
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 362頁
在庫 品切れ
戦中戦後の皇国史観の呪縛と硬直した左翼史観,反動的な歴史学と闘い,科学的で血の通った近代史研究をめざした歴史家井上清.その軌跡は,学界の狭い枠を超えて,明治維新,軍国主義,天皇制と被差別部落,女性史等の広範な分野におよぶ.戦前からの単行本未収録論考でたどる明治維新の意義と明治的人物たちの肖像.

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「井上清史論集」は,硬直した左翼史学や反動的な歴史観と闘いつつ,戦後歴史学に大きな足跡を残した井上清氏の,単行本未収録の論考を中心に編集された.1明治維新,2自由民権,3日本の軍国主義,4天皇の戦争責任の4冊である.
  第1巻は「明治維新」.井上氏には,『日本現代史1明治維新』(東大出版会,1951)と,『日本の歴史20 明治維新』(中央公論社,1966)という明治維新の通史があるが,本書はその時々の社会と学問の要請に応えつつ執筆された論考集である.解説は松浦玲氏.
  井上清氏は,司馬遼太郎氏との対談で,明治維新について語っている.
「明治維新というもので,総括的に国民が形成され,外国からの独立の基礎ができ,つまりのちの自由民権運動のようなものが出てくる条件をつくりだした.何かやっぱり日本は新しくなり,新しい国ができて,それが一つの進歩であった……歴史として大事なことは,革命か絶対主義かというような議論じゃなくて,日本社会が維新前と維新後で,どう,どこまで変わったのか,またその変えていった力はどこにあったのか,それを明らかにしたうえで,全体として,だからこれは革命だといってもよろしいというのならいえばいい」
  日本歴史をマルクス由来の唯物史観の公式になんとかあてはめようと四苦八苦していたアタマの硬い研究者たちを尻目に井上氏は,明快な文章で日本近代史を書き換えていった.読者は戦前の困難な時代にも自らの史観の筋をまげることなく執筆された論文,戦後の遠山茂樹氏らと激烈な論争,そして故郷土佐への愛郷心に満ちた人物論など,この豪快な歴史家の軌跡をたどることができる.今日,狭い業界内の不毛な罵り合いに終始する,<つくる会><自虐>両サイドの日本史研究への過去からの痛烈な批判であり,いまなお読み直すに足る興味深い一巻である.
井上 清(いのうえ きよし)
1913-2001年.歴史学者.高知県生まれ.東京大学国史学科卒業.辻善之助教授に師事し,卒論は「近代改革史」.1954年京都大学人文科学研究所助教授,61年から77年まで教授をつとめる.著書『日本の歴史』(岩波新書),『日本現代史1 明治維新』『日本女性史』『日本の軍国主義』『西郷隆盛』ほか多数.
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