日本人論 明治から今日まで

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編集部だより
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 今,『国家の品格』という本がベストセラーになっていることも,ある意味では日本人ほど自らの国民性を論じることを好む国民は珍しいという事情と相通じているのではないでしょうか.歴史的にみても,明治期以降だけでも万巻の書が,日本人の特質について考察し,その折々には広く関心を集めました.とはいえ,ある時間が経過してしまうと,一時のブームは忘却され,また次なる日本人論に飛びつくという「習慣」が形成されてきたように思えます.本書の著者も,過去の日本人論を冷静に検証する気風が欠如してきたことに憂いを感じ,明治維新以降今日までの日本人論の流れを客観的にたどる試みが重要であるという立場から本書の執筆を試みました.
 著者は数十年にわたり,日本人の生活・文化・心理についてさまざまな角度から考察し,「日本人学」を構築しようとしてきた研究者であり,その社会心理学での業績も含めて,マスコミでも長年強い影響力を持ってきました.
 その成果は,『日本人の心理』『日本的自我』等に示されています.本書は,この研究の過程で巡り会った千数百点にのぼる国民性に関する論著の中から,著者が代表的だと考えるものを選び,明治期80強,大正期約30,昭和戦前期約100,占領期30強,現代(一)約70,現代(二)約130点について歴史的に位置づけ,簡潔な紹介が付されています.
 明治以来の社会変動の中で,日本人論は日本人の外国に対する自国意識の高まりによって顕著に現れてきたこと.明治期の前半には日本人劣等説,後半には優秀説が対照的に現れたこと.大正期にはより客観的に日本人をとらえる国際主義が登場し,昭和戦前期には風土や文化との関わりで緻密に日本人が論じられ,日中戦争以降は日本精神論を中心とするファシズム日本人論が盛んになった.そして占領期には,敗戦前から180度転回した日本人の反省と新しい国民性への展望が試みられるようになるというのが歴史的概観でありますが,このような大づかみな概観以上に各章で展開されている具体的な論著についての考察は興味深いものがあります.それぞれの時代と切り結ぶ中で,いかなる日本人論が登場してきたかを知ることは,広範な読者にとって格好な書物であるといえるでしょう.論じられている主題は,風土論,自然観,宗教意識,美意識など多岐にわたっています.
 『甘えの構造』も『菊と刀』も『日本人とユダヤ人』も近現代日本の流れの中で,その意義が浮き彫りにされています.500点余の論著が描き出した「自画像」についてどのような感想を持っていただけるでしょうか.ご一読をお薦めいたします


著者紹介

南 博(みなみ ひろし)
1914〜2001年.1940年京都大学卒業.43年コーネル大学大学院卒業.専攻=社会心理学.一橋大学教授退官後は,同大学名誉教授.日本心理センター所長,伝統芸術の会会長,全日本気功協会会長を務めた.主著『日本人の心理』『日本人の心理と生活』『日本人の芸術と文化』『日本人論の系譜』『日本的自我』『家族内性愛』『体系社会心理学』『行動理論史』『人間行動学』など多数.


目次

序説  国民性とは何か

明治期
I 明治維新と日本人の自我意識
日本人不変説/日本人変化説/日本人劣等説

II 欧化主義対日本主義
国粋主義から日本主義へ/日本人論の成立/日本人優秀説/国民性反省論

大正期
III 総合的日本人論の展開
国際主義の日本人論/西洋崇拝とその批判/大正文化と日本人論/多角的日本人論

昭和(戦前)期
IV 日本文化論・日本風土論
日本文化と日本人/風土と国民性/批判的日本人論

V ファシズム日本人論
国民精神と日本精神/大和魂と武士道/日本精神と日本文化

占領期
VI 占領期の日本人論
敗戦の教訓と反省/『菊と刀』とその批判/日本人研究の発展/伝統の再評価

現代(一)
VII 総合的日本人論の流れ
第一期――対人関係論/第二期――集団心理論/第三期――生活心理論

現代(二)
VIII 日本人論の発展と細分化
風土論・自然観/生活文化論・家族論/日本人の美意識/日本的言語表現/日本人の宗教意識/日本人の法意識と政治風土/「日本的経営」論/国際社会と日本人/天皇制と昭和の終焉

結語



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